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夏樹、またまた遊ばれて早とちりする

 ハル兄が今度また日本に来るって連絡があった。


 ええっ! それって。それって! 

 もしかして、俺たち4人(春夏秋冬)と由利香さんを引き合わせるって事? とうとうその日が来たのか! 

 と、かなり覚悟していた俺なんだけど、どうもそうじゃないらしい。

 引退の日にちが決まったから、日本にも挨拶に来るってだけだそうだ。


 だったら…。

 俺たち3人のうち、誰かがまた用事をこさえて、店を留守にしなくちゃならないよな。

 俺は当然のように、冬里が京都に行くって言うもんだとばかり思っていた。


 だけど。

「ええ?! シュウさんが? 」

 そうなんだよ。

 今回はシュウさんが、あの真面目で店の事を1番に考えるシュウさんが、どこかへ旅に行くって自分から言い出したらしい。しかもなんだか長ーーくなるって冬里が言うんだよ。

「なんでシュウさんが長い旅にでちまうんすか? 」

「だってさー、長い短いはともかく、僕たち4人ともいるわけに行かないじゃない? 由利香がいるんだから。それに、今回、ハルは椿にも会いたいって事だからね。2人揃って交際宣言させてあげなきゃねー」

「だからってシュウさんが急にそんなこと言い出すなんて、ヤですよ。俺はてっきり冬里が京都に行ってくるって言うとばかり思ってたのに」

「へえー? 夏樹はそーんなに僕に京都へ行ってほしいの? 僕がお邪魔なんだー。へえー、そう」

「え? ち、違いますよ、なんて言うか、こういうときは冬里が、その、気を利かせて」

「僕は気が利かない男なんだねー」

「いや! 違う! 待って、とうりーーーー!」

(その後、夏樹がどんな恐ろしい目に遭ったのか、それは2人しか知らないことだった)




 で、その後、真相を確かめるべく、俺はシュウさんにじかに聞いてみることにしたんだ。

「シュウさん。今回はシュウさんが長いことどっかへ行くって、本当っすか? 」

 ランチが終わってちょっと時間が空いたところで、俺は冬里がいないのを確認して(冬里がいるとまたややこしいことになりそうだからさ)シュウさんに言った。


 はじめ、ちょっと怪訝な顔をしていたシュウさんは、「ああ」と言って頷く。

「ハルが来るからね。まだ私たち4人が揃って由利香さんに会うわけには行かないから」

「だからって、なんでシュウさんなんすか? じゃあ、俺がどっか出かけますよ」

 ちょっと必死になっちまった。

 たたみかけるように言う俺を、驚いた顔で見ていたシュウさんは、そのあとちょっと苦笑して言う。

「夏樹はハルに会いたいんじゃないの? 」

「会いたいっす。すんごく」

 ふくれて言う俺を今度は優しい顔で見ながら答える。

「だったら、夏樹はいなくてはね。…冬里もハルに会いたいらしいから」

「冬里が? 」

「ああ、前回少し話したりない事があったらしいからね」

「そうっすか…」


 そうだったんだ。

 冬里も何かハル兄に言ったり聞いたりしたかったんだ。じゃあ配慮の足りない言い方しちまった。ちょっと反省した俺は、――でもそれならシュウさんだって会いたいよな、と顔を上げると。

「私はもう、ハルに会えなくてもいいんだよ」

 ちゃんと察してそんな風に言ってくれる。

 けど、けど。

「シュウさん! 」

「? 」

「駄目ですよ! せっかく店がここまでになったって言うのに! 」

 必死で言う俺に、シュウさんは訳がわからないと言う顔をしている。

 俺はそこで冬里が入ってきたのも気づかずに言い続ける。

「また俺を放ってどっか言っちゃうんすか? ヤですよー。行かないで下さいよー。そりゃ、いつまでもここにいられるとは思ってないっすけど、今は嫌です。まだシュウさんに色々教えてもらいたいんです! 」

 シュウさんの腕をつかんで言う俺に、シュウさんはポカンとしながらなすがままだ。なんだよー、答えたくないのはわかるけどー。


 すると、パンッと手を叩く音がした。驚いて振り向くと、冬里が何やらニーッコリ笑って裏階段の入り口に立っていた。

「シュウってば、そんなに大事なことを僕たちに隠してたんだね」

「だいじなこと? 」

「だって、今の話じゃさ、シュウはこれを機に『はるぶすと』を辞めて、またどこか長い旅に出るんだよね? 」

「旅? ああ、旅行に行くとは言ったけど…。『はるぶすと』を辞めるって? 長い旅? …夏樹、それはもしかして…」

 ニヤニヤ顔の冬里に答えていたシュウさんが、いきなり俯いてしまう。

 やっぱりそうなんだ、嫌だよ! 

 と、思っていると、シュウさんの肩が小刻みに揺れ出した。

「え? 」

 俺が言ったのと同時にシュウさんは今度は顔を上げて、大笑いしはじめた。


「アハハハ!、な、夏樹、ちょっと…、…まって。ご、誤解…」

 なかなか笑いが止まないシュウさん。けどしばらくして、ようやく立ち直ったみたいだ。

「あはは、もしかして夏樹は、また日本語を解釈し間違えたのかな? 私は今回、店の庭に植える薔薇を探しに、ヨーロッパへ行こうと思っているだけだよ」

「薔薇…、すか? 」

「ああ、だから1週間ほど店を頼みたいと冬里には言っておいたんだけど。…まさか、冬里」

 シュウさんがあきれたように問いかける。

 ん? と言う顔で首をかしげる冬里に、あっ、と気がついてくってかかる。

「冬里! あのときすごーーーーく長い旅だって俺に言ったじゃないっすか! 」

「うん。だってくそ真面目なシュウが、1週間も店をあけるんだよ。すっごーーく長いじゃない? 前代未聞、だよ」


 やられた。

 俺ってば、また冬里に遊ばれたんだ。

 がっくりと肩を落として「…すんませんでした、シュウさん」と脱力する俺に、シュウさんは微笑みながら言ってくれた。

「いや、悪いのは冬里だからね」

「異議ありー」

 すかさず手を上げて言う冬里。けど、あっけなくはねのけてシュウさんが続ける。

「…却下。それでね夏樹、私は当分どこへも行かないし、店を辞めるつもりもないよ。正確にあと何年かはわからないけれど。でも、夏樹はそんなふうに私のことを思っていてくれたんだね、ありがとう」

 と、きちんと頭を下げるシュウさんに、俺は照れ笑いで返す。

「テヘヘ」

「まあ、あまり長くなると、由利香さんがおばあちゃんになってしまうから、その前にね」

「うわっ、それまで椿も待たせるんすかー? それじゃ椿があんまりすよ」

「そうだね。だからそのあたりは時期を選んで、というより、2人が結びつく方がよっほど早くなると思うよ」

「そうっすね。じゃなきゃ困りますよ」

 とまあ、シュウさんがどっかへ行くのはただの旅行だったと言うオチで、この場はまーるく収まることが出来たってわけ。


 ほんとに、いつも何だかありますが、『はるぶすと』は、本日も、平常通り営業しております。


 って、これ! いっぺん言ってみたかったんだよな。

 あ、まだ話は続くっすよ。悪しからず。




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