一章
仕事帰りに寄ったスーパーで、それを見つけた。
食品売り場へ向かう途中、ゲームコーナーの脇にカプセルトイが何台か並んでいた。普段なら、そのまま通り過ぎる場所だった。
けれど、端の一台で足が止まった。
「え、懐かしい」
小学生の頃に見ていたアニメだった。
放送が終わってからもう十年以上経っているはずなのに、最近またグッズが出ているらしい。
機械の上には、〈復刻版〉と書かれていた。
透明なケースの中には、見覚えのあるキャラクターが並んでいた。
六種類とシークレット。
昔もこんな感じだった。
友達と集めて、ランドセルや筆箱につけていた。
その中に、一番人気だったキャラクターがいた。
白い髪に、大きなリボン。
このキャラだけ、なかなか出なかった。
そんなことまで覚えている自分がおかしくて、少し笑った。
財布には小銭があった。
一回くらいならいいか。
硬貨を入れて、ハンドルを回した。
ガコン。
落ちてきたカプセルを開ける。
「うわ」
白い髪。
大きなリボン。
あのキャラクターだった。
昔あれだけ出なかったのに、一回目で出るなんて。
思わず写真を撮り、そのままInstagramに投稿した。
《懐かしい。小学生の頃これ集めてた》
昔だったら、これが出ただけで一日中機嫌がよかった気がする。
スマートフォンを鞄に戻し、食品売り場へ向かった。
帰宅する頃には、投稿したことをほとんど忘れていた。
夕飯を済ませ、風呂から上がってスマートフォンを見た。
Instagramに通知が一件あった。
知らないアカウントからだった。
《懐かしいね》
それだけ。
アイコンは初期設定のまま。投稿はゼロ。フォローもほとんどない。
昔のアニメだから、同世代の誰かがたまたま見つけたのかもしれない。
閉じようとした時、今度はDMの通知が出た。
同じアカウントだった。
メッセージはなかった。
画像が一枚だけ送られていた。
開いて、最初に思ったのは、
何これ。
だった。
スーパーらしい店内に、小学生くらいの女の子が二人立っていた。
一人が、もう一人から何かを受け取っている。
どう見てもAIで作った画像だった。
棚は途中から歪み、商品のパッケージには文字になっていない文字が並んでいる。
ガチャの機械には、なぜかハンドルが二つあった。
「気持ち悪……」
声に出た。
投稿を見て、それらしい画像をAIに作らせた。
最初は、その程度の悪戯だと思った。
閉じようとして、
指が止まった。
二人の手元。
片方の女の子が持っているキーホルダー。
白い髪に、大きなリボン。
今日、私が引いたものと同じキャラクターだった。
それはおかしくない。
投稿した写真を見れば分かる。
問題は、
もう一人の女の子が持っている方だった。
その子が握っているキーホルダーを拡大した。
胸の辺りに星のマーク。
短い黒髪。
脇役だったから、復刻版のラインナップにも入っていない。
でも私は知っている。
名前まで覚えている。
あの日、
私が代わりに渡したキーホルダーだった。
一度画面から目を離した。
そして、もう一度見た。
間違いない。
今日の投稿には写っていない。
あの日、
A子が引いたキーホルダーを私が持ち帰り、
代わりにこの黒髪のキーホルダーを押しつけたことは、
誰にも話していない。
そもそも、あの時――
近くには誰もいなかった。
あのことを知っているのは、
私とA子だけだ。
背中が少し冷たくなった。
A子は、
もういない。




