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第9話 真実

とりあえず事件は解決しました。

第9話 真実

和田洋介が逮捕されてから二週間が経過していた。

まだ、警察での取り調べは続いている。


氷神明菜も今度は、殺人事件で再逮捕される事になるらしい。

一条隼人は死体遺棄事件だけの起訴になるみたいだった。

それは、彼が持っていなかった事件のパーツを、洋介が全て持っていたからだった。


また、明菜も洋介が逮捕されたことで、本当の事を話す事となった。


洋介と明菜の話は、こうだった。

明菜は、警察にも把握されるほど、夫である氷神進から激しい暴力を受けていた。

いわゆるDV(ドメスティックバイオレンス)である。

だが、彼女は離婚をすることも出来なかった。

氷神は、彼女を家に縛り付けていた。

もちろん精神的にという意味だ。

酒を飲んだ時には三才になる息子にも、手を出すなど、氷神の行動は常軌を逸していた。

息子を夫からの暴力から守るためには、家にいなくてはならなかった。

一度、親に預けて働こうとしたことがあったが、その時は、

『俺の給料だけじゃ、足らんというんか?!それは俺への当て付けか?』

と言われて激しく殴られた。

プライドの高い氷神は明菜に仕事をさせることすら許さなかった。

そのため、息子を家に置いて仕事に出かけるわけにもいかず、もし、息子を1人にして、何かあれば取り返しがつかなくなる。

『このままでは、二人とも氷神に殺されてしまうのではないか?』

そう、思う日も度々あった。


そんなある日、彼女のところに現れたのが和田洋介であった。

彼は、町会の回覧板を持って回っていた。

それは、年寄りの多いこの住宅街で、お年寄りの代わりに回覧板を持って回っていたのだった。

そして、何度か、彼と話をしているうちに、彼のその優しい性格に好意を持つようになっていた。

それは、氷神にはない心の安息の場所でもあった。


洋介も最初は、氷神から暴力を受けていると明菜から相談を受け、そんな不遇な明菜へ同情をし、役所への相談窓口にも付き添うなどしていたが、いつの間にか、それが愛情へと変化していた。


二人が肉体関係を持つようになってからは、明菜の感情は加速した。


『氷神から逃げたい。』

その気持ちとは裏腹に、現実は残酷である。

実際に彼女と子供の生活を支えているのは氷神の稼ぎだったからだ。

当然ながら大学生の洋介に明菜とその息子を養っていける程の甲斐性はない。

だが、今のままでは、氷神から逃げられない。

そう思っていた時、あの事件が起こった。


洋介が、氷神から殴られそうになっている自治会長の高橋を守って殴られていた。

たが、それは、単に邪魔をされて腹を立て、殴っていたのではなかった。

自分達の不倫を、氷神は知っていたのだ。

それは、高橋の話からも出ていたように、執拗に殴り続けたうえ、お金を脅し取ろうとしていたのだ。

明菜は洋介との間に入り、氷神に土下座をして許しを乞うた。

だが、その行為がさらに氷神の怒りに火をつける。

『お前は、俺よりもそんな奴がエエんか!俺を舐めるのも大概にせえや!』

と言って、二人を殴り蹴り続けた。

洋介はそれで意識が無くなるほどの状態になり、警察に再度の通報が入り、氷神が逮捕された。

さすがにこれはやり過ぎだと思われたが、洋介は明菜との不倫に負い目があったことと、氷神から不倫のことを就職先にバラすと言われ、被害届を出すことは無かった。

洋介の両親も氷神から息子の不倫を盾にされ、それ以上追及することが出来なかった。

被害届が提出されなかったため、氷神は勾留はされたものの、起訴されることなく、警察から釈放された。


地獄はここから始まった。

氷神の暴力は日毎に激しさを増し、酒の量も増えた。

事ある毎に、洋介との不倫を口に出し、明菜を殴り続けた。

一度、明菜の様子を見に来た男がいた。

一条隼人、若い頃、氷神と暴走族のリーダーとして争っていた男だった。

彼は、氷神が暴力沙汰で警察に逮捕されたと、仲間内から聞き、明菜の様子を見に来たのだった。

彼は昔から明菜の事が好きであり、何度か明菜へ告白していた。

だが、その時は、既に氷神の女になっていて、独占欲の強い氷神からは逃げることはできなかった。

それに、実際のところ、隼人は明菜のタイプではなかった。

彼も直情型であり、洋介の事を知った今となっては、ただの相談相手でしか無かった。


なので隼人からは、『氷神と別れて俺と一緒になってくれないか?』と言われていたが、答えを濁していた。


それは、明菜と洋介にある一つの計画があったからだった。


明菜に対する暴力が激しくなっていた頃、洋介にも変化があった。

それは氷神からの金の無心であった。

名目は『不倫の慰謝料』であった。

最初は、数万円を支払ってもらったら示談にしてやると言っていたのだが、それは、恐喝する奴の常套手段であった。

段々と、金額を吊り上げ、払えないと言うと、

『俺が受けた心の傷は、こんな端金(はしたがね)で片が付くと思っとるんか?』

と言って、その脅し取った金額は数百万にもなっていた。

ただ、こんな事は誰にも言えなかった。

知っていたのは自治会長の高橋くらいだが、その高橋にも、

『誰にも言わないで欲しい』

と懇願していた。


だが、二人には一つの答えが出ていた。


『氷神を殺さないと、自分達に未来はない。』

と…


そして、殺人の計画が洋介によって着々と進められていた。

・殺人を実行する日には、明菜がアリバイを持っていること。

・洋介が手荒な真似が苦手なため、殺す手段は、酔って車で寝込んでいるところを、練炭自殺に見せかけて殺すことにした。

・練炭や七輪などは、計画実行の3ヶ月前に大阪府内から離れて、兵庫県内のホームセンターで、現金購入した。

3ヶ月前にしたのは、防犯カメラの保存期限を考えたことと、あと、現金だと、クレジットカードと違って足がつかないためだった。

マスクと帽子を被って商品を購入したが、これは当然、顔を見られたくないことと、買った人物が誰かわからないことで、洋介ではなく、氷神であった場合を警察が想定すれば自殺として処理される可能性が高いためであった。

マスクと帽子は、普通であれば怪しまれていたであろうが、折からの新型のウイルスの感染防止のため、ほとんどの客が店内でマスクを着用していたため、怪しまれることがなかったことも洋介の助けとなった。

・あと隼人には悪いが、死亡時刻にアリバイを作ったあと、明菜から隼人に連絡を入れさせた。

隼人は明菜の事が好きであり、必ず呼ばれればやって来ると踏んでいた。そして、死体を発見した明菜は、警察から怪しまれる事を恐れていると隼人に見せかければ、死体を乗せた車を必ずどこかへ移動してくれるものと判断し、明菜への求愛を曖昧にさせていた。

隼人に、こんな事をさせたのは、洋介が警察がDNAによる捜査を重視している事を知っていたため、隼人に警察の目を向けさせるため隼人のDNAが必要であったからだった。

それに、隼人を選んだのは、もし警察に隼人が捕まったとしても、隼人は明菜を愛しているため、必ず口を割らないと判断した上での利用だった。

案の定、隼人は明菜が氷神を殺したと思っていたようであり、明菜の事については一切喋らなかった。

だが、洋介には誤算があった。

最初、氷神が発見されたとき、警察は氷神の家にやって来て『残っている練炭』や『購入した時のレシート』を探していたと明菜から聞かされたのだ。

洋介は練炭の処理を忘れていた。

それに、警察は何故か、氷神の死因については自殺と判断せず、周辺捜査を継続、とうとう隼人を逮捕してしまったのだ。

最悪、隼人が捕まることは想定していたが、想定していなかったことがあった。


刑事が明菜を張り出したのだ。

警察は明菜を隼人の共犯者と見ていたが、完璧なアリバイを持っていたことと、隼人が明菜を売らなかったことや、決定的な証拠が無かったため、警察では明菜を逮捕できず、最初の事情聴取だけに止まらざるを得なかった。

だが、警察は諦めておらず、24時間の監視をしていたのだ。

そのため、洋介も自宅に隠している残りの練炭を処分することが出来なかった。

というのも、明菜の家と洋介の家は道を挟んですぐのところにあり、下手な動きをすれば警察にすぐに怪しまれて練炭の事がばれてしまうと思われたからだった。


隼人が逮捕され、しばらくした時、明菜から連絡があった。

明菜も練炭の処分に困っている洋介の事が気になっていた。

そして、明菜は洋介に、

『私が、警察に出頭して、自宅に帰ってきたら、夫が練炭で自殺していた。怖くなって隼人に連絡をした。隼人は疑われる事を恐れた私に代わって氷神の死体を車で持ち出し処分してくれたと言うので、警察が私に目を向けている時に隙を見て練炭を処分して欲しい。』

と告げたのだった。


洋介は、明菜がレシートを持って警察に出頭したのを見計らって、夕方に豊中のごみ処理センターへ練炭を運ぶことにした。

燃やしてしまえば証拠は残らないし、明菜の証言があれば、最悪『死体遺棄事件』は免れないとしても、事件は自殺として処理され、殺人事件の犯人となることは回避できるであろうと踏んでいた。


警察の車両や、刑事については、聞き込みに来ていた時に全てチェックをしていた。

だから、警察がこの辺りを張っている時は、直ぐにわかったし、レンタカーがある時も何か怪しいので動かないようにしていた。

そして、その時が来た。

変な赤い軽四の車が一台、家の近くに停まっていたが、中に乗っているのは、運転席と助手席に派手な女性が二人であり、到底警察関係者とは思えなかった。

この時、洋介は後ろの座席にいる黒山までは確認していなかった。

刑事達が、聞き込みを終え、引き上げて行くのを見て、

『今しかない』

と思い、自室に隠していた練炭を家の車に載せ、センターへ急いだ。

なんとか、受付の時間に間に合ったが、センターの職員に練炭の処分について、色々と言われて処理を渋られていたところに、先程、家の近くに停まっていた軽四の車がやって来て、目の前で止まり、そこから降りてきた怖そうな女性に、

『ちょっと、君!そのゴミを確認させて貰えんやろか?』

と言われて、

『ああ、この人は警察の人だ。僕をマークしていたんだ。』

と気付き、怖くなって、逃げることも出来なかったと話したのだった。


こうして、氷神進の殺人事件は幕を閉じる事になるのだが、当然、明菜と洋介は殺人事件の犯人として逮捕され、厳しい処分が下るであろう。

隼人については、利用され事情がわかっていないこともあるので、あまりきついお咎めは無さそうだが、しばらくは塀の中の生活のようである。



千陽子は、全ての捜査が終わったあと、スナック『ファンタジー』に飲みに来た黒山から事件の全容を『独り言』で聞いた。


「ふぇー、そんな話やったんですね。」

千陽子は店のカウンター越しに黒山の独り言を聞いた後、大きな息を吐いた。


他に客はいなかったが、こんなに捜査情報を平気で喋りまくる刑事とは、こんな男を警察本部の刑事としてのさばらしている警察は一体どうなっているのであろうか?

まあ、事件を解決したことはすごいとは思うが…


「私が警察の本部長なら、クロさんなんか、ソッコー首ですわ!」

千陽子のツッコミが炸裂した。





次はいよいよ、プロの芸人としての千陽子のツッコミとやらを見せて貰おうか!という感じです。


ではまた次回をよろしく。⊂(・∀・⊂*)

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