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7/11

ヴィランのささやかな贈り物


厳しい鍛錬は毎日、続いた。



転生して六日目。ようやく、俺はヴァルから詠唱による魔術の放出が認められた。



『ドラコァクティス!』

俺が大声で詠唱すると、空気中の水蒸気が渦を巻くように集まり、巨大な水の竜が姿を現した。



鋭い爪と牙をギラつかせ、目の前のヴァルに勇ましく襲いかかる。



──はずだった。



牙を向いた竜に、強大な魔力をチラつかせたヴァルが鋭く睨んだ瞬間、それはまるで借りてきた猫の如く、背中を丸めた。



その後、彼に何かを囁かれた俺の竜は、あろうことか、主人(オレ)へと襲いかかってきた。



「いててて……っ!」



必死に逃げ惑う俺は、次の術を詠唱し水竜に攻撃を仕掛けた。



『フルゥメミット!!』

俺の全身を取り巻く青白い稲妻が、壁や床をかすめながら跳ね回った。



その雷光が水竜へと襲い、電撃がそれを消滅させる。



──の、はずだった!!



しかし、水竜は電気を食い荒らし、周囲に電撃を走らせながら襲ってきた。

天から降り注ぐ雷に触れた瞬間、電流が全身を貫いた。



────ッ! 



俺は、まるで理科室の人体模型。



レントゲン写真みたいに、ビリビリッ……と骨格が浮かび上がる。



それでも、ヴァルの攻撃の手は緩まない。



壁からツタが現れたかと思った瞬間、俺の首元に巻き付き締め上げてきた。

壁石が裂け、そこから鋭利な刃が飛び出す。

全身にツタが絡まり、身動きが取れない────!



迫りくる刃にビビり、必死に叫ぶ。

『ァェリスゥロ!!』



火の魔法でツタを焼き払った瞬間──



「大声で詠唱するな……」



ヴァルの低い声が落ちるとともに、鍛錬場の端にあったはずの棘付き鉄球が、頭上から振り下ろされた。

続いて、背中に、足に、メンタルに──容赦ない悪魔の攻撃で、俺のあちこちから血が噴き出した。



「詠唱は囁くものです。敵に手の内を見せぬよう──」



泡を吹く俺を見下ろし、ヴァルはようやく鍛錬終了を告げた。



「お疲れ様です。本日はマイナス150点ですね」



俺は血の海に倒れたまま、起き上がることもできない。



「……し、死ぬ……」


「ご自身で回復を」



無情なヴァルを睨みながら詠唱し、俺は周囲の血液を上空に集め浄化させ、左手を掲げてゆっくりとそれを吸収した。



「いてーよ……もっと手加減しろよ……大体……ヴァルは優しさってもんが……」



身体を起こし、大理石の床に映るヴァルに向かってぶつくさ言う俺に、ヴァルはニッコリと微笑んだ。

いつも冷静な奴の笑顔は……コワい。



「な……なに?」


「ギル様。本日は、日頃の鍛錬への労いとして、ささやかですが、私より贈り物があります」



……え!?



贈り物? なんて素敵な響きなのだろう!!



単純な俺は、ヴァルの優しさで身体の痛みを全部吹き飛ばし、勢いよく立ち上がった。



「え?なになに〜??」



ヴァルは指先を弾き、一枚の高窓をパリンッと割ると、そこから小さな箱を呼び寄せた。瞬時に硝子は修復されていく。



彼から差し出されたそれは、

──魔族の紋章が刻まれた金のバングルだった。



「えー!めっちゃかっこいいよー!ヴァル、ありがとう!!」


「はい。いつも頑張っておられますので。

是非、左手に。私がはめて差し上げましょう」



ヴァルがそっと、俺の左腕に通す。



カチッと、微かな音が響く。



照明に照らされたバングルが、キラリと煌めいた。



「ヴィランだっていいとこあるんだね〜。お見逸れしました〜」



喜びに跳ねる俺の後ろで、ヴァルが怪しげに微笑んだことに俺はまだ気づかない。



「いえいえ。特注で作らせていただきました。外すのは厳禁です……多少痛むこともありますが」



嬉しさのあまり、俺の耳はヴァルが囁く最後のセリフを完全にスルー。



腕にはめたことを大後悔し、またまた俺がヴァルに泣き縋るのは──もう少し先の話。



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