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板橋区に住むサラリーマン井上の意識が高いはずなのに限界系ギャンブルライフ  作者: 秋山機竜


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第16話 〇〇〇チャレンジ

 結構前に特定の騎手に限定して馬券を買うことを【〇〇〇チャレンジ】と呼んで、ちょっとした流行になったことがある。


 どういう狙いの買い方というと【成績が悪いのだが通好みの生き様の騎手の馬券ばかり買うことで、もし的中したら精神的に充足するし、ついでに大穴で儲かる】という内容だった。


 リスクは当然大きい。だって日常的に成績が悪いんだから、めったに馬券内にこない。


 きっと馬券マニアたちが知りたいのは〇〇〇チャレンジの回収率だと思うのだが、実は彼の馬券だけを買い続けることで100%を越えた年があった。


 だがその後SNSを通じて〇〇〇チャレンジが有名になってしまったせいで、みんなが遊びで単勝を買いまくってしまった結果、オッズがじわじわと下がってしまい、回収率は100%を下回ることになってしまった。


 うーむ、穴狙いの難しさは、知名度との兼ね合いにあるのかもなぁ。


 じゃあ根っからの穴党である俺が、例のチャレンジに参加していたかというと、そういう限定的な買い方には手を出していない。


 ただし、それ以前から、この手の騎手を紐に入れることがよくあった。だって大穴を開ける騎手というのは穴党にとっては要チェック対象だからな。


 なんでいきなりこんな話をしたかというと、今日は船橋競馬場で大穴を狙っているからだ。


 仕事の都合上、千葉に遠征することになったので、その帰り道にぶらりと寄り道した。


 地方競馬といえば、そう同僚の山田が一緒だったし、誘ってきたのもこいつだ。


「今回の井上は、大穴を開ける騎手だけで三連単のフォーメーションを組んだわけか」


 山田はひょろっとした長身の男で、痩せの大食いである。今日も船橋競馬場名物のあんかけ焼きそばをモリモリ食べていた。


「地方競馬は全然詳しくないからな。だからお前に教えてもらった船橋競馬場で有名な穴馬ジョッキーたちに狙いを絞ったわけだ」


「先にいっておくが、オレが教えた情報で外したからといって、恨むんじゃないぞ」


「ちょっとは恨ませろよ、あんかけ焼きそばっていう情報料を払ったんだし」


「あんかけ焼きそばがうまいことには感謝してるが、これだけ露骨な穴馬狙いは基本的に当たらんだろ。そもそも馬が弱いんだし」


「穴党が外れ馬券ばかりなのはいつものことだ。で、そういうお前は、なにを買ったんだ?」


「そりゃいかにもありえそうなフォーメーションだよ。ほれみてみろ」


「一番人気を混ぜつつ、中穴を少々、基本的に大穴は除外か。うん、これはありそうなフォーメンションだ」


「だろ? 今日はさすがにオレだけ当たって、井上は外れるんじゃないか?」


「そんときはお前、俺にもあんかけ焼きそばおごれよ」


「なんだ食べたくなったのか。買えばいいじゃないか」


「そんな金があったら、他のレースに突っ込みたい」


「相変わらずドケチだなぁ。おっとレースが始まるぞ」


 船橋競馬場専用ファンファーレが鳴って、砂のレースが始まった。


 船橋競馬場は砂が深い。それとスパイラルカーブを採用している。


 だから馬にはスタミナとパワーが求められるし、コーナリングの際にきちんとスピードが乗っていれば外からの追い込みも決まる。


 というコース形態に関連した情報をネットで検索したところで、俺は地方競馬に所属している馬と騎手と厩舎の情報をろくにしらないので、まるで活かせないのだ。


 まぁ実質運まかせの勝負だな。だから今日も少額勝負である。


「俺の買った大穴ジョッキーたちだが、なんか当たりそうな位置にいるぞ」


 俺がフォーメーションで買った人気薄の5頭は、先行集団にいた。しかもレースはスローペースで運んでいて、有力馬たちはみんな後ろである。


 いわゆる【いったいった】になって前残りでレースが決まるんじゃないか?


 もしそうなったら、かなりの高額払戻だ。最大で…………90万円!!!


「こんなの絶対当たってほしいが!?」


 と俺が絶叫したとき、各馬ポジションを維持したまま、最後の直線を迎えて、ラストスパート開始。


 俺の買った穴馬ジョッキーたちは、いまのところ全員馬券内で走っていた。


「おい山田、これあるぞ大穴!」


 山田もちょっと楽しそうに口笛を吹いた。


「本当に当たりそうだな、井上の馬券」


「当たれよ、おい当たれってば! ここまできて外すなんてないよな!?」


 だが馬群の最後方から一頭だけ強い馬が追い上げてくる。


 断然一番人気の馬だった。


 もしあいつが馬券内に入ってしまったら、俺の馬券は外れてしまう。


「やめろよせそれ以上がんばるな、バカお前、なんでぐんぐん加速してるんだよ、おいやめろって、このままじゃ3着に届いちゃううぅうううああああああ!!!!」


 3着に届いてしまった!!!


 俺の穴馬ジョッキー馬券外れ!!!!


 俺は馬券をぐしゃあと握りつぶすと、地面に膝をついた。


「なんでこうなるんだよぉおおおおお!」


 山田が苦笑いした。


「お前本当に穴を惜しいところで外すと、藤原竜也みたいな悔しがり方をするんだな」


「だってお前、これ見ろよ。もしあの1番人気ががんばりすぎなければ、俺の馬券当たってんだぞ。しかもこれ払戻90万なのに、なんで、あぁもう…………」


 たった1頭に邪魔されて90万円逃したのはメンタルに響く。


 しかも1番人気の馬に邪魔されたことが、穴党的には腹立たしい。


 ……そういえば山田の馬券どうなった?


「おい山田、お前馬券当たったのか?」


「複勝とワイドが当たってるな」


「複勝は1番人気のやつだから払戻少ないとして、ワイドはそういえばお前穴馬一頭だけ入れたやつと1番人気で組み合わせてたな」


「船橋競馬場では割とあるパターンでもあるからな」


 どうやら山田だけじゃなくて、周囲にいる船橋競馬場特化型のギャンブラーたちはぼちぼち当てているようだ。


「くっそー、やっぱ地の利があるやつは強いな」


「だから井上も中央ばっかりやってないで地方もやろうぜ。せっかく関東に住んでるんだから、南関競馬っていうドル箱があるんだし」


「平日は競輪のほうが優先度高いしなぁ……ってそうじゃなくて、お前たしか馬券当たったら、あんかけ焼きそばおごってくれる約束だったよな」


「なんだ忘れてなかったのか、約束」


「当たり前だ。さぁおごってもらうぞ。馬券外して傷ついた心を食べ物で癒すんだ」


「ドケチな食いしん坊か」


「90万当たってれば、いまごろあんかけ焼きそばも食べ放題!!!!」


「わかったわかった、おごってやるから落ち着けってば」


 こうして俺と山田はあんかけ焼きそばを一緒に食べた。


 塩味が結構強いはずなのに、なぜか苦みを強く感じた。たぶん90万円外したせいで味覚がおかしくなったんだと思う。

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