9 脱がされないと気付かれません
「あれ? 悠真がなんでいるんだ? 俺、間違えたか時間?」
誰だ? この部屋は観察してたら、30代前後の荷物をいっぱい持ってる男の人が来た。
「多分……間違ってますね。今日はここの利用表には、湯浅さんの名前なかったですもん」
「げっ。今日、俺オフだったのか? まぁ、いいや。悠真はここで何やってんの?」
「ここを使うんだから、写真を撮るに決まってるじゃないですか」
え、それってあたしの事言ってる? あ、そういう事か。
ここは、写真スタジオって事か!
「あ? お前カメラマン志望だったけ?」
「いや、履歴書写真みたいのを撮りたくて」
「あ?」
あ? って、この人、口悪いよね? なんだ、この人?
なんて、考えてるとその人と目が合った。
「なんだ、もう一人いたのか。こいつの撮んの?」
あたしの事、気付いてなかったんですか? あたし、この部屋のど真ん中にさっきから居たけど……この人、ちょっと天然なのかな?
ふーん、と、言いながらあたしの事を、下から上まで舐めまわすように見る。
「暇だし、俺が撮ってやんよ」
「まじですか? ラッキー! じゃあ、お願いします! 準備してきますね」
お前ラッキーだな! なんて、兄ちゃんは嬉しそう。
湯浅 恭平兄ちゃんがバイトしてるとこ関係のカメラマンで有名な人らしい。
「じゃあ、この服着て。着替えたら呼んで。髪とメイクするから」
「あーい」
って、何この服! この服は男物だけど、兄ちゃん間違えたの?
さっきあたしが詰め込んだスーツケースから出してたから、間違えたって事はなさそうだけど。
「兄ちゃんっ、なんで男物の洋服なの?」
叫んで兄ちゃんを呼ぶ。
「パンフレットに書いてなかったけ? 普通に男のモデルとして、出てもらうんだけど」
「はい?! そんな、話は聞いてないよ!」
「大丈夫だって! それに、ちゃんとこれやれば、翠玉高校決まるぞ」
「……へ? 翠玉?」
「そうだよ。だから、しっかりやれよ!」
えっと、良くわからないけど、これをしっかりやれば高校が決まるって事だよね?
「悠真まだかよ? あ? お前、まだ着替えてねぇの?」
頭の整理がまだなあたしの所に、湯浅さんがズカズカと来た。
「早く着替えろよ!」
──えっ?
何が起きた? 兄ちゃんを見ると「あぁあ……」って顔に手を当てて項垂れてる。
湯浅さんは、きょとんとしてる。
「わ、わりぃっ」
湯浅さんがあたしに謝って、さっと部屋を出てく。
兄ちゃんは、もうこの部屋には居ない。
あたしのTシャツが足元に転がっている。なんでだ? 鏡張りのこの部屋の自分を見ると……あたし、Tシャツ着てない!?
「い、いやぁああああああああっ!」
Tシャツ、脱がされてた! なんで! え!?
見られた? 知らない男の人に見られた!
兄ちゃんは家に居る時に気にしないで着替えてたからまだいいけど。
……湯浅さんは、他人だよ?!
「おい、じじい! 何してくれるんだ!」
「おい、幸! じじいって。こらっ!」
「止めてくれるな、兄ちゃん! 離せ!」
あたしを羽交い絞めにしてる兄ちゃんを、肘鉄で攻撃「いってえ!」と言ってるけど兄ちゃんは無視だ。
「あ? うるせぇな。お前が、男みたいな顔と体してるのが悪ぃんだろ」
ふっ、とカメラを触りながら笑う湯浅さん。
は? 湯浅さんはあたしの事を、男の子だと思って脱がしたの?!
……ま、負けた。
だったら、なんか言い返せない。ぐすん。
「悠真、こいつ男装趣味なのか?」
「いや、ちょっと……」
こそこそ、兄ちゃんと湯浅さんがなにか話してる。
落ち込んでると、兄ちゃんがあたしの髪の毛を勝手にいじりだした。
もぉいいよ。勝手にしてくれ……。
「髪の毛は、少し立たせれて。メイクは、眉毛少し太くすればいいな」
湯浅さんは、カメラをガチャガチャ何かをやってる。
「悠真、履歴書の写真って適当でいいんだろ?」
「……湯浅さんの適当って。適当じゃないですよね?」
「あ? 適当でいいんだったら、終わってるし。こんなもんで、いいんだろ? ほれ」
湯浅さんが兄ちゃんにカメラの液晶を見せる。
……終わったって、何が?
「え? あ、本当だ。ありがとうございます。いつも、適当に見えてたけど……これが、本当の適当なんすね。すげぇ」
「ほれ、じゃあ俺は帰るわ」
兄ちゃんにメモリーカードをポンッと投げて、帰ろうとした湯浅さんが立ち止まる。
「あぁ、そうだ。そいつ、また俺が撮るから宏樹さんに言っといて。お前より、こっちのが面白そうだわ。じゃあな」
颯爽と湯浅さんは、居なくなってしまった。
えっと、写真をもう撮り終わったって事でいいんでしょうか? もう終わったとか早すぎる気がするんだけど……。
「お前、その男の格好で外出る気ある? これから、会ってもらいたい人がいるんだけど」
そうだ、着替えてたんだ。
下着見られた怒りで、どんな服なのかも気にしてなかったけど……七分丈のデニムのパンツに真っ黒のTシャツの上にカジュアルだけど、オシャレな白いシャツで足元は茶色い皮のサンダル。
兄ちゃんの好きそうな格好だし、あたしより兄ちゃんのが絶対に似合うと思うけど。
それに、服も着たけれどものの10分しか着てない。
髪の毛もなんだか、いじられたしこんなんで外出たら完璧に男の子じゃん。
今度、男のふりしてモデルするからって、今もわざわざそんな恰好しなくれもよくない? 無言で兄ちゃんに訴えてみる。
「あー。分かった分かった。着替えていいから」
「顔と頭も!」
「洗いたいの? あー。湯浅さんが撮ってくれたし、学校サボって来たから時間は……あるんだけど。じゃあ、俺は写真コピーして来るから、部屋でシャワー浴びてていいよ。あ、それとすぐ戻るから鍵開けといて。そしたら、すぐ行くから」
スーツケースと部屋の鍵を何も言わずに渡された。
持ってて! とかの一言くらいあってもいいと思うんですけど。
相変わらず言葉が足りない兄ちゃんだなぁ。
お風呂上がりに暑いから少しラフな服を借りようと思って、家中の部屋を見るとリビングと寝室しか兄ちゃんは使ってない。
いいなぁ、このマンション。
あたしも住みたい。寮らしいけど、兄妹なら一緒に住んでもよくない? 本当に翠玉高校に行けるなら、ここからの方が近いしきっと楽だろうし。
「なに、このお風呂!」
デカいんですけど。
実家のお風呂場のサイズとあんまりかわらないんだけど、ボタン一つで勝手にお湯が入るし、テレビ付いてるし、いっぱいボタンがあって乾燥とかなんとかってかいてある。
実家のお風呂より機能が充実してます。
これって、学生の住むマンションなんでしょうか?
部屋の広さもそうだけど、学生の住むとこってお風呂とトイレ一緒なんじゃないの? 絶対にいいマンションじゃんここ!
お風呂を出て、リビングに転がってたドライヤーを借りる。
相変わらずショートカットのあたしですから、すぐ乾きます。
「暑い! アイスでもないかな?」
冷蔵庫を勝手に開けてみる。
おお、ラッキー! 定番の坊主のあの青いアイスがありましたぁ!
「あ、兄ちゃん、だらしないなぁ」
さっき、兄ちゃんが持ってたトートバックが、キッチンのとこに無造作に置いてるから中身が出てる。
リビングに置いとけばいいかな?
カバンを拾った時にヒラヒラっと何かが落ちたから拾おうとすると、可愛い封筒にハートのシールがいっぱいの手紙。
さっきの女の子が兄ちゃんに渡してたやつかな?
──ダイちゃんへ
宛名には住所はないけど、ダイちゃんってあたしの知ってる大輔くん? それだとしてもあのパーティ以降、兄ちゃんと接点なんかないはず。
あたしだって、あの日に遊ぶ約束したものの遊んでないけど、兄ちゃんのどこのプロダクションの子会社なんだ?
もしかして、クリスタルのとこの……だったら?
「ゆーーうーーくーーん、入るよーー!!」
「うわっ!」
鍵開いてたから誰か来ちゃったよ。
兄ちゃんの名前を知ってるってことは、兄ちゃんの知り合いだよね。
「兄ちゃん、今ちょっと出てて……え?」
「あれ? 幸ちゃんだ。 久しぶりっ!」
え、え、え、ええええええええええええええええっ?!!!
ビックリしすぎて、後ずさりして壁に穴が開くんじゃないか? って、勢いで壁に激突するあたし。
「大輔くん?!」
もしかして、まじでクリスタルのとこのプロダクション?!
芸能界でも1.2を争うデカいとこじゃん。
えっと、兄ちゃんはあたしをそこに? いやいや、兄ちゃん如きにあたしをそこに、所属させれるわけないじゃんねー。
落ち着けーあたし。冷静になろう。
考えろ。きっと、これはあたしの幻想だ。
ちょっと、手紙の宛名がダイって書いてあったからそんな妄想が。
「幸ちゃん大丈夫? あれ、部屋着……お風呂上りかなんか? ごめん! 外でユウくん待ってるから気にしないで」
パタンと静かに玄関のドアが閉まる。
なんだっけ?
あ、そうだ、兄ちゃんが帰って来たらどっか行くんだから、アイス食べたし、髪の毛も乾かしたから着替えよっか。ねっ。
着替えたけど兄ちゃんまだ帰って来ないのかな。
玄関をそっと開けてみる。
「あ、幸ちゃん。着替えたの?」
ドアの横で座ってる人がの言葉を無視して、開けたドアをまた閉めてドアに寄り掛かる。
……やっぱり、大輔くんだったよね?
「なんで、閉めるの! あっ!」
「え、あっ。きゃあっ」
閉めたと思ってドアがすぐに開いて、ドアに寄り掛かってたあたしは、そこにいた人に寄り掛かるように倒れる。
「ちょっと、何してるの? 大丈夫?」
「だ、大輔くん? え、あ、あのっ……」
受け止めてくれた大輔くんの腕の中に、あたしのカラダがスポっとはまる。
久々に会ったけど、身長伸びたねぇ……腕もがっしりしてたくましく……って、や、ヤバい。
混乱とこの密着の緊張のせで、心の中では暴れてるのに行動には出来ない。
「お前ら、家の前で何やってんの?」
「あ、ユウくん、おかえり!」
兄ちゃんが帰って来たのに気付いて、ヒョイっと大輔くんがあたしを元の体制に戻してくれる。
「なんで、ダイがいるの?」
兄ちゃんはブツブツ言ってるけどあたしには聞こえない。
本当になんで、大輔くんが兄ちゃんの家に来てるの?
2人が仲よさげに見えるのは気のせい?
大輔くんも兄ちゃんの事をユウくんって……さっきのありえない想像がますます、本当っぽくなっちゃってるじゃん!
「学校の帰り道に、湯浅さんに会って「悠真が面白いやつ連れて来た」って言ってたから見に来たら、幸ちゃんが居たー!」
「面白いやつ……ね。まぁ、あれは、傍から見れば面白い状況だったと思うよ」
大輔くんは不思議そうな顔で、あたしと兄ちゃんの顔を見る。
「ねぇ、ユウくん幸ちゃんに何にも言ってないの? 俺が居るの驚いてるみたいだけど」
「あぁ、これから宏樹さんのとこ行くから、それから話そうかと思ってたんだよ」
兄ちゃんと大輔くんは、なにやら話をしてる。
「宏樹さんのとこ行くなら、俺も行こうかなぁ。オフでも一人でフラフラできないし」
「はぁ? お前も来るの?」
「だって、暇だし幸ちゃん久々だし!」
ちらっと、あたしを見る兄ちゃん。
そんな見たって、見なくたってあたしのこの混乱は解決しませんよ!
「余計な事を言うなよ?」
「分かってるよ。じゃあ、幸ちゃん行こっかっ!」
ニコニコ楽しそうに、私の背中をグイグイ押す大輔くんを横目にタクシーを呼ぶ兄ちゃん。
「タクシー代、ダイが払えよ。付いて来るなら」
「えぇ、俺?!」
「お前が制服だからタクシーなんだよ。しかも、お前だったら後で経費で落とせるだろ。俺、バイトだから落とせないし。Treasureの事務所まで、お願いします」
タクシーの運転手に行先を告げる兄ちゃん。
「『Treasure』って、大輔くんが所属してる芸能プロダクションじゃん!」
「うん。俺のバイト先でもあるけど?」
「ユウくん、俺らのメイクさんの、アシスタントのバイトしてくれてるんだよぉ」
……は?
なんで、こんな大きい事務所で兄ちゃんが、バイト出来てるのかも気になる所ですけども。
「そんな大事なことを……兄ちゃんはなんで、先に言ってくんなかったの! それに、兄ちゃんがモデルにあたしをいくら使いたいって言ったって!」
「あ、それは大丈夫だからお前が気にする事じゃない。別に何処の事務所でもいいだろー? おバカな幸が高校行けるなら」
「そ、それは……」
高校であたしを釣るなんて悪徳スカウトマンより、兄ちゃんとっても性質が悪いと思います。
何故か兄ちゃんは、一年前のパーティーの時に仁志くんの髪の毛をセットした兄ちゃんを秋香さんが気に入ったらしく。
社長の宏樹さんも色々と協力してくれて、兄ちゃんが行ってる専門学校の推薦状を出してくれたのがそこのヘアメイクの代表さん。
そこの専門のショーで使うモデルは専属契約してるTreasure所属のモデルだけだから、兄ちゃんはあたしを使いたいからにTreasure所属してもらうって考えらしい。
って、事を言葉足らずな兄ちゃんの代わりに、大輔くんが説明してくれた。
「これからその社長に会いに行くからねぇ」
「あたし……パーティーの時に社長って人に、挨拶すらしなかったけど大丈夫なのかな?」
「それは気にしなくて平気。秋香さん、あの日ずっと機嫌悪くて酔っぱらって社長に絡んでたから」
「宏樹さんは秋香さんと違って、話しやすい人だから普通にしとけば大丈夫だよぉ」
社長さんって、あの……おじ様だよねぇ? だけど今から直接、社長さんに会いに行くって凄い事なんじゃ。
「着いたよ。幸ちゃん!」
大輔くんが到着を教えてくれてタクシーを降りると、目の前に何階建てか分からな大きいビル。
外の看板には『Treasure』といくつか看板が並んでて、ジムとダンススクールとヘアメイクとか色々なトレジャーの子会社の事務所が入っていて、それをまとめてる社長の宏樹さん。
基本的に社長さんは、芸能の方の仕事をこなしていて秋香さんの旦那さんの身内の方らしい。
こんなデカいとこ、あたしが来る所じゃないよ。
緊張と引き目を感じて重くなった足で、ビルの最上階に到着する。
あたしのそんな気持ちも知らずに、兄ちゃんと大輔くんは友達の家に遊びに来たかの用に軽いノリで1つの部屋に入って行く。
「こんちわーすっ!」
「おぉ、来たかぁ!」
社長さんもニコニコしながら、兄ちゃん達の挨拶に片手を上げて応じてる。
「あれ? 悠真くん、妹ちゃんを連れて来たの?」
「あ、えっと、初めまして。悠真の妹の幸です」
あたしも、こんちわーす! なんて、挨拶が出来るわけもなく、ペコリと頭を下げる。
「てっきり僕は、悠真くんは和弘くんを連れてくると思ってたよ」
「あ、それは……和弘はどうせ来年こっちの高校だし後回しです。住むとこは、秋香さん家の方にしてもらいます」
池山を連れてくる? 来年はこっちの高校? なんの話をしてるんだろ?
「その話は後でいいか。挨拶遅くなってごめんね。初めまして幸ちゃん。山川宏樹ここのビルの責任者だ。「宏樹」って呼んでくれていいからね!」
いやいや、呼び捨ては出来ません。
流石の兄ちゃん達も宏樹さんって呼んでるし、それに自分の事は社長だとは言わないで責任者って自己紹介するんだ。
社長って言うと威圧感あるからかな?
「宏樹さん、これ写真。それと、湯浅さんがよろしくって」
さっきプリントした写真を兄ちゃんが宏樹さんに渡す。
「ん? この写真は湯浅が撮ったのか? あー。ヤバいなぁ。これ、まじいいなぁー」
いいって、それ男バージョンのあたしじゃん。
あまり嬉しくないけど、褒めてるんだよね。
すっと、立ち上がって、何やらファイルを取り出す宏樹さん。
「でもね、こっちの湯浅の写真の幸ちゃんもいいんだよなぁ」
見てみなって、ファイルをあたし達の方に向ける。
それを見ると、あの時のパーティの写真でジュンくんがあたしの肩に腕を回してる写真だった。
……これ、いつの間に撮ってたんだろ。
「幸ちゃんは、悠真くんのモデル本当にやるの?」
「はぁ……兄ちゃんと約束しましたけど、あたしがここに居ていいのでしょうか」
「まだ、それ言ってんのかよ」
はぁ、ため息をつきながら兄ちゃんが、ポケットの中から何かを出して、宏樹さんに渡す。
学校のサボりを黙っててもらうだけの話が男としてモデルすれば高校行けるってなって、だけどこんなデカいプロダクションに入れって。
モデルとかするのは興味ないわけじゃないけど、凄くやりたい! ってわけじゃないから、なんか怖い。
「悠真くん! この名刺は何処にあった物?!」
宏樹さんが急に大きな声を上げる。
名刺って?
あ、兄ちゃんあたしがもらった名刺を、こんな所になんでわざわざ持って来ててんの?
「幸が、貰ったみたいっす」
「宏樹さん、俺にも見せてー! あ、この名刺……!」
「僕の嫁さんの名刺だね……」
宏樹さんの奥さんの名刺? なんで、あたしがそんな物を持ってたんだろ。
「宏樹さんの奥さんの名刺が、どうかしたんでしょうか?」
「ここと専属契約してる雑誌の編集長だよ。その人に声を掛けられたって事は、ここの会社にスカウトされてるのとほぼ同じ意味って事」
大輔くんが説明してくれる。
宏樹さんに奥さんの名刺を渡して、兄ちゃんはあたしをゴリ押ししたって事だよね?
は、話がまた一段と大きくなってるけど?!
「いやぁ、僕の嫁さんまで幸ちゃんに声かけてたなんて、ちょっと凄いね。湯浅も悠真くんも、見る目やっぱりある。大変かもしれないけど幸ちゃんには、モデルだけじゃなくて色々と仕事してもらいたいねぇ」
モデルだけじゃなくて?
あぁ、兄ちゃんはこうなる事わかってたから高校の事も言い出したんだ。
兄ちゃんに踊らされてる気がするけど、やるしかない? 高校の事もあるし、出来る限りのことはやった方がいいかもしれない。
「よ、よろしくお願いします」
どうなるか、分からないけど取りあえずやってみよう。
「こちらこそ、よろしくね。幸ちゃん! じゃあ、早速だけど話を始めるよ。今回の美容ショーのモデルと言ってもお仕事は、それだけじゃないからね。ショーで悠真くんがいい成績を残したら、幸ちゃんにはもっと色々してもらう事になるしね。だから、ダンスとかも習って欲しいんだ」
兄ちゃんがいい成績? 勉強を始めて1年やそこらで、そんなにいい成績を残す事って出来るもんなのかな?
まぁ、そこんとこはいいとして……ダンスかぁ、それなりに運動神経はいい方だと思うけど出来るかな?
下手な男子より走るのは早いと思う。
あ、でも、走るのとダンスは違うか。
「ショーで悠真くんがどんな成績を残すかだね。それから、また話をしよう。悠真くんは去年出てるからわかってるよね?」
大輔くんは、兄ちゃんを見ながらクスクス笑ってる。
「兄ちゃんが去年出てる?! そんな話聞いてないですよ?」
「ひ、宏樹さん、その話は言わない約束っ……」
「あぁ、そうだった、ごめんごめん。あははは!」
大輔くんがあたしに耳打ちをする。
「ユウくん、相当渋ったみただけど、学校入学と交換条件出されてモデルやったんだよ」
「そんな話、初めて聞いたよ?」
「自分が、モデルやるの相当イヤだったみたいだからね。必死に隠してたみたいだし。まぁ、結果よかったみたいだけど」
「だから、ダイは余計な事は言うなって約束だろ!」
パシッと兄ちゃんが大輔くんを叩く。
去年のこの時期に兄ちゃんが、何かしてるのコンビニのバイトしてる位しか見た記憶がないけど。
どんだけ必死にモデルする事を隠してたんだろ。
あ、そう言えば、これも必死に隠してたけど、仁志くんポイ人が家に遊びに来てた事があったような……。
「取りあえず、夏休み入るまでは土日は、こっちに来てレッスン受けて、夏休み入ったら悠真くんの家に泊まって、強化レッスンしてくれればいいかな。あと分からないことは秋香ちゃんかダイに聞いてくれ」
──そして、次の土曜日からあたしのレッスンは始まる。