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パラドックス・メイカーズ  作者: 三角
Chapter4:緋線の剣闘士
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東高生徒会

 紅音から見た訪問者、白金緋色の第一印象は『まともな人間』だった。

 奇妙な言い方かもしれないが、紅音が今まで出会って来た矛盾者は皆総じて何処か歪だったため、どうしてもそんな感想が出て来てしまうのだろう。本心を隠し、本性を隠す蒼也。自称勇者で考えの読めない輝明。明らかに不良な格好をしているのに妙に丁寧な口調をするケンジ。紅音が誤解しても仕方がない様な濃いメンツが揃ってしまったのは偶然か必然か。

 白金緋色は校門周辺を警戒する様に見渡してから紅音たちに言った。


「さて、話をするには場所を変える必要があるな。校門(ここ)で立ち話するのも辛いだけだろう。互いにあまり聞かれて良い内容の話ではないしな」

「かまいませんが、何処か当てはあるんですか?」


 紅音の質問に、白金緋色は僅かに口角が上がっただけの、笑顔とは言えない不器用な笑顔で応えた。


東高(我が校)の生徒会室で話をしたいと思っている。それと俺と話すときは敬語は省いてもらって構わない。確かに俺たちは互いの願いを懸けて戦いはするが、何も人間的に分かり合えないわけではなかろう。俺たちの関係は謂わば好敵手。君たちとは対等な関係でありたいと考えている」

「……まともだわ。今まで出会って来た矛盾者の誰よりも」

「む? 今までは違ったのか?」

「いえ、気にしなくていいわ。それとタメ口の件、了解したわ」


 紅音は白い目を向けてくる野郎どもの視線を澄まし顔でスルーする。こと他人の敵意に対しては鉄壁のメンタルを持つ紅音であった。

 不貞腐れる輝明はふと何やら思いついたようで、憎たらしいほどのドヤ顔を浮かべて得意げに言った。


「まったく、心も胸も城壁みてぇな女だぜ」

「おいそこの毬栗(いがぐり)、表でろよ」

「もう表ですけど!?」


 心の城壁には大砲が配備されていたようだった。

 喚き散らす輝明と紅音を余所に、蒼也は緋色へと問いかける。


「……貴方は《緋線》ですね?」


 緋色は、ほう、と意外そうに再び不器用で、しかし不敵な笑みを見せた。


「俺のことを知っていたか。しかし良くないな。敬語はやめにしようと話したばかりだ」

「そうでし……そうだった。年上の人に砕けた口調をするのは抵抗があってね」


 蒼也は改めて緊張の面持ちで《緋線》に問いかける。


「白金、君の目的はなんなんだ?」

「せっかちだな、《槍兵》。焦らなくともすぐに分かる」

「……」


 蒼也は僅かだが焦りと不安を感じていた。理由は緋色が現実世界で接触をしてきたことについてだ。

 それは緋色が現実世界で危害を加えて来ることを心配しているわけではない。問題はなぜ緋色が紅音と恵美の存在を知っていたのかだ。蒼也と輝明は《頂きの十人》として名が通っているので、知られていても不思議ではない。しかし紅音と恵美はつい最近矛盾者になったばかりだ。そんな二人の存在を一度も会った事がない緋色が知っているのはどう考えてもおかしい。

 おそらくこの男には裏がある。蒼也はそう結論づけると紅音と輝明の仲裁を始めた。



 ◆◆◆



 蒼也たちが通う西校から緋色が通う東高へは徒歩とバスを使って二十分ほど東へ離れた場所だった。最近できた公立進学校である東高は、紅音たちの通う西校と比べ遥かに綺麗で整った印象を受ける。


「ようこそ、我が校へ」

「やっぱり他所の高校に入るのは微妙に緊張しちゃうね〜」

「そういえば許可は取ってるの?」

「問題ない。事前に先生への説明は済ませてあるので職員室で必要書類に署名してくれればいい」

「うへぇ、めんどくせぇな」


 職員室で手続きを済ませた五人は緋色を先頭に生徒会室へと向かった。校舎の中も綺麗で、教室を除けば黒板の代わりに電子黒板が標準で取り付けられていた。

 職員室を出て数分後、一行はついに生徒会室へとたどり着いた。


「ここが生徒会室だ」

「思っていたより普通ね。もっと豪華だと思ってた」

「いやいや、中では生徒会メンバーがずらりと並んで長机に膝ついて手を組んでるに違いねぇぜ」

「ありそうだね〜」


 口々に予測を話す四人に、緋色は微笑ましそうに不器用な笑みを覗かせてから生徒会室のドアをノックした。


「ようこそ、東高生徒会室へ」


 新築のドアは音を鳴らすことなく緋色によって開かれ、中では生徒会メンバーが厳粛な態度で手を組んで座って待って─────


「この黄金ドリル女! あんたが余計なことするから緋色を見失っちゃったじゃない!!」

「五月蝿いですわよ、妖怪タイラー・ムネ・ペターン。小さくて上品な胸なのに大きくて下品な声ですことね」

「…………ヒット。次」


 いなかった。生徒会室で待っていたのは罵り合う二人の女と携帯ゲームに興じる一人の男。とても全校生徒の代表である生徒会のメンバーとは思えない。

 バン、と勢いよく戸を閉めた緋色は、しばらく固まってしまった。まずい。まずいまずいまずい。見られてはいけない、生徒会の恥を晒してしまった。

 ああ、背中から四つの視線を感じる。それも、とびっきりに冷たいヤツだ。緋色は真顔で「少し待っていてくれ」と四人にジェスチャーで伝えると喧騒が鳴り止まない生徒会室へと消えていった。


 十分後。生徒会室の扉は開けられ、そこには某SFロボットアニメの最高司令官よろしく、女生徒二人と男子生徒一人が手を組んで静かに待っていた。

 緋色は三人の様子に満足気に笑うと、自信満々な様子で紅音たちへ言ったのだった。


「ようこそ、東高生徒会へ」

「いや遅いわよ」


 そこに威厳や風格など一ミリだってなかった。

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