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殺人鬼は異世界にて、かく語りき~殺人鬼は異世界で如何にして生きていくべきか~  作者: スズカズ
第二章 どうかこの偽りの魂に一条の光を
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第五話 見知らぬ実家

「……ん? また城門?」


 ユニゼラルに入ってからしばらく経過した頃、馬車の窓から新たな城門が見えて来た。


 先ほどの入り口の大門とは違い、こちらの門は幾分か小さい。門は閉じた状態になっていて、すぐ側側には衛兵隊と思われる格好をした人間たちが門を警護している。


「あの門は貴族地区の入場門だね」 


 訝しげに門を見ていた僕に見て、ノアが補足してくれる。


「貴族地区だって?」


「うん、ここから先は貴族の関係者しか入れない地域なんだ。元老議会があるノイシュバン城もこの場所にあるんだよ」


「……へぇ、住んでいる地域を物理的に分けているのか」


 防犯も含めた、おそらくは特権的な意味合いが強いのだろう。


 まさしくここから先はユニゼラルの上級国民のエリアといったところか。

 門を厳重に警護しているのも怪しい人間を通さないためか。


 門番たちはクロムバッハ家の馬車を見て、何も言わず門を開けた。流石はクロムバッハ家、どうやら顔パスのようだ。


 馬車は内門を抜けて貴族地区に入っていく。


 速度制限でもあるのか貴族地区に入ってからクロムバッハ家の馬車の速度は競歩程度のスピードになっていた。


 たしかに馬車の窓から見える風景は、先ほどの雑多な市街地とは打って変わって高級住宅地のような街並みに変化している。


「……森?」


 と、思っていたら窓から見える風景がまたすぐ変わった。


 生い茂った木々の群れだ。


「どうやらクロムバッハ家の敷地に入ったようでございますね」


「敷地ってまさか……」


「ええ、左様です。この周辺一帯の視界に入る全てがクロムバッハ家の敷地でございますよ。ほら木々の向こうに塀が見えるのでしょう? アレが境界線でございます」


 ネフェラの言う通り、木々の向こう側に塀が見える。


 てっきり自然公園か何かだと思っていたが、まさかこの全てがクロムバッハ家の物とはね。

 

 俗な言い方だが、少なくとも東京ドーム十個分ぐらいの広さはあるのではないだろうか。


 上流階級しか住めないはずのエリアでここまでの大きさだ。

 クロムバッハ家の権力の高さが窺い知れるな。


「もっとも練兵場を兼ねているからこその広さではございますがね」


「練兵場?」


「ええ、坊っちゃまも存じ上げているようにクロムバッハ家は武門の家柄でございます。故に我々クロムバッハ家は近衛隊であるシュタール騎士団の運営をユニゼラル家に一任されているのです。ちなみに敷地内には騎士団宿舎もあるのでございますよ」


 練兵場に宿舎か。

 凄いな。軍事基地みたいじゃないか。


「ということは、お父様はそのシュタール騎士団とやらの団長なのですか?」


「いや違うな。名目上の頭目は吾輩ではあるが、実務を取り仕切っているのは吾輩の部下である。吾輩はお飾りに過ぎんのだ」


「……はぁ、困ったことに旦那様はお一人で動くのが好きでございますからね」


 普段の気苦労を思い出したのか、ネフェラは呆れたように呟いた。


「ふん、群れるのは性に合わんからな」


「……では、その部下が──」


 言い掛けて視界の端、馬車の窓の外に何が張り付いているのに気付いた。


 虫かトカゲか。


 僕はそちらの方に視線を移して──


「……うわぁ!?」


 心底驚いた。


 窓には三十代後半の男が張り付いていたからだ。


 黒髪でサムライヘアーのような髪型している壮年の男性が一心不乱に僕を睨み付けていた。服装は白い軍服のような物を着ていた。


 こわっ。

 コズミックホラーか何かか。


「あ、シンゲンさんだぁ」


 窓に張り付いてる男性を見て、焦るでもなくノアがのんびりと言った。


 シンゲン?

 誰だ?


「……丁度いいタイミングだな。この窓に張り付いている愚か者が例の団長である」


「は? え? この人がですか?」


「誠に遺憾だがな。……シンゲン、入れ」


 ゲオルグが手招きすると、窓に張り付いていた男の顔が喜色満面に変わる。


「やあやあやあ、どうもどうも」


 軽快に声を上げながら、シンゲンと呼ばれた男が馬車の中に入ってくる。


「お館様、ネフェラ殿、ゼノア殿、いやはや数ヶ月ぶりでござるなぁ」


 ござる?

 今、ござるって言わなかったか?


「……っと、それと若、何年ぶりでございましょう。お久しゅうございますなぁ。拙者めのことを覚えておりますかな?」


「うわぁっ!?」


 シンゲンは僕のことを『若』と呼び、急に抱き付いてきた。


「……あ、あの! 若っていうのは、いったい、どういう意味、でしょうかっ!?」


 抱き付いてくる壮年の男性を無理やり引き剥がしながら、僕は言った。


「カッカッカッカ! 久方ぶりの再会なのにつれないでござるなぁ。いやなに若は若でござる。次代のクロムバッハ当主でありますからな」


 何が楽しいのか、かんらかんらと笑いながらシンゲンは笑った。


 もしかしなくても、この人──


《ああ、そうだ。シンゲンにはお前が転生者であるということを告げていない。くれぐれも正体を明かさないように注意して発言してくれ》 


 念話でゲオルグが注意を促してきた。


「む、拙者のことを覚えておりませぬかな? 昔はそれなりに懐いてくれていたと思っていたのでござりますが。残念至極。……まあ当時の若は三歳か四歳でしたからな。うむうむ、覚えていなくてもしょうがないでござろうな!」


 なぜかやたらとテンションが高いな。この人。


 見た目は黒髪で風貌は東洋系に近い。名前もそうだが、こちらの世界にもいわゆるアジア系のような人種もいるのだろうか。


「申し訳ありません、シンゲンさん。当時のことはあまり覚えていなくて……」

 

「気にすることはありませぬよ、若。これからまた仲良くなればいいのでござるからな。カッカッカ!」


 声高々に笑うシンゲンにゲオルグは冷めた目を向けた。


「……で、シンゲンよ。走行中の馬車に飛び乗るほどの火急の要件はあったのか?」


「カッカッカ! いえ、まったくに! カケラもございませぬなぁ! 若に一秒でも早く会いたかっただけでござる!」


「呆れた者だな。貴族の馬車に飛び込むなど不審者として無礼打ちにされても文句は言えんぞ」


「お館様に限ってそのようなことをしますまい。それに剣界けっかいに入り込んだ時点で拙者のことを認識していたのでございましょう」


「……ふん」


 剣界?

 何のことだろうか?


「お、話している内に館に到着したでござるな」


 シンゲンの言う通り、森の向こうに五階建ての一際大きな建物が見えてきた。


 アレが噂のクロムバッハ本邸か。


 カサキヤ村の邸宅も相当大きかったが、目の前の建物はその三倍はあるだろうか。


 もはや屋敷というよりも高級ホテルのようだ。


「さぁさぁ! 若のご帰還を祝う歓迎会の準備が整っておりますぞ! 久方ぶりのご実家でござるな!」


 久しぶりの実家ね。

 僕のとっては見知らぬ実家なのだが。


 さてこれからは僕は用心して『アインス・トゥルス・クロムバッハ』を演じなければならない。注意していくとしよう。

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