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死の神

 炎と溶岩が刻んだ破壊の道。その果てで、ケリスはネレズが骸骨兵から奪った剣に腹を貫かれたまま、立ち尽くしていた。


「急所は外した。半神なら破傷風にもならないだろ。降参すれば、ディヴァイン・オーダー(神の秩序)がここから連れ出してくれる。前に、そういう奴を見た」

「連れ出すって……どこに? 故郷……? それとも、エンピリアン・ピークス(神々の都)……? どっちにしても、興味ないわ……」

「女神にはなれなくても、命までは取られない。不死なんだ、時間ならいくらでもあるんだし、好きに生きればいいだろ」

「どうして……そこまで気にするの? あの連合は……ためらいもなく丸ごと壊滅させたくせに……」

「あいつらも一度は見逃した。それでも戻ってきたんだ。あとは自業自得だよ」


 苦痛に顔を歪めながら、ケリスは笑った。


「はっ……お優しいのね。呆れるくらい、甘いけど……」

「俺は、ここにいる誰にも恨みがない。それだけだよ」

「恨みが、ない……? 命を狙われたのよ……それだけで十分じゃない……?」

「はは、誰一人、俺を殺しかけてもいない。その程度で、いちいち腹を立ててられないよ」


 命を狙われることには、とっくに慣れている。死ぬことだって、今さら珍しくもない……問題は、銀の海へ逆戻りすることだ。


「……認めるわ。あんた、思っていたよりずっと肝が据わってるのね……」

「それで、降参する気になった――って話じゃないのか?」


「お断りよ!」


 血を吐きながらも、ケリスの獰猛な笑みは消えない。槍を下へ滑らせるように手放し、穂先の根元を掴み直すと、剣のように構えて最後の一突きに出た。


「クソッ! どうしてここには、話の通じる奴が一人もいないんだよ!?」


《デス・タッチ(死の接触)》


 ネレズが握る剣もまた、自身のエイドロンの一部だ。つまり、魂の映し身はすでにケリスへ直接触れている。


「ああああっ!」


 腹の傷から煙が立ち上り、ケリスは槍を支えきれなくなった。目を閉じるのと同時に、その手から槍が落ちる。


「――ッ!!」


 地面へ落ちかけた槍を、ケリスは寸前で掴み取った。橙色の瞳が決意を帯び、ネレズを射抜く。


ヒュッ


 鋭い一突きがネレズへ迫る。


ガシッ


 ――それでも、本来のケリスには遠く及ばない。


 錆びた剣からすでに手を離していたネレズは、槍の穂先が身体を貫く寸前、ケリスの手首を掴んで止めた。


 ケリスが最後に見せたのは、先ほどまでとは違う穏やかな笑みだった。まるで敗北を受け入れたかのように。


 次の瞬間、ケリスの身体から力が抜け、ネレズへ倒れ込んだ。


 幾度もの人生を重ねるうち、敵の血一滴すら服につけずに戦う術は、とうに身についていた。


 それでも、この相手には敬意を抱いていた。ネレズは倒れきる前にケリスを受け止め、地面へ丁寧に横たえる。傍らの槍も薄れ、消えていった。


「自分の手で、可愛い女の子を刺し殺してしまった……。どこぞの女神に負けず劣らず悪魔だったとはいえ……やっぱり、いい気分じゃないな」


……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

おめでとうございます!

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 突然、目の前にホログラムのメッセージが現れ、驚いたネレズは後ろへよろめきかける。ところが、その程度では済まない。間を置かず、全身を呑み込むほどの光が炸裂した。


「うわっ! なんだこれ!? 何が起きてるんだ!?」


 肩にのしかかっていた途方もない重荷が、一気に取り払われた。長い間、自分を縛りつけていた鎖から解き放たれたような感覚だった。


 それだけではない。ネレズは虚空へ放り込まれ、直後、無数の光が一斉に爆ぜた。


 眼前に広がっていたのは、宇宙そのもの。


 恒星、惑星、衛星、彗星、小惑星、星雲、ブラックホール――そのすべてが、手を伸ばせば届くほど近くにあるように思えた。


 宇宙のすべてを見渡しているような――いや、宇宙の方がこちらを見返しているのか。


 万物と一つになったようでいて、同時に、何ものにも縛られていない。これまで味わったことのないほどの自由だった。


 果てしない銀河を満たす光は、なおも輝きを増していった。やがて、その光がネレズを再び完全に呑み込む。


 光が消えると、ネレズは先ほどまでケリスと戦っていたのと同じ場所に立っていた。


「うっ、頭が……ん? いや、もう治ったみたいだな……」


 目の前のゴッドスクリプトには、新たな通知がずらりと並んでいた。



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熟練度が上昇しました!


[デス・タッチ(死の接触)]

熟練度:D → C


不死とは一つの状態にすぎない。

あらゆるものには終わりがある。

死期を迎えた者に印を刻め。

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「これは予想どおりだな。神性に関する記述は相変わらずないけど……これなら、半神には弱らせなくても効くレベルか」


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神に昇格しました!

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「こっちは予想外だ……」



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種族が変更されました!

種族:昇華者

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「待て待て! じゃあ、俺はもう人間じゃないのか!?」


[霊力が倍増しました!]


……


「神へ昇ると、霊力が倍になるのか……?」


……


 ネレズはホログラムの横に別のタブを開き、自分のステータスを確かめた。


[SPE:6,491,316]


……


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位階を獲得しました!

位階:絶対神

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「うっ……あの生命の女神と同じか。ってことは……まさか……」


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神格を獲得しました!

神格:死の神

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「ああ、やっぱり……図書館の神でも、洞窟の神でも、椅子の神でもなかった……」


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絶対神への到達報酬を獲得しました!


報酬:ユグドラシルの実

摂取すると霊力が5,000増加する。

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「今の霊力じゃ、五千増えたところで気づきもしなさそうだな……」



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新たな称号を獲得しました!

称号:死の化身

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「友達作りにはうってつけの称号だな。どうも、こんにちは。『死の化身』と呼ばれております。町内会の集まりでは、どうぞよろしくお願いします――なんてな……」


 隣に開いていた情報タブを見ると、その称号は実際にネレズの名前の下に追加されていた。



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[ネレジエル]

称号:闇の君主、死の化身

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「うわ……だんだんゲームのラスボスじみてきたな……。ていうか、『闇の君主』って何だよ。ネレジエルは『聖なる闇』って意味らしいけど……それでか? いや、こじつけすぎだろ。これ決めた奴に正式に抗議したいんだが」


[スキルが進化しました!]


「……今度は何だ?」


 情報タブでは、《ソウルウォーデン(魂の番人)》が点滅していた。選択すると、説明文に一行が追加される。



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[ソウルウォーデン(魂の番人)]

位階:下位神

熟練度:E


魂を縛り、死の番人として仕えさせる。

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「『下位神』? 神を作れるのか!? 絶対神になったことと関係あるのか……?」


 ふいに、ネレズの視線がケリスの亡骸へ向かった。


「『運命』って言葉は好きじゃないんだけど……これはもう、ほかに言いようがないな」


 倒れた戦士のもとへ歩み寄り、傍らに膝をつく。


 後味の悪さを消したい――それだけで相手を選ぶのも違う気がする。もっとましな理由が必要だ……いや、わざわざ自分で話をややこしくすることもないか。どうせ、引き出しの奥で眠らせておくつもりだったスキルだ。


「ディヴァイン・オーダーにいつバトルロイヤルから引きずり出されるか分からない。やるなら今しかないな」


《ソウルウォーデン(魂の番人)》


 ケリスの上へ手をかざした途端、その身体が光を帯び始めた。


……


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

試練:「バトルロイヤル」が終了しました!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 またも後ろへ倒れかける。ほんの数分で二度目だ。それでもどうにか踏みとどまり、ケリスへ向けたスキルを最後まで発動させた。


「今のは何だ!? バトルロイヤル自体が終わったのか!?」


* * *


 星々の間に浮かぶ卓を囲み、原初神評議会の神々は、宙に投影された映像を凝視していた。


「実に波乱の多い一日となったな」


 ゾロヴァンは卓上で両手を組み、そう口にした。


「死の領域の行方が決しただけではない……」


 いつものように顔をフードの影へ隠したまま、メヴィスが応じる。さらにその隣から、別の神が言葉を継いだ。


「ネレジエルと『深紅の災厄』が手を組めば、無視できない勢力になるだろう。だが……」


 ゾロヴァンが重々しくうなずいた。


「まさか本当に時間の神が覚醒し、残った候補者の半数を一瞬で消し去るとはな……」


 広大な宇宙に映し出された光景には、砂塵と骨に覆われた平原が広がっていた。


 そのただ中に立つのは、紫の髪と薄紫の瞳を持つ青年だった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

好評でしたら続きも翻訳するかもしれません。

応援ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
たいへん興味深く、楽しませてもらっております。是非続きの翻訳もお願いします。
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