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第6話 来客

千陽子が黒山に振り回されます。

第6話 来客

千陽子が、事務所に戻ってきた。


「エージ!続きや、後半のネタを見たるわ!」

そう言って千陽子はエージが座っていたソファーの対面のソファーにドカッと座る。

しかし、エージは千陽子の顔をじっと見ている。

「どないしたんや、気持ち悪いな!」

「お客さん来てるよ。」

とマサやんが、千陽子に言う。

「えっ?誰?」

そう言いながら千陽子は、社長の机の横にある来客用のソファーの方を見た。

「あ、クロさん!」

大阪府警の捜査一課の刑事黒山五郎であった。

「どないしたんですか?」

千陽子が黒山のところまで近寄り、反対側のソファーに座る。

「お、レイコー頂いとるで。」

レイコーとは冷やしたコーヒー、つまりアイスコーヒーのことで、関西圏では昭和の後期から平成初期まで使われていたいわゆる『死語』である。

「クロさん、レイコーって、今時、そんな言葉を使(つこ)うてる人間いませんよ!」

千陽子がやさしめに突っ込みながら黒山に尋ねる。

「で、今日はどないしたんですか?」

「おお、それな、実はな明菜が出頭して来よったで。」

明菜とは氷神の妻である。

「出頭って?旦那を殺したって言うことですか?」

「いや、ちょっと違う、」

黒山が言うには、氷神の妻である氷神明菜は、死体発見の前に、既に自宅の駐車場で氷神が煉炭自殺をしているのを発見し、自分に好意を寄せていた一条隼人に連絡を入れたのだと申し出た。

何故隼人に連絡を入れたのかと言うと、彼には、以前から、自分に対して『夫と別れて自分と結婚してくれ』と言い寄られていて、明菜自身は、隼人に対してそんな気持ちはなかったが、そのようなきっかけから段々と話をするようになり、最近では隼人に、夫からの暴力について相談をしていたから連絡したのだという話だった。

彼には、

『夫がここでこんな形で死んでいたら、自殺ではなくて、日頃から夫からの暴力で近所でも有名になっているから私が殺したと言われるかも知れない。どうすればいいかわからないので相談したい。』

と言って連絡したらしい。

そうしたら隼人が明菜のところにやって来て、明菜に、

『自分が死体を処理しに行く、明菜はこの時間どこかにいたことにしてアリバイを作っておいてくれ』

と言って、どうも本当は自分が夫を殺したんだと勘違いしたのか、隼人は氷神の死体を助手席に移してどこかへ持ち去って行ったと言うのだ。

だが、隼人は私をかばって『氷神を殺した。』

と言っていると聞いたので、怖くなり、警察に申し出たと供述しているという話であった。

そのため、捜査本部は、明菜にも、隼人に対する死体遺棄事件の共犯者として、もうすぐ逮捕する予定らしいとのことだった。


「じゃあ、氷神の件はやっぱり自殺ですか?」

「うーん、まあ、死体遺棄は成立するが、嫁の供述が正しいのであれば、殺しは成立せんなあ、このままいったらそうなるかな。」

「クロさんのその顔だと、まだ何かあると思っている見たいですね。」

千陽子は黒山のしゃべり方に違和感を感じたので、黒山に尋ねた。

「おいおい、変なことを言うな、ワシは事件から外されとるんやから、いくら、おかしいとは思っても何もでけへんしな。あんまりあおらんといてくれ。」

と黒山が焦ったような口調になる。

「あ、そうですか、ところでクロさん、ワイ、今日、夕方に香と明菜の家に行こうと思とったんですけど、今の話しやったら明菜が家におらへんみたいやし、止めとこうかなと…」

と千陽子が言うと、黒山が身を乗り出してきた。

「…………いや、ちょっと待ってくれ、それって車で行くんか?」

「えっ、ええそうですけど?何ですか?」

「ワシもその車に乗せていって欲しいんやけどな。」

「えー、クロさんがですか?」

「そんな、あからさまに嫌そうな顔するなや、ちょっと気になることがあるんや。」

「気になることって?」

「車に乗せてくれたら教えたる。」

「それって、情報の漏洩ですやん。」

「あほ、いつも言うとるやろ、独り言や!」

「わかりました。独り言やて、ボケ老人とちゃうんやし…」

「あ?何かいうたか?」

「何でもありません。」

「そしたら、頼むで、で、集まる場所はどこや?」

「とりあえず、この事務所の入ってるテナントビルの前ですわ。」

「ほお、そら便利やな。」

と黒山はおどけたような表情をする。


「ところで、クロさん、最近、しょっちゅう会いますけど、ちゃんと仕事してますの?」

「心配せんでも、ちゃんとしとるわ。」

「もしかして、ワイらの事も疑っていて、それで監視をしてるとかやあらへんでしょうね?」

「アホ、監視やったらもっとわからんようにやっとるわ!それに、そんな監視せなアカン奴に捜査情報を誰が教えるんや!」

「まあ、そう言われたらそうですな。えらい、すんません。」

「わかったらエエわ、じゃあ、頼むで。」

そう言うと黒山はレイコーを飲み干してから事務所を出ていった。


「なんなんや、あのオッサン!アレは絶対何か隠しとるわ!」

千陽子は事務所から黒山が出ていったのを見計らってから、文句を連発した。

「ですけど、犯人はまだわからへんのんでしょ?」

とエージが言ってくると、千陽子は、

「ああ、わかってない…と思う。」

と曖昧な答えをする。

とりあえず探偵ごっこは一旦打ちきりの予定であったが、黒山が加わるという事は、打ち切れないことになりそうであった。



その日の夕方、香が、事務所の入っているテナントビルの一階玄関付近まで赤の軽四乗用車で迎えに来てくれていた。

運転が香で、助手席に樹里亜がいる。


「悪かったなあ、香!でもようわかったなあ、氷神の家。」

「ええ、昔の族仲間にアイツの家を知ってる奴がいて、ソイツに聞きました。」

と香が答える。

「そうなんや、そしたら、行こか。」

と言って千陽子は後部座席に乗り込む。

すると、背後から声がする。

「おいおい、ワシを忘れんなや!」

と黒山が慌てて車まで走ってきた。

「あ、忘れてましたわ。」

「ハアハア、アホ!お前はニワトリか?!」

息を切らしながらドアを開けて、黒山が千陽子の隣に座る。

「え?ニワトリ?」

「ハアハア、右向いて左向いたらもう忘れとるっちゅうやつや!」

「ひど!」

「ひどいのはお前や、こんな年寄りを炎天下の中に置き去りにしようとしてからに。」

「炎天下って、もう夕方でっせ?」

「ワシの中では、真っ暗になるまで、炎天下や!」

と黒山が言うと前の席に座っていた二人が会話に加わる。

「はい久しぶりに出ました、クロさんのトンでも理論や!」

と樹里亜が言うと香も、

「こんにちは、お久しぶりですクロさん。」

と丁寧な挨拶をする。

「おう、お前らも久しぶりやな、あの頃から比べたら、二人ともえらいベッピンさんになったのお。」

と二人を誉める。

「クロさん、ワイにはそんなこと一言も言わへんかったやん?」

と千陽子が言うと、黒山は、

「うーん、そやったかな?忘れたわ。」

「ひど!」

とか何とか話をしながら、事件の現場近くにある、氷神の家の前付近に着いた。

黒山は車を降りる前に、大体の話の流れを説明した。


「氷神の死体が発見されたとき、この家の近くに刑事が入って、聞き込みはかなり行われたんやけどな。事件の犯行時刻頃に氷神の車の目撃情報は無かった。と言うか、普段から駐車場に止めたり移動したりを繰り返していたのと、夜中も改造したマフラーで、騒音を垂れ流していたみたいで、一度注意をしようとした大学生が氷神から殴られるという事があってから、皆は腫れ物を触るような感じになり、アイツの車が帰ってくると家の窓を閉めて、因縁をつけられないように自宅で息を潜めていたみたいなんや。」

「で、その学生さんは?」

「まあ、その時は明菜が平謝りをして、被害届は出さなかったみたいやけどな。」

「ふーんそうでっか。…」

と千陽子が何かを言おうとしたが黒山が話を続け出した。

「なんか、変なとこやで、ここは。」

「変て?」

「住民、皆の目付きや…」

「目付き?」

「ああ、何や、氷神の人間性もあるんやろろうけど、ワシらが犯人探しをするのを邪魔すると言うか、非協力的と言うか、そんな感じなんや。」

「つまり、『日頃から皆に迷惑をかけている目障りな奴が殺されたのは当然であって、ソイツを殺した犯人はよくやった。』とでも言いたげだと?」

「そうや、せやから皆の口が固い、何か知っとるやろうけどな。」


この地域は、バブルの前に高級住宅地として売られていたが、バブルが弾けて値段が下がり、高額なローンを抱えた高齢者が多数住んでいる。

中には、氷神のように、安くなってしまった家付きの土地を購入して入居するものもいるが、そんな者は稀で、ほとんどの住民がローンの支払いが残っていて、仮に家を売ってしまったとしても、次に住むところが無くなってしまうために、売るに売れず、仕方なく、死ぬまでローン地獄の中を生きているのだ。

そんな中に、毎日酔っぱらっては付近住民に迷惑をかけるとんでもない男が引っ越してくる。

一度注意でもしたら、怒りまくって、暴力沙汰を起こす。

そんな人間を誰が救おうと思うのか、逆に殺した人間に賛辞を送りたいとでも思っているのであろうか。


「とりあえず、ワシもな、ほんまに仕事外やが、顔見知りが殺されとるからな、ちょっとは気になるところがあるんでな。」

「気になるところ?」

「ああそうや、氷神の自宅にはもうすぐ明菜の出頭があったので、ガサが入る予定やけどな、最初の捜査では自宅内には練炭が無かった。当然ながらそのレシートもや。」

「何で、そんなことを?」

「警察はな、人が外で死んでたら『変死』っちゅうてな、殺人事件となる全部の疑いをクリアせな、自殺と認定せんのや。」

「た、例えばどんなことをクリアせなあかんのですか?」

樹里亜が黒山に尋ねる。

「あんまり言われへんけどな、今回の件では『練炭』や、あれを購入した経緯をはっきりさせないとあかんねんや。あと、残りの練炭の置いてある場所とか。」

「前から自宅に置いていたとか?」

「有り得んな、今時、こんな住宅街に昔から置いていたとかいう練炭は見たことはないし、それを燃やす七輪も、それを使って仕事をする人間ならまだしも、そこらへんの兄ちゃんとかが、持っていることは珍しい。現に氷神が死んでいた時も七輪は買って間無しの、新しいヤツやったしな。」

「ということは、それを持っているヤツがいると?」

「せやな、この近所かもな。」

「え?」

「犯人やったら練炭が自分の家にあったらどう思う?」

「え?犯人だったらですか?えーと。うーんと。」

千陽子はいきなりの質問に戸惑う。

「犯行の証拠品になるので、頃合いを見て処分する。」

香が横から答える。

「あーそれ、今、言おうと思とったのに!」

と千陽子が悔しがる。

本当に言おうと思っていたのかはわからないが。

「その通りや、もし、やるんやったら、今まで、明菜に向いていた目が向こうにある、今しかない。」

「明菜に向いていたって?」

「アホ、お前、店にシンジが来て何を聞いたんや?」

「えーと。明菜と隼人の関係がどうとか?」

「それや、警察はハナから明菜をマークしとったんや、隼人がうとてもな。それが、アイツ、自ら出頭して来よった。」

「それが、何か?」

「アホ、警察目を反らして騙すためや。」

「え?隼人を助けるためじゃなくて?」

「そうや、明菜は自分がマークされてるのを知っとった。せやから、自分から動かれへん。何とか、その練炭を真犯人に処分させたいがために、警察に出頭して、自分が囮になったんや。」

「なんで、そんなことを?」

「アホ、そんなことまでわかるか!」

「そんな、何回もアホアホ言わんでもエエですやん。」

と千陽子がちょっと凹む。

ツッコミでは、鋭い頭の回転を見せる千陽子だが、さすがの千陽子も殺人事件となると頭の回転するところが違うみたいで、黒山に何度もダメ出しを食らってしまう。

流石に言い過ぎたと思ったのか、黒山が、

「千陽子、ワシも言い過ぎた、悪かった。」

「あ、いえ、大丈夫ですから。」

「ワシもな、ちょっと虫の居所が悪うてな。」

「クロさんていつも虫の居所が悪いイメージがありますけど?」

「アホ!あ、悪い。」

「捜査から外されたことですか?」

「いや、違う、ここの住民のことや。」

「え、正直に話してくれへんことですか。」

「まあ、半分当たりやな。」

「もう、半分は?」

「いくら、自分達が困らされていた人間が殺されても、犯人がわかっていれば、正直に話すべきやと思うてな。」

「そら、そうでしょ、そんな奴が近所におるおもたら怖あてしゃあないで、実際。」

「それなんや、普通なら絶対に犯人のことを喋るヤツは一人はおるはずや。それやのに、誰も言わへん。ここの住民皆がそいつを庇うとるとしか思えんのや。」

「そんな、犯人はここの地域の人間に間違いないんですか?」

「恐らくはやけどな…はあ」

と黒山がため息をついた、その時である。

一台の車が家の車庫から移動してどこかに行こうとしていた。

それを見た黒山の目が光る。


「千陽子、お前は香とあの車を追え、せやけど絶対に手を出すな。樹里亜、お前はワシと来い、ちょっと捜査の手伝いや。」

「えっ、えっ、?」

樹里亜が、車から降りた黒山に助手席から引きずり出される。

「女がおったら、聞き込みがしやすいんや。野郎ばっかりやと相手も緊張するからな。」

千陽子は後部座席から降りて、助手席に移動しながら

「はあ、とりあえず、追いかけますけど、アイツは一体誰なんです?」

「恐らくは真犯人や。」

「えっ、?」

「ほら、ぼーっとせんとはよ、追いかけな、証拠品処分されるで。」

「わ、わかった!香、行くで!」

「了解、リーダー!」

「せやからリーダーはやめえって!」


とか言いながら香の運転で、軽四は犯人と思われる者が乗っていると思われる車の後を追いかけて行った。


この作品はフィクションです。実在の人物、団体には一切関係はありません。


とりあえずこれは入れときます。

実際のところ、警察が、一般人巻き込んでこんな捜査することはありませんから。

では、次回までさようなら(´・ω・`)/~~

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