表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大公妃様のお気に召すまま(旧題 : 私が購入したのは大公夫人のようです)【書籍化】  作者: ユタニ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/37

37.お礼SS 土人形のゆくえ


「リリス、誰もいないな?」

「はい、大丈夫です」

大公家の廊下にて、飾り棚の影に身を潜ませたリリスは目当ての部屋周辺を確認して背後のガーベラに囁く。


「うむ。ではいざ、参るぞ」

身を乗り出すガーベラ。ここでリリスは最後の抵抗をした。

「あのー、でも、やっぱり勝手に入るのはよくないと思いますよ」

「怖気づいたのか? 案ずるな、正義はこちらにある」

「そうでしょうか」

「そうだ。大きさからいって、もうあそこにあるとしか思えんからな」

「うーん……」

「行くぞ!」

リリスを放ってガーベラが素早い身のこなしで取りついたのは、ランスロットの執務室の扉だ。

ガーベラはすぐにポケットからマスターキーを取り出すと扉の鍵を開けた。


「わっ、待ってくださいよ」

リリスは慌てて部屋に入るガーベラに続いた。

そうして二人して突撃したランスロットの執務室。深緑の絨毯が敷かれた部屋は、マホガニーの本棚に取り囲まれていて重厚な雰囲気だ。

奥の窓際にはやはりマホガニーのどっしりした執務机が置かれ、その上は整然とはしているがたくさんの書類が積まれている。

そしてその机の横。アームチェアに座らせられる形でそれはあった。


「あっ」

「やはりここであったか」

ガーベラが呆れた顔になる。

そこには、ガーベラが何年もかけて緻密に作り上げた彼女の土人形がいた。


「うわあ、ガー様が座って眠っているみたいですね」

感嘆の声をあげて近づくリリス。


前にこの土人形を見たのは、月明かりの元でしかも棺の中だった。あの時は幻想的で美しかったが空間の異様さもあって、生きているようには感じなかったのだが、こうして日中に椅子に座っている土人形はまるで生きているようだ。


「わたくしが丹精込めて作ったものであるからな。肌の質感もしっかりあるし、まぶたを開ければ眼球もあるぞ。見てみるか?」

「いえっ、それはいいです」

眼球を見るのは怖いのでそれは即座に断る。


「それにしても、本当に閣下が取り込んでたんですね」

「何度聞いてもはぐらかしていたからな、怪しさ満載であったわ。そしてあの男なら、たとえ土人形とはいえ、わたくしを狭い所に押し込んだりはしないであろうから、もうここしかなかったわけだ」

「なるほど。名推理でしたね、ガー様」

「うむ」

「無事に見つかってよかったですね」

「ああ、さ、運ぶぞ。リリスは足を持ってくれ」

言いながらガーベラは土人形の両脇に手を入れる。リリスは土人形の足元に回るとそれを抱えた。


「けっこう重いですね」

「生身のわたくしと同じ体重だ」

「それは失礼しました。羽根のように軽いです」

すぐ様言い直すリリス。


「構わん。人形と聞くと軽い気がするからな」

言いながらガーベラは土人形を持ち上げた。これから二人で土人形をガーベラの部屋まで運ぶのである。


(やっぱりそれなりには重いな……そしてこれ、廊下で絶対に見つかるよね)

部屋の中を数歩、えっちらおっちらと歩いたリリスはそう思う。せっかくここまで見つからないように来たけれど、このペースで屋敷内を行けばすぐに誰かに見られるだろう。


「ガー様、やっぱりちゃんと閣下に言ってから持って帰りませんか? いきなりこちらのガー様が消えたらびっくりするでしょうし」

「それで隠し場所を変えられたらどうする? リリス、お前はあの男を分かっていない。あやつの愛は暗く重たいのだぞ」

「そうかなあ」

どちらかというと、深くて温かそうな愛だとリリスは思っている。


「妻の土人形を自分の執務室に飾っているなど、もはや変態だ。しかもこれ、着替えもさせているではないか」

「…………確かに、衣装は変わってますね」

月夜に見た土人形は簡素な綿のワンピースを着ていたが、今はきちんと正装している。


(そう言われるとちょっと特殊なのかな。でも四年も死別したと思って嘆いていた妻が帰ってきたんだから、いろいろ溢れたりもするよね。今だけなんじゃないかな)

できるだけランスロットに対して好意的に考えてあげようとするリリス。他人を悪く言うのも思うのも苦手なのだ。


「…………」

(でも着替えは嫌かな)

リリスは一人で頷く。いくら夫婦とはいえ着替えは嫌だ。きっとランスロットには下心なんてなかったと信じたいが、それでも嫌だ。

ここは全面的にガーベラに協力しよう。


覚悟を決めたリリスはガーベラと共に廊下へと出る。しばらく進むとすぐに侍女達に見つかった。


「あら、奥様。えっ、きゃあっ!? お、奥様!?」

ガーベラが運ぶガーベラの土人形を見て驚愕する侍女達。


「案ずるな。これはわたくしの作った土人形だ。手助けはいらぬぞ。気にせず仕事を続けてくれ」

ガーベラはもはや開き直って堂々と宣言し、ゆうゆうと歩みを進める。


「えっ、土人形……?」

「リアルすぎる……」

「本当に土人形なの……?」

ざわざわする大公家の廊下。リリスは、大丈夫ですよー、本当に土人形ですよー、という思いを込めた笑顔を浮かべてガーベラに続いた。


やがて二人は大公家のベテラン執事にも行き当たる。

執事ともなると、ランスロットの執務室にガーベラの土人形があったことは知っていたようである。リリスとガーベラの運ぶそれを見て執事は申し訳なさそうな残念そうな顔をしてから、静かにガーベラに聞いてきた。


「奥様、そちらをどこへ?」

「わたくしの部屋だ」

「左様でございますか。閣下には私からお伝えしておきますね」

「む、告げ口か?」

「報告です。心配されますので」

「……仕方あるまいな。取り返しにきても渡さんと伝えておけ」

「かしこまりました」

執事は丁寧な礼をして道を開けてくれた。


そうしてたどり着いたガーベラの部屋で、リリスはガーベラそっくりな土人形を大きな木箱の中へ入れる。


「…………うーん、ガー様、木箱に押し込めるのはやめませんか」

リリスは遠慮がちに提案してみた。

見た目はガーベラそのものの人形が、膝を折りたたんで木箱に入っているのは何だか可哀想なのだ。


「飾ってもかさ張るだけだ。いざという時の持ち運びにもこの方がよい」

「そうですけどね、なんか居心地悪いというか」

渋るリリスに構わずガーベラは木箱の蓋を閉める。 


「あっ、そんなことしたら真っ暗で怖いすよ」

思わず土人形の気持ちになるリリス。


「構わん。蓋を開けたままだと汚れるからな」

「そうですけど……」

「なんだ、気に入ったのか?」

「気に入ったというか、見た目はガー様だし」

「ふうむ、気に入ったのか……」

ガーベラは顎に手をあてて考えた後、こう言った。


「仕方あるまいな、リリスがここに滞在中は特別にお前のアトリエに飾ってもよいぞ」

「えっ、いえ、気に入ったわけじゃないんですけど」

リリスは辞退しようとしたが、ガーベラには聞こえていない。


「さ、もう一度、運ぶぞ。足を持てリリス」

うきうきしながら再び土人形の上半身を持つガーベラ。自信作の土人形をリリスが気に入ったのが嬉しいらしい。


(…………ま、いっか)

アトリエに等身大の土人形がいるのは少々不気味な感じもするが、すぐ慣れるだろう。リリスはありがたく受け入れることにした。


「また重たいが、頑張れよ」

「とんでもないです。先ほども言いましたが、羽根のように軽いですよ」

リリスは笑顔でそう言って土人形の足を持ち、ガーベラと共にそれをアトリエ部屋へと運んだ。





お読みいただきありがとうございます。


土人形はサイラスがしれっと持ち帰ろうとしたところを、ランスロットが回収していました。その後、丁寧に汚れを拭いて着替えさせてあげた。


さてこちらのお話が書籍化します。富士見L文庫さんからで、本日、2026年6月15日発売。

公式ホームページで書影が見れますので是非。

https://lbunko.kadokawa.co.jp/product/322512001057.html


また表紙にはいないシオンとサイラスのキャラデザもいただいています。せっかくなのでご紹介を、と貼ってみました。お納めください↓


ふふふ、素敵ですねえ。


挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
大公閣下手ずからお着替えを…。それは嫌だ。 執務室に泥棒や密偵が入ったらビビりますね!まぁサイラスが入れさせないだろうけど。魔法が掛かっているかも知れないし。 アトリエにあるとマネキン、トルソー代わり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ