第16話 川上を、締められても
自由市が成功した、その翌月から。
ヴィントの封鎖は、明らかに、強くなっていた。
「姐さん、また締められた」
リタが、苛立ちを隠さず報告に来た。
「王都側の関所が、ロウフェルト行きの商隊にだけ、手形の査定を渋ってる。十日待ちが、二十日待ちだ。おまけに、難癖だ。『荷の申告が怪しい』『梱包が規定と違う』――いちいち止めて、いちいち時間を食わせる」
私は、各地から届いた苦情の文を、机に並べた。
北からロウフェルトを目指す商隊が、王都側の関所で、軒並み足止めされている。ヴィントは、ロウフェルトを直接攻撃できない。だから――その手前で、王都の発行する手形そのものを、武器にしていた。
「巧妙です」
私は、正直に評した。
「ヴィントは、王都の手形の『発行権』を握っている。商隊は、関所を抜けるのに王都の手形が要る。その手形を出し渋れば、合法的に、商隊を足止めできる。法を破らずに、流れを止める」
「対抗できるのか」
私は、しばらく、考え込んだ。
ヴィントの強みは、王都の手形を握っていることだ。商隊は、王都の手形がなければ、関所を抜けられない。その手形を、ヴィントが人質に取っている。
ならば――答えは、一つしかない。
「リタ。一つ、聞きます。商隊が、関所を抜けるのに、なぜ王都の手形が要るのですか」
「そりゃ……手形がねえと、関所の番兵が通さねえからだろ」
「では、なぜ番兵は、手形を見て、商隊を通すのですか」
「なぜって……手形に、荷の値と通行料が、ちゃんと書いてあるからだろ。信用できるから」
「そう」
私は、頷いた。
「番兵が通すのは、手形に『信用』があるからです。荷の値が正しく、料率が正しいと、誰かが保証しているから。――では、その『信用』を保証していたのは、誰でしょう」
リタが、はっと顔を上げた。
「……あんた、か」
「ええ」
私は、静かに言った。
「王都の手形が信用されていたのは、私が査定していたからです。今、その私は、ここにいる。なら――王都の手形でなくとも、私が信用を保証する手形があれば、商隊は、関所を抜けられる」
「待て待て。そんな手形、ロウフェルトが勝手に出していいのか」
「通行料を取るための手形ではありません。あくまで、『この荷の値は正しい』と私が保証する証です。法は、王都の手形でなければ通すなとは、命じていない。荷の値が正しいと保証されていれば、それでいい」
私は、新しい羊皮紙を取り出した。
「ヴィントは、王都の手形を人質にした。なら、私たちは――王都の手形に、頼るのをやめます」
リタが、ごくりと、唾を飲んだ。
「それって……王都の信用網から、独立するってことか」
「そうです」
私は、指の腹で、羊皮紙の縁を一度なぞった。
「川上を締められても、困らない。なぜなら――この町は、自分の井戸を、掘るからです」
川上を締められたら、自分の井戸を掘る。
セレーナの次の一手――王都の信用網からの「独立」が始まります。
次話、ロウフェルト独自の手形が、ついに発行されます。
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