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追放された関税令嬢は、辺境に「税のいらない街」をつくります 〜王都の通行手形はぜんぶ私が捌いていたのですが、止めても構いませんよね?〜  作者: 花守いとは


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第41話 自由市同盟

 こちらから出る、と言ったものの、出る先が問題だった。


 軍はない。銭もない。四方の市を買い戻せる財もない。あったとしても、同じやり方で買い返せば、こちらも掛かり持ちの市になる。綻び始めたハーフェンと同じ道だった。


 三日のあいだ、私は帳面を読み続けた。この半年に関所を通った荷の記録――どこから来て、どこへ抜けたか。行き先の欄を数えて、あることに気づいた。


 ロウフェルトを通る荷の六割は、この町で売り買いされていない。


 通り抜けているだけだった。北の麦は東へ、東の陶器は西へ。この町は終点ではなく、途中だった。


 ***


「一つ、伺いたいことがあります」


 私は陶器の隊商頭を帳場へ呼んだ。老商人は椅子に浅く座り、湯呑みを両手で包んだ。


「あなたは、この市で荷を売って、それからどこへ行かれますか」


「北の宿場だな。そこで空の荷車に麦を積んで、東へ抜ける」


「その北の宿場は、升を揃えていますか」


 彼は少し考えて、首を振った。


「揃っちゃいねえよ。あそこは宿場で、市じゃねえ。量りたきゃ自分の升を持ってく」


 両替は宿の親父がやっていて、率はその日の気分なのだという。


 この町の升は正しい。けれど商人は、この町だけで商いをしているわけではなかった。ここで正しく量ってもらった荷を、次の宿場では自分の升で量り直している。


 一つの町だけが正しくても、道の途中が正しくなければ、商人の手間は減らない。


 ***


 その夜、私はボルガーの館で紙を広げた。


「同盟を、作りたいと思います」


 老辺境伯が杯を置いた。


「同盟。……トラスに対抗する軍事のか」


「いいえ。升の同盟です」


 私は紙に町の名を書いた。北の宿場、西の坑の町、東の渡し場の対岸にある小さな市。どれも、この町の商圏の途中にある町だった。


「三つだけ、揃えてもらいます。一つ、升と秤を同じものにすること。二つ、両替の率を毎朝貼り出すこと。三つ、揉め事があったら、決めた通りの手順で裁くこと」


「見返りは」


「うちの査定を、その町でも通ることにします」


 私は言った。


「うちで等級をつけた荷は、その町でも同じ等級で通る。量り直さなくていい。……逆も同じです。あちらで等級をつけた荷は、うちでも通します」


 ボルガーの目が細くなった。


「それは、こちらが損をするのではないか。あちらの査定が甘ければ、甘い荷がこちらへ入る」


「はい。ですから、査定の仕方は同じものを使ってもらいます。人はそれぞれの町の人でいい。物差しだけを同じにします」


「教えるのか。うちの査定を」


「教えます。隠していては、広がりません」


 ***


「なぜ、支配しないのだ」


 ボルガーが訊いた。純粋な問いの声だった。


「トラスのやり方なら、金を出して関所を握る。あんたのやり方なら、査定を教えて、そのまま返してもらえる保証もない」


「保証はありません」


 私は言葉を探した。


「握れば、握った分だけ掛かりがかかります。四つの市を抱えたトラスが、今それで痩せています。握るというのは、面倒を全部引き受けるということです」


 紙の上の三つの町を、指で順に押さえた。


「同盟に入る町は、自分の掛かりを自分で払います。うちは何も払いません。払わない代わりに、命令もしません。……そのぶん、続きます」


「命令できぬ同盟に、何の力がある」


「揃っている、という事実そのものが力です」


 四つの町で升が同じなら、商人はその四つを結ぶ道を選ぶ。量り直さなくていいからだ。荷は、楽な道へ流れる。関税と同じだった。


 ボルガーはしばらく紙を見て、それから低く笑った。


「……あんたは、また同じ手を使うのだな。低いところを作る」


「はい。ただし今度は、銭で低くするのではありません」


 ***


 文を出したのは翌朝である。三つの町へ、同じ文面を送った。命令でも誘いでもなく、条件を並べただけの紙だった。升の寸法、秤の錘の重さ、率の貼り出し方、揉め事の裁き方。全部書いて、従うかどうかは書かなかった。


 返事は、思ったより早く来た。最初は北の宿場、二日後に西の坑の町、三日後に東の対岸。北の親父の文には、升を揃えるから寸法をもう一度詳しく寄越せと書いてあった。


 どれにも、条件を値切る言葉はなかった。


 代わりに、どの返事にも似たようなことが書いてあった。


 ――うちの町も、量り直されるのに、いいかげん疲れていた。


 誰も、味方になりたくて手を挙げたのではなかった。ただ、毎朝おなじ手間に飽きていただけだった。


 それでいい、と思った。理念で集まった同盟は理念が薄れれば散るが、手間が減るから集まった同盟は散らない。


 ***


 半月後、四つの町の名を書いた板が、市の中央に立った。


 自由市同盟、と誰かが呼び始めた。私が名付けたのではない。荷を運ぶ連中が、そのほうが早いから、そう呼んだだけだった。


 板の前で、リタが腕を組んでいた。


「姐さん。囲まれてたはずが、いつの間にか、こっちも線を引いてるな」


「線ではありません」


 私は言った。「道です」

「線ではありません。道です」。

セレーナが作ったのは、命令のできない同盟です。金も出さず、握りもせず、升と手順だけを揃える。だから続きます。

返事の理由が、いちばん書きたかったところでした。誰も理念で手を挙げていません。「量り直されるのに疲れていた」だけです。理念で集まった同盟は理念が薄れれば散りますが、手間が減るから集まった同盟は散りません。


升の目盛りに頷いてしまった方は、ブックマークをひとつ。同盟の名簿に、一行足していただく心持ちで。


次話、南へ移った商人たちが動きます。呼び戻すのではなく――彼らが自分の足で選ぶ番です。


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