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殺人鬼は異世界にて、かく語りき~殺人鬼は異世界で如何にして生きていくべきか~  作者: スズカズ
第二章 どうかこの偽りの魂に一条の光を
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第二話 ノアの願い

 書斎での話し合いが終わった後、僕とノアはクロムバッハ邸の廊下を歩いていた。


 ゲオルグとネフェラは書斎に残っている。


 明日の予定に関しての調整をする必要があるそうだ。


「さて、とりあえず食堂室に行って朝食でも……ノア?」


 僕が隣を歩くノアに言うと、彼女は歩きながら考え込んでいるようだった。


「……あ、ごめん、アイ君。ちょっといろいろ考えていて」


「どうかしたのかな? 悩み事でもあるのかい?」


 僕が聞くとノアは困ったように苦笑した。


「悩み事っていうか……うーん、結局のところわたしはどうすればいいんだろって」


「それはつまり──」


「うん、『覇王の子孫』としてだね。……ゲオルグさんやネフェラさんは、いつかわたしを覇王の血族として日の当たる場所に出してくれるって言ってくれているんだ」


「そういえば聞いたことがなかったね。ノアは覇王の血族……覇王の後継者として世に出たくないのかい?」


 かつての帝国の中心地であった帝都グランシアにはわずかばかりの覇王の血族が残っているらしいが、そのほとんどが世情への影響を恐れて軟禁状態に近い形になっているそうだ。

 

 この世界に置いて覇王の影響力は実質的に皆無に等しい。覇王の名はもはや過去の栄光にしか過ぎないのだ。


 ゲオルグの真意は未だ計りかねているが、ノアという存在を使って、落ちぶれたクロムバッハ家を再興させたいというのは間違いないだろう。


「どうだろ、正直なところわたしが覇王様の子孫だなんて未だにピンと来てないんだ」 


「……でも、あのオルド大橋の鐘楼が鳴った以上は──」


 かつての覇王を迎えるために作られた大鐘は、ノアの異能に反応してその身を震わせた。


「うーん、それまではわたしも半信半疑だったんだけどねぇ」


 ノアの表情には迷いのようなモノが見えた。


「でも……ううん、だからこそわたしはどうすべきなんだろうって」


「覇王の子孫だと公表すれば、今すぐそれなりの地位や名誉を得られそうなものだけれどね。そういったことに興味はないのかい?」


「……あんまり興味はないかなぁ。わたしは戦災孤児だったから、今みたいにメイドとして不自由なく暮らしていけるだけで十分だもの。ゲオルグさんたちの生活を見てると、お金持ちの生活はそれはそれで大変そうだと思うし」


 未来の自分の姿を想像したのか、ノアはげんなりとした様子で顔を顰める。

 

 随分と欲がないことだな。


「あ、でも一つだけしたいことがあるかな」


「ひとつだけ?」


 そう言うとノアはいたずらじみた笑顔を浮かべる。


「そう、わたしが覇王の子孫として表舞台に出れるなら自分の影響力を使って、みんなが笑って暮らせる世界にしたいかな」


 みんなが笑って暮らせる世界だって?


「あれ? アイ君、すごい面白い顔してるよ?」


 それはそうだろう。


 ノアは、ひょっとしたら世界最高峰の権力者になれるかもしれない存在なのだ。なのにそんな絵空事のような事を多分心の底からの本心で言っている。


「……まぁ、ノアらしいと言えばらしいかな」


「む、なんだかバカにされてる気がする」


「まさか、逆だよ。感心してるんだ」


「ほんとかなぁ。……って、そうだ、朝のお仕事まだ終わってなかったんだ! それじゃアイ君また後でね!」


 ノアが慌てた様子で屋敷の廊下を走り去っていった。


 やれやれ忙しないことだ。


「……しかしまぁ、みんなが笑って暮らせる世の中か」


 ノアがどれほど考えて発言したかは分からないが、これまた一筋縄ではいかない話だろう。


 ある意味、覇王が大陸を制覇するよりも難しい問題かもしれない。この戦乱の世界では特に。


「……ま、しょうがない。我らがお姫様のリクエストだ。ご希望に沿うよう頑張るとしようか」


 あの時、僕は彼女の隣で共に生きていくことを望んだ。願ったのだ。


 殺人衝動。この身は罪深く、誰か共に生きてはいけないのだと思い込んでいた。

 

 ノアはその傲慢な思い込みを破壊してくれた。

 

 だから、僕は僕が出来る最大限の力を使って彼女を助けていきたいと思うのだ。



 *****



「お、アインス兄ちゃん、ようやく来たな!」


 食堂で朝食を取り、僕の自室であるクロムバッハ邸の客室に戻るとそこには三人の少年少女がいた。


 言わずと知れたカサキヤ少年探偵団の面々。ガル、エーカ、アリエッタだ。


「おはよう、アインスにぃ!」


「ごめんなさいアインスお兄さん、勝手にお邪魔しています」


 額に傷のある元気いっぱいの少年――ガルド・キリーク。

 ショートカットでお転婆な少女――エーカ・イェニア

 眼鏡を掛けた内向的な少女――アリエッタ・フェムシュタット


「やあ三人とも。朝早くからどうしたんだい?」


「どうしたの何も聞いたぜ、アインス兄ちゃん明日で村を出ちまうんだろ!?」 


 おや、随分と耳聡いことだ。

 僕だってついさっき聞いたばかりなのに。


「母ちゃんが昨日ネフェラさんから聞いたんだ。黙ってるなんて水臭いぜ、アインス兄ちゃん。同じ少年探偵団の仲間だろ」


「ははっ、すまないね。実は僕もさっきカサキヤ村を出ていくことを聞いたばかりなんだ」


「ありゃそうなのか? ワリィ、勘違いしちまったぜ。……アインス兄ちゃん、薄情なところあるからなぁ。てっきりオレたちに黙って村を出るつもりなのかと思ってたぜ」


 薄情?

 そうなのだろうか。あまり意識したことはないが。


「ガル、薄情じゃなくて、アインスにぃはアタイらの保護者みたいなモンなんだから距離があって当然でしょ。誰もアンタと同じ考えなしなわけないじゃん」


 エーカが呆れたようにガルを見ながら言った。


 しかし薄情に距離があるか。

 昔から同じようなことを言われ続けたような気がするな。


 殺人衝動。

 この衝動のせいで、僕は他人と表面上の付き合いしかしてこなかった。


 親しくなればなるほど突発的な衝動で危害を加えてしまう可能性があるからだ。


 けれど他者とのコミュニケーションは問題なく出来る。

 単純な話だ。

 ただ機械的に礼儀正しく接すれば良いだけだからだ。


 しかしそれ故に他人は壁のような物を感じるのだろう。

 表面上は仲良く出来るが一切の本心を見せない。  

 深入りさせることも決してない。


 人によってはお前は不気味だと言われることもあった。

 

 そういえば義妹は「義兄さんは真面目に他人と関わっていない」と愚痴のようなモノをよくこぼしていた。結局はそういうことなのだろう。


「送別会なんて大層な代物じゃないけどさ。止まり木亭でちょっとしたパーティを準備してあるんだ。アッティルトもたくさん焼いてあるしノア姉ちゃんも連れてきてくれよ」


「そうか、わざわざありがとう。是非行かせてもらうよ」


 僕が礼を言うと三人とも安心したように笑った。


「ま、お別れって言ってもそんな大した期間じゃ……ふごぉ!?」


「ガーちゃん、待って、待って! まだそれは言っちゃ駄目!」


「馬鹿ガル! それはまだアインスにぃには内緒って言ったでしょ!」


 何かを言いかけたガルの口を慌ててエーカとアリエッタが塞いだ。


 一体何なんだ?


「ワリィワリィ、今の無し。……ほらほら、ノア姉ちゃんも誘って、さっさと止まり木亭(オレのいえ)に行こうぜ」


「あ、ああ……」


 ガルたちに半ば強引に促され、僕は客室を後にした。

 うーん、一体何の話だったんだろうか。

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