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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter4:緋線の剣闘士
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生徒会室問答事件

 生徒会室で待ち受けていた三人のうちの一人、ポニーテールの少女、空野(そらの)沙良(さら)は口を尖らせてそっぽを向いていた。身長は平均的で左腕に『副会長』と書かれた腕章をつけている。

 副会長といえば会長の補佐、切れ者の印象が強いが、彼女からは全くそんな気配は伺えず、むしろ活発で活動的な印象が強い。


「だから手遅れだってアタシ言ったのに。緋色は真面目なんだから」

「しかし、初めから沙良(さら)が静かに待っていてくれれば威厳は保たれたと思うのだが?」

「元はと言えば敵の本拠地に連絡もなしに単身で向かった緋色が悪いんでしょ! まったく……心配して追いかけようにも邪魔が入るし……この黄金縦ゴリラが」


 最後に一言、小さく、しかし確かに聞こえる声で沙良は呟く。その一言に左腕に『会計』の腕章をつけた、金髪縦ロール少女が額に青筋を立てる。

 会計といえば部活動等の学校活動で使われる資金運営の担当であり、また知的な印象があるが……彼女もまたそんな気配を伺わせない。むしろ高飛車で世間知らずなお嬢様を体現したような姿をしているため、この人に会計を任せていいものか、と不安になる。


「あら。あらあらあら。ミス沙良、邪魔とは一体何のことでしょう? 因みに私の血液型はAB型なのでB型しかいないゴリラには該当しないと伝えておきます」

「あ? 金髪で縦ロールの脳筋ゴリラはアンタ以外いないでしょうが」

「ゴリラではありません! (わたくし)の名は(さかえ)千佳(ちか)! 栄一族の次期当主にしてサカエカンパニー次期社長、栄千佳よ!! いい加減名前を覚えてくださらない? それともそのトリ頭では三歩歩けば忘れてしまうのかしら」

「うっさいわね。わたし嫌いな動物は学名で呼ぶの。ニックネームなんて興味ないわけ。それとも自分がゴリラという自覚がないのかしら。自分の姿を見たことないなら手鏡貸してあげようか?」

「結構。(わたくし)、貴方のような俗物が持つ安物の鏡になど写りたくありませんので」

「なんだとぉ!!」

「やりますか!? 」

「いや、話が進まないのでやめてくれませんか」

「「あぁ!?」」


 思わず口を挟んだ蒼也に、二匹の獣が殺気を放つ。邪魔をすれば殺す。なんとも理不尽極まりない対応である。

 しかし蒼也も引かない。にこやかな笑顔(目は笑ってない)で二人を交互に視線を向けて、もう一度、低く静かに言った。


「話が進まないので……やめてもらえませんか?」


 先ほどと同じ台詞のはずなのに、先ほどとは違い、その一言一言に冷気が宿っていた。その殺気はまさしく的に向けるものだ。味方である恵美ですら圧に晒され一歩後ろに引いてしまう。

 そんな冷たい視線を受け、しかし沙良は不敵に笑ってみせた。まるでその程度の殺気には慣れていると言わんばかりの笑みだった。


「ふん……なんだ、なよい顔して案外短気ね」

「敵陣の真っ只中で仲良く談笑できるほど僕は図太くなくてね」

「敵陣……ね。警戒するのはいいことだけど早とちりは良くないわ」


 初対面の人間によくもそこまで純粋な殺気を放てるものねぇ、などと紅音は呑気に思う。

 沙良と千佳がようやく口喧嘩をやめたので、蒼也は気を取り直して緋色に問うた。


「白金、事は手短にすませよう。一体僕らに何の用があるんだ」

「そう固くならないでほしい。俺たちはなにも戦いたいわけじゃない」


 ガチガチのダイヤモンドみたいな固い対応をしてるアンタに言われたくない、と蒼也と紅音は思った。そういうボケなのかな、と沙良はつっこもうか迷ったがやめておいた。


「俺たちは君たちの意思を知るためにここに呼んだ」

「意思?」

「君たちの望む願い……それを叶える意味を知っているのか」

「……」

「あらら、ばれてぇら」


 くつくつと笑う輝明。自身の願いでもあるはずなのに、まるで他人事のように笑う輝明に紅音は不信感を抱くも、口にはしなかった。

 逆に蒼也の表情はより固く、鋭いものに変わる。懐疑的な蒼也の視線に緋色はかぶりを振る。


「ブラフと思うかい?。残念だが我々は知っている。君たちの願いが『この世界を矛盾世界が無い世界に作り変える』……そうだろ?」

「ちっ……」


 蒼也の機嫌はますます悪くなっていき、大きな舌打ちをした。

 その様子を見ていた恵美は紅音の袖をちょいちょいと引っ張ると、紅音の耳元で囁いた。


「蒼也くんって機嫌悪くなると急に口が悪くなったり態度が粗暴になるよね〜」

「そうね」

「どっちが素の蒼也くんなんだろうね〜」

「……さあ、興味ないわね」


 などと言いつつ紅音の頭の中は蒼也の性格の分析が猛スピードで行われたりしていたりするのだが。

 緋色は蒼也の様子を見てため息を吐く。


「……なぜ、矛盾世界を無くす必要がある? 気に入らなければ関わらなければいい話だろう」

「それをお前に話す理由は無い。そもそもなぜ意思確認なんてする必要がある? 願いを共有できない敵は排除するのみ。そうだろ。俺たちは所詮蠱毒(こどく)なんだからな」


 蠱毒。毒を持つ虫同士を争わせ、最後まで残った虫をより強い毒虫を作り出す。確かに矛盾者達の戦はまさしくそれだ。

 しかし、緋色はその理屈を首を振って否定した。


「俺はその理屈はあまり好きになれない。それに誰もが傷つけ合うことを望んでるわけじゃない。俺もそうだ」

「ふん、随分と甘い覚悟だな」


 緋色の言葉を、蒼也はしかし戯言だと嘲笑う。

 しかし、緋色は変わらず、毅然とした態度で言う。自身の覚悟を。


「俺は人を殺さない。殺させない。その上で願いを叶える。自己満足と言われても、これだけは譲れない」


 その言葉に、蒼也は緋色から目線を逸らした。まるで眩い光を直視するのを避けるかのように。緋色は、自分に出来なかったことを成そうとしている。その劣等感が蒼也の胸を貫く。

 結局後に出てきた言葉は、今まで自身に言い聞かせ続けてきた諦めの言葉だった。


「殺そうが生かそうが、傷つけた事実は変わらない……人を殺す覚悟がないなら矛盾者なんて辞めてしま───っ」


 パン、と乾いた音が部屋に響いた。その音は千佳が蒼也の頬を叩いた音だった。

 千佳は怒りに満ちた表情で目を見開いて硬直している蒼也を真っ直ぐに見つめる。


「その発言、聞き捨てなりませんわ」


 蒼也はジンジンと痛む頬を無視して千佳へと殺気を放つ。先ほどの笑顔で包んだ殺気とは違う、今度は明確な殺意をはらんだ野生的なものだ。

 しかし千佳も下がらない。それどころか一歩、さらに前へ出る。譲れない誇りを、大切な人の名誉を馬鹿にされて引きさがれるほど、栄千佳という女は利口ではなかった。


「大切な人を救うために、そして大切な人と『人として』一緒にいるため……どんなに追い詰められても、どんなに相手を恨んでいても、決して殺さない。その覚悟が貴方に分かりまして?」

「生憎と、僕は『矛盾者(人でなし)』だ。もう人間じゃない」

「っ!」


 蒼也の態度は千佳を逆撫でる。千佳は蒼也の胸ぐらを掴みかかり、激情のままに叫ぶ。


「この、愚か者! 恥を知りなさい! 貴方にも大切な人はいるでしょう!? だったら戦ってきた相手にも大切な人がいるとなぜ分からないのです!?」

「そうだな、戦う相手にも大切な人がいる。僕もそれを理解している」

「だったら!」

「その全てを捨ててでも、叶えなくちゃならない願いがある」

「……っ! この、分からず屋!」


 千佳はもう一度、平手打ちをしようと振りかぶる。

 しかし、その手は緋色によって止められた。

 キッ、と千佳は緋色を睨みつけるが、緋色はかぶりを振る。


「その(あたり)でやめておけ、千佳。俺は彼と戦いたいわけじゃない」

「私は、今ここでこの方の性根を正さなければ気がすまなぁぁぁあああいぃいたいいたいいたい!!」

「だから落ち着けってのよ」


 沙良に縦ロールを引っ張られた千佳の悲痛の叫びと共に、蒼也の胸ぐらは解放された。ふっ、と息を吐く蒼也の表情はしかし固いままだった。


「何をしてくれますか!!?」

「あーはいはい。どうどう。落ち着けゴリラ。ほらーバナナあるぞー。一日おいて黒斑点の出た美味しいバナナだぞー」

「ゴリラじゃありません!!」

「ごめんごめん。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」

「いや学名の正確性を求めたわけじゃなくてですね!」


 一応千佳の名誉のために述べておくと、千佳は品のあるとても整った顔立ちをしており、決してゴリラフェイスではない。

 またも始まった沙良と千佳の大ゲンカ。もはや見るに耐えないと、蒼也はドアに向かっていった。

 蒼也はドアの前で立ち止まると、紅音、輝明、恵美の方へ振り返っていつもの落ち着いた口調で言った。


「これ以上話をしても意味は無いと思う。僕はもう帰るけど、三人はどうする?」

「俺も帰るわ。どっちの意見もわかるし、緋色を応援したい気持ちもある。けど俺は今、蒼也の味方だからな。なら、他所の事情まで知る意味はねぇな」

「……意外ね。《槍兵》と違って勇者様はもう少し人間らしいと思っていたのだけれど」


 退屈そうに欠伸をする輝明に、今度は沙良が噛みつく。

 しかし輝明はやる気の無い、退屈な表情を浮かべると、ため息を吐いた。


「人道的な考えなんてしてたら、人殺しはできねぇ」


 輝明は軽く、なんでもないように言う。達観したわけではない。それが彼の当たり前なのだ。


「アンタ、それ勇者のセリフじゃないわね」

「ははっ、そうか? じゃ、俺先に帰るから」


 沙良の挑発に、しかし、輝明は反論もせずにくつくつと笑う。

 ドアを開け、部屋を出ようとした輝明は立ち止まると、背を向けたまま言った。


「勇者が救えんのは仲間だけ。魔王も魔物も敵国も敵兵も、全て切り捨てる。救った数より殺した数のが多い……それが勇者()の正体なんだぜ」


 それだけ言い残すと、輝明は部屋を出ていった。男の背中は、その言葉は、乗り越えてきた全ての屍を背負った、重く、強いものだった。

 しん、と静まった部屋で、今度は恵美が手を上げた。


「私はここに残って生徒会の人たちと話をしたいと思います。いいかな、蒼也くん」

「……構わないよ」

「私はまだ、蒼也くんと輝明くんみたいに矛盾者のこと、何も知らないから、色々と話を聞いてみたくて」


 残念だ、と蒼也は思う。

 きっと人として、人間として、緋色達の言っていることは正しい。おそらく、矛盾者の思考に囚われていない恵美や紅音は緋色達こそ正しいと感じるはずだ、と。

 しかし、蒼也の思惑は大きく外れた。


「私は、こうちゃんの日常を取り戻す。そのために矛盾世界を無くす。でも、その願いを叶えることで潰える願いがあるのなら……私は、それを背負って戦いたい」


 その言葉は、恵美の覚悟そのものだった。蒼也は恵美の決意に虚をつかれ目を見開く。まさかつい最近までただの人間だった人が、ここまで強いとは思いもしなかった。


「……背負えきれずに倒れてしまうかもしれないよ」

「それならそれで、構わないよ。きっとその時は、踏みにじってきた願いの価値に気がつけたってことだろうし。まぁ、こうちゃんが折れない限りは私も折れないけどね〜」


 毅然と話す恵美は、最後の一言だけいつもの、のほほんとした笑顔を見せた。

 その笑顔を見た蒼也は、今まで恵美を意思の強い人と評価していたが、考えを改めた。彼女はただ目の前に一直線なのだ。心に素直な人なのだ、と蒼也は思う。


「……僕が戦い疲れて弱くなっているだけなのかもしれないな」

「え?」

「なんでもないよ。じゃあ、僕は帰ることにするよ」

「ちょっと、私には聞かないの?」


 不満げな紅音に、蒼也はキョトンとした。

 まるで「不思議な事を聞く人だ」と常識を疑われたような、そんな表情で蒼也は言う。


「恵美さんを置いて紅音さんが帰る訳ないし、聞く意味ある?」

「……無いわよ」


 見透かされてることが悔しいような、きちんと分かってくれていることが嬉しいような、なんとも言えないが、とにかく悔しくてたまらない紅音であった。


「はは、だよね。じゃあ僕はこれで。生徒会の皆さんも、次会う時は敵同士って事で」


 蒼也はニコ、と作り笑いを浮かべ、生徒会室を去った。

 緋色は蒼也と輝明の去ったドアを見つめながら、惜しむようにため息を吐いた。


「残念だ。《槍兵》はともかく《勇者》は理解を示してくれると思っていたが……」

「ふん、人の心を失った機械人形(オートマタ)みたいな奴らには分からないわよ」

「沙良、あまり彼らを責めるな。異端なのは俺たちなんだ。千佳も興奮しすぎだ。あと昭文(あきふみ)はゲームしてないで何か喋ってくれ」

「……」


 緋色の一言に、今まで何があってもゲームをする手を止めなかった最後の生徒会メンバー、大島昭文(おおしまあきふみ)はゲームを止めた。

 昭文は癖っ毛で覆い隠された瞳で周りを見渡すと、耳から何かを取り外して言った。


「……なんて? てゆーかいつの間にあの二人帰ったの」


 耳から取り外したのはイヤホン。当然、今までのことは全て聞こえていなかっただろう。

 がっくし、と肩を落とす緋色に、恵美はただただ苦笑いを浮かべるのだった。

 紅音は思う。どうしてこんな無茶苦茶なメンバーで生徒会が勤まっているのだろう、と。



 ◆ ◆ ◆



「んー、よく考えたら校内分からんし帰れねぇな〜」


 と、言い訳じみた事を呟きながら輝明は東高内を探索していた。

 以前蒼也逹の通う西校でも同じ事をして教員に捕まってしまったが、今回は許可を得て入っているため自由に行動できる。


「んー、んっんー、ん〜ん〜、んーんー」


 大層ご機嫌のようで、鼻歌交じりに校内を散策する輝明。今は放課後、部活中の生徒の邪魔をするわけにもいかないので徐々に暇を感じ始め、次第に鼻歌だけがヒートアップしていく。


「ふんふんふん〜、ふふふん」

「ふんふんふん〜、ふふふん」

「ん?」


 輝明はふと、鼻歌が自分のものだけじゃ無いことに気がつく。誰かが輝明に合わせて同じように鼻歌をしているようだ。

 よもや見知らぬ人間と鼻歌でデュエットをすることになるとは……そんな事を考えながら鼻歌の発生源である真後ろへ視線を移す。


「……どうりで、知ってる声な訳だ」


 そこにいたのは東高の女子生徒だった。ただし、長い金髪で碧眼の、輝明には見覚えのある、因縁のある女の子。


「ん? どうかした? ()()くん。おっと、ここでは輝明くんだったね。えへへ」

「……俺はどこでも輝明だ」


 永歌(ながうた)鈴菜(すずな)

 《頂きの十人》の一人にして召喚士(サモナー)の矛盾者。

 再び、二人の矛盾者は出会った。

 綺麗な笑顔を浮かべ、鈴菜はまるで遊びに誘うように言う。


「さて、出会ってしまったのも何かの縁だし、ここら辺で一つ……殺し合い、始めよっか」


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