閑話 採点中の一幕
「── とりあえず、試験番号04625番までは終わりました。」
「ああ、ありがとう。」
総合学園、職員室。普段なら穏やかな空気が流れている黄昏時のこの部屋は、記述、及び実技試験の採点と結果の纏め作業が行われており、教師たちが忙しそうに動いていた。そんな中、少し手が空いたのか、藍色の髪の若い女性教師と白いものが混ざり始めた顎鬚を生やした壮年の男性教師が談笑している。
「しかし、今年は粒揃いだな。」
「ですね。例の"特進クラス"の生徒は当然ですけど、そうでない生徒も含めて全体的にレベルが高いですね。」
そんな2人の手元には、すでに採点の終わった試験結果がある。
「だが……やっぱ"特進"の面子は頭ひとつ抜けてるな。」
男性が顎髭を撫でながらそう言うと、女性も頷く。
「"剣聖"ミリア=グリーツさんに"聖女"トウカ=シストさん、"真理の探究者"レオナ=トパズさんは実技で、それ以外の生徒も記述の方でそれぞれの得意分野で高得点を取れていますからね。」
「まあ、苦手分野に関してはかなりヤバい奴もいるが……それを補って余りある得意分野の才能があるからな。問題にはならないだろう。」
そう言いながら男性は一枚の書類を取り出す。
「だが、今年の首席は彼で確定だろうからな。」
「でしょうね。Sランク冒険者として活動して、総合学園で臨時の教師をする位ですから優秀だとは思っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでしたからね。」
その書類に書かれた結果を見、女性も同意する。
「しっかし……本当に試験問題の流出はないんだよな?」
「はい。まだ雇用契約も済んでいないと聞いていますし、そもそも彼はラピズに来たことはないようでしたしね。」
「てなると、正真正銘のバケモンってことだ。……ったく、何で"特進"向けの難題や未解決問題に答えられんだよ……。」
そこに書かれていたのは、"公爵家の神童"、そして"新星"と呼ばれている少年、ノア=シストの試験結果だ。
「ですね……。しかも彼、10歳の頃から行方不明だったんですよね?」
「ああ。そうなると、この結果は行方不明になるまでに学んでたことと見つかってから、よくて1年位で学んだ結果なんだろうな。……もし昔からこんなんだったなら、確かに"神童"って呼ばれるわな。」
「何せ、史上初の満点ですからね。」
そんな彼らの手元にある書類に書かれた結果は、以下の通り。
基礎魔法学 ── 100/100
応用魔法学 ── 100/100
世界地理学 ── 100/100
歴史考古学 ── 100/100
例節・作法 ── 100/100
魔導機械学 ── 100/100
計算・数学 ── 100/100
領地経営学 ── 100/100
実技試験1 ── 100/100
実技試験2 ── 100/100
合計 ── 1,000/1,000
「まさか、教師生活の中で満点を目にすることになるとはな。昔から、この入試で8割取る奴がいたらそいつはバケモンって言われてたが……。」
「満点、ですからね……。……正直、不正を疑われてもおかしくないです。」
「だよなぁ……。しかもこいつ、悪い意味で話題になってるんだろ?」
「はい。試験中も、陰で後ろ指を指されていました。……彼自身も気付いているようでしたが。」
「気付いてんならまだマシか。……まあ"特進"なら他のクラスとの関わりも少ねぇし、"特進"の生徒なら噂に流されることもないだろうから、よっぽど問題ないと思うがな。」
「それに、最悪の場合は彼自身の冒険者ランクを明かしてしまえばいいですしね。それよりも……こちらの方が問題になるでしょうね。」
「ああ、"勇者"達か。」
「はい。」
女性教師の肯定に、男性教師も悩ましげな顔になる。
「こっちの常識を知らないのは他の"勇者"達と同じだが……今回の"勇者"はリトス法国の上層部が担当したんだろ?」
「そう聞いています。」
「てなると、絶対他の生徒と揉めるよな……。」
「揉めるでしょうね。」
「はぁ……。何でこうも忙しくなる要素が重なるんだ……。」
男性教師がため息をつくと、女性教師は苦笑いを浮かべながら彼を励ます。
「まあ、厄介事が長引かない点では良かったじゃないですか。それに、ノア君に関しては自分で何とかするでしょうし。」
「だといいんだが。……ま、まずは採点を終わらせることからだな。続き、やるぞ。」
「そうですね。」
そう気合を入れ直し、二人は採点作業に戻るのだった。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




