第112話 俺、賑わいの中
『マルー!俺様と走ってくれよ!』
『えー……ヤダ』
『ねぇハナ、なんだか人間って思ってたよりもアタシのこと好きなのかも』
あっちでヒヒン、こっちでフヒン、俺は今放牧に出てる、とても賑やかで悪くない気分だ。
マルが帰って来てから立て続けにモモとアホ殿が帰って来て俺達は比較的近い放牧地へそれぞれ放されるようになった。
これに関してはいつものことで俺達は近場の放牧地に放される、というより場所はほぼ固定だ、面子によって多少の配置変更はあるが近くにいるのは見知った顔ばかり。
今回は俺とモモが隣り合ってマルとアホ殿が大きな通路向こうで隣り合うという感じだな、わりと距離はあるが声は普通に届く、馬の声はデカい。
まだ競走馬として走り出したばかりの頃周りに馬という馬が居なくて孤独に鳴いていた俺はもう居ない!
俺は大体いつもこの辺りだったけどここ他の現役競走馬達がいる所とちょっと距離があるんだよな。
……隔離されてるって?そんなまさか!
あの日から構え攻撃を日夜していたマルはアホ殿に掛かり切り、俺はなにやらハイパービューティーホース俺視点からしたら当然のことを言い出したモモの相手をすることにしよう。
『どうしたモモ急に、人間が俺達好きなんて今更だろ?』
『アタシアンタのそういうところどうかと思う』
『でも事実だし、モモだっていつも担当の兄ちゃんに可愛がられてるだろ』
『そうなんだけど……』
『なんだよ、何かそう思うことがあったのか?』
『……、この前ね長く走るので勝ったのよ、アタシが一番』
『へー!おめでとう良かったじゃねぇか』
『ありがとう、それでいつも背中に乗ってる人とか世話してくれる人とか、偉そうにしてる人達がこけたり泣いたりで大騒ぎ』
『……重賞初勝利でもねぇよな?重賞勝ったって話前にジイサンから聞いたし』
『そう、前勝ったのと同じよ、だからアタシなんで?って思っていたの、それで帰って来たらおじいちゃんがまた次も勝てたら良いなって』
『ジイサンが?』
『アタシの周りの人間が言ってたんだって、話してた。モモならきっと3回目も勝てる、でもその前にまずはハルテン?に挑まないとなって』
『凄い期待されてるなモモ!にしても春天かー、まぁ長距離ってなったら選択肢に当然入るよな』
『ハナ、ハルテンがどれかわかる?』
『あー、春天は暖かくなってからある長く走るヤツだな、春天の春はわかるだろ?ジイサンが言ってるし』
『春、あぁ、おじいちゃんが種付けシーズンっていうヤツね。それなら前にも走ったかも?』
『ンンン!……可能性はあるよな、長距離レースって限られるし』
『そう、アレが……ありがとうハナ、アタシハルテンに向けて頑張る』
え。
俺、感動!!!!
モモだぜ?あのちょっと不思議入ってしっかりしてそうな風に見えて脳内フワフワしてる、見えちゃいけないものを今でも追うモモが!人間のために頑張るってよ!!!!
いやー、幼馴染の成長を感じて思わず拍手したくなっちまった。
俺馬だから拍手できねぇけど、代わりに嘶きでもしとくか?
そんな風に俺とモモが人間からしたら震える寒さの中心温まる感じの話をしてる一方、相変わらず攻防が続く通路の向こう。
『マルさん!!!!』
『ヤーダー!』
めげずに声をかけるアホ殿、それから逃げるマル。
マル、それ追いかけっこになってるの気付いてるか?まぁ本気ではないしアホ殿が望むものとは違うだろうけどよ。
そもそもこの状態の地面じゃまともな競走はできない、そこの所わかってるか?アホ殿はやっぱりアホか?
それにしてもマルのヤツ無視したらいいのになんだかんだアホ殿には反応してるんだよな、実は弟分的に感じてたりするのか?
なんだかんだ厩舎のボスはしてたみたいだし慕われるのは嫌いじゃないのかもしれないな。
『ハナ、走りましょうよ』
『おう!』
モモの軽い誘いに乗って俺達も走り出す。
いやー、実にいい放牧期間だ!




