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歌姫様は男の娘!?  作者:
第1章
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番外編 バリーの憂鬱

 最近、カンタービレが楽しそうにしている。

 そのこと自体はとても喜ばしいことだ。

学校に入学してからというもの、塞ぎ込んでばかりいた弟が嬉しそうな表情で学校へ出掛ける姿には安心する。しかし、その反面、これで本当に良いのかという疑問も浮かぶ。


 極度の男性恐怖症であるカンタービレは、未だに自分のことすらも受け入れられないでいる。

 そのせいで女の格好をして過ごしている姿を見ていると、複雑な感情が湧いてくることを押さえれない。

 男を見ると本当に死にそうになってしまう弟にとっては、自分の性別すらも受け入れることが出来ないのだろうということは分からないでもないのだ。

 カンタービレは、男としての生活を強制すれば精神的に追い詰められて死んでしまいそうだということも想像がつく。

 

 だが、それでも、私は弟が己の性別を偽っていることに不快感を覚えるてしまう。

 それは、女のような容姿を影で馬鹿にされてきた屈辱を思い出させるせいなのかもしれない。


 父上も私と同じように感じているようで、カンタービレのことを複雑そうな表情で見ていることが多い。

 そんな中で、女しかいない神官学校へあの子を入れたことは良いことだったのか未だに悩んでしまう。


 確かに、このまま男性恐怖症が直らなければ、弟は外に出ることすら出来ないまま、一生を家の中だけで過ごすことになるだろう。それよりは、女しかいない神官となり、神殿で少しでも他人と触れ合う時間を持つ方が良いのかもしれない。

 だが、それはただ逃げているだけなのでは無いかとも思ってしまうのだ。

 危険を承知で、もっと男性との触れ合いをさせ、慣れさせるべきなのではないかと。


「バリー兄様」


「・・・お帰り、カンタービレ」


 考え込んでいると、ちょうどカンタービレが帰ってきた。

 にこにこと嬉しそうに微笑んでいる姿は、母上のように可憐で愛らしい。

 同じ年頃の女性よりも更に小さな弟は、恐らく母上に似たのであろう。

 背の低さと美しい容姿が相まって、どうしても庇護欲を刺激させられる。

 顔はどちらかといえば父上に似ているのだから、私やメッツォたちのように背丈も父上に似れば、否が応でも己を男だと自覚するしかなくなっただろうに。

 これでは周りも男なのだからと厳しく対応することが難しくなってしまう。

 そんな風に思いつつ弟を見やる。その視線の意味が分からなかったのだろう、カンタービレはきょとん、と母上譲りのサファイアのような瞳をこちらへ向けたまま小首を傾げた。

 その仕草すら可愛らしいのは、女性らしくしようとわざとやっているのか、それとも無意識の行動か。


 前者ならばまだ改善の余地はあるが、後者ならば質が悪い。

 兄である私ですらときめいてしまうほどの愛らしい行動を無意識の内にしてしまうというのならば、男性恐怖症がなくとも男に会わせるなど危険で出来ないではないか!

 見た目でナメられないよう、男らしく振る舞っている私にすら不埒な行為を仕掛けてくる輩がいるのだ、そのような者たちに弟を会わせるなど、狼の群れへわざわざ羊を放してやるようなものだ。

 将来的にはカンタービレも社交界へ参加させようと考えていたが、それはやはり止めておいた方が良いのかもしれない。


「バリー兄様?どうかなさったのですか?」


「いや、なんでも無い。それよりも、今日は学校でどんなことをしたのか教えてくれるか?」


「はい。今日は音階の勉強と、神への祈りの捧げ方について習いました」


 自分の思考に没頭するあまり押し黙ってしまっていた私へ、カンタービレが訝しげな表情を向けてくる。それをどうにか誤魔化しつつ、ついでに今日の弟の行動について把握することにした。

 そんな私へ特に疑問を抱いた様子もなく、カンタービレは再び楽しそうな表情へと戻り、学校であったことを話始めた。

 どうやら、今日も何事も無く過ごすことが出来たようだ。


 しかし、放課後に何をしていたのかという話になると、いきなり言葉に詰まり、しどろもどろになる。

 そのことに、自然と眉間に皺が寄る。

 最近はこういうことが多かった。どうやら、放課後や休みの日に誰かと遊んでいるようなのだが、どうにもその相手を家族へ教えたくないようなのだ。

 母上がしきりにあの手この手で相手を連れて来させようとしているのだが、弟は頑なにそれを拒否している。


 それは、母上が絶対的な権力を持っている我が家では有り得なかった光景だ。

 私としても、女装させられるのは嫌なので弟を見習って拒否してみようと試みているのだが、未だに成功したことは無い。


 まあ、それはおいおいどうにかするとして、弟が言う通り、本当に密会相手が極度の人見知りなだけならば良いのだが、どうにも、良からぬ者に騙されているのではないかと勘ぐってしまう。

 男性恐怖症の弟に限って男だということは無いだろうが、毎日のようにその者から貰ってくる花や木の実を見ていると、男の影がチラついているように思えてならないのだ。

 それでも、どうやらカンタービレが学校へ楽しく行けるようになったのはその者のおかげであるようなので、会うなと言うわけにもいかなかった。


「それで、今日習った歌がとても綺麗な曲だったんです。だから、後で兄様たちにもお聞かせしたいのですけど、お時間はありますか?」


「そうか。ならば、夕食後が良いだろう本日は父上も夕食を共に出来そうだと仰っていたからな」


「えっ!そうなのですか?なら、気合いを入れないといけませんね。父上に中途半端なものは聞かせられませんもの」


 頑張るぞ!と、可愛らしく拳を固めて意気込む姿についつい頬が緩みそうになる。

 それをどうにか精神力で押し込め、カンタービレの母上譲りの猫毛を撫でる。

 ふわふわと綿のように柔らかな感触は、何時までも撫でていたくなる心地良さだ。

 だが、あまり撫でていると髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまうため、長い時間は撫でていられない。

 名残惜しくはあるが、この辺りが止め時だろう。

 ほどほどのところで頭から手を離し、連れ立って廊下を進む。

 すると、前方からドタバタと騒々しい足音が聞こえてきた。

 この足音はメッツォだな。全く、廊下は走るなと何時も言っているというのに、忙しないやつだ。

 少しすると、曲がり角から予想通りの金髪が走って来た。


「あ、カンタービレ!バリー兄帰ってきてたのかよ」


「はい、ただいま戻りました。メッツォ兄様は本日も都外へお出かけだったのですか?」


「そうだぜ。見てみろよ、このデッカい鹿の角。爺様が仕留めたんだけどさ、俺も追い込みを手伝ったんだぜ!」


 服のアチコチに泥やら木の葉やらを付けたメッツォは自慢げに手に持っていた鹿の角を掲げる。

 確かに、自慢するだけの価値はありそうな大振りの角だ。メッツォは本日お祖父様に無理を言って狩りへ同行させていただいていたからな。

 その時の興奮が未だ冷めていないのだろう。頬を上気させて何時も以上に大きな声と身振りで話している。

 せっかく母上に似て愛らしい顔をしているというのに、カンタービレやバッソを見習えととは言わないが、もう少し大人しく出来ないものだろうか。


「まあっ!立派な角ですわね角がこれだけ立派ということは、身体も相当大きかったのでしょう?」


「ああ。俺より大きくてさ、それを爺様はこう、ゴワーって、やってザンって仕留めたんだ。カッコイイよな」


「ええ、お祖父様は凄いですわね。でも、お祖父様について行ける兄様も凄いですわ」


「へへっ、そうかな?」


「はい。・・・でも、怪我には気をつけて下さいね」


「だーいじょうぶだって、そんなヘマしねえよ」


 そう言うものの、メッツォの身体にはところどころ擦り傷が見られる。

 あれはメッツォにとって傷には入らないということか。

 その様子に呆れる私とは違い、カンタービレは心から心配そうな表情をメッツォへと向けている。


「メッツォの傷の手当てをする。準備をしておけ」


「承知いたしました」


 メッツォがカンタービレへ気を取られているうちにと、近くに控えていたメイドへと指示を出し、手当ての手配をする。

 後は手当てされることを嫌うメッツォをいかに捕まえるかだが、それはバッソに手伝って貰えばどうにかなるだろう。

 そう考えながら、楽しそうにはしゃいでいる弟たちを見やる。


 メッツォの方が母上似のはずだが、こうして二人並んでみると、明らかにカンタービレの方が可憐で愛らしい印象を受ける。

 それは、内面的なうつくしさが表にも出ているせいなのだろう。

 そこらの娘などよりよほど清楚で世間知らずなこの子は、人を疑うということを知らない。


 今も、メッツォの誇張した話を本気にしているし、こんなことでは神殿で貴族の相手もするようになれば良い鴨として扱われかねない。


それはなんとしても避けなければ。


 やはり、この弟のことは私が守ってやらねばならない。

 そう決意を新たに、ひとまず、今この子が密かに会っている相手が不審な者で無いかどうかを父上にも頼んで調べる必要があると計画を練る。

 私の弟を傷つける者であれば、例え相手が悪魔であったとしても容赦はしない。

 私の出来うる全てでもって排除してやる。


「バリー兄様、早く行きましょう?母様がクッキーを焼いて下さっているそうですよ」


「・・・分かった。それならば急ぐとしよう」


 私が思考している内容を知る由も無いカンタービレが、無邪気な顔で問いかけてくる。

 その表情に毒気を抜かれ、私は一つ苦笑を零すと、急かしてくる弟たちの後に続いて歩き始めた。




ここまで閲覧していただきありがとうございます。


今回は番外編第二段ということで、カンタービレの兄視点にしてみました。

お気づきの方が多いとは思いますが、彼はファザコンでマザコンで重度のブラコンです。

いわばファミコンですね(笑)

自分の容姿にコンプレックスありまくりなので、女の恰好をしているカンタービレには色々と複雑な感情を抱いていますが、家族至上主義なのと、無自覚ですが、父親同様小さくて可愛い子が好みなので、ストライクゾーンど真ん中なカンタービレのことが可愛くて仕方ないです。

なんで、多分密会の相手が皇女だと知ったところで、多少狼狽はするでしょうが、カンタービレを泣かせでもしたら、皇女だろうが、知ったことか!とか言って突っかかっていくことでしょう。


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