第九話 青い光
偽精霊が刃針を雄一に向けたまま一歩踏むと雄一たちの視線から消えた。瞬間移動ではないかと思った雄一は右へ顔を向き、偽精霊がやってきくる姿を見取った。瞬間移動ではなくてあの偽精霊の圧倒的な速さだけだった。しかし突然、雄一と偽精霊の間で誰かが立ちはだかる。言うまでもなくミレイだった。偽精霊がミレイを刃針で刺そうとするとミレイが彼の腕を掴み、そのまま彼を先にいたところへ投げる。
「早っ」
「あたしに任せて」
偽精霊とミレイの速さにまだ目を見張ってる雄一にミレイがそう言いながらミナと雄一を下がらせるように手を上げた。偽精霊が立ち上がり、ミレイをじっと睨みつける。
「オマエと関係ねェだろう」
「うるさい。貴様らはあたしの敵だ」
ミレイがそう答えて、軽蔑そうな視線で偽精霊を睨み返す。
「いっか。オマエも殺すゾ」
今度は偽精霊がミレイに向かって素早く動いた。その動作にミレイが予想するように彼女が自分の左側へ動いて一蹴りをした。ミレイの蹴りに偽精霊が左腕の前腕で抑えて右手にある刃針でミレイの首を狙った。ミレイが左手で偽精霊の右手の手首を握って左手の拳で迎撃する。そのミレイの拳が偽精霊の顔を打つと偽精霊を転ばせた。
けれど、偽精霊がすぐに立ち上がってもう一度ミレイに迫る。ミレイが避けようとしたけれど偽精霊が彼女は思った以上速かったので偽精霊の拳に当てられた。血がミレイの口から出ると彼女がその血を拭き、偽精霊を見つめる。偽精霊が口角をあげながら刃針をミレイに向けてそのまま投げかけた。ミレイはその銃弾ほどの速さでやってくる刃針をぎりぎり避けると偽精霊の位置に視線をしたが彼はそこにいなかった。ミレイが振り返って後ろにいる雄一とミナのほうへ目線をやると、雄一に近づける偽精霊を見取った。地面に刺さった刃針を拾って雄一の首を目標にした。雄一の首を接しそうな距離で青い光が輝いた。
「させません!」
青い光がミナから溢れ出す。彼女が雄一の手を取ったせいで雄一を守るようにその青い光が彼を包み、偽精霊をぶっ飛ばさせ、背中でその横道の壁と打つかって膝を突く。ミナが決意こめて表情で偽精霊を睨み、彼女の青く染まった髪は強い風に吹かれているように靡いている。
偽精霊がミナを睨み返しながら血を吐き捨てる。
「痛ぇー」
その前ミレイに投げた刃針が彼の数センチで刺さったので偽精霊がそれを抜き、立ち上がった途端悪意的な笑みを浮かべる。偽精霊が一歩を踏み出そうとすると突然に止まる。
「……っち、戻らねーと、か。クソ」
舌打ちをし、振り向きながら二本の刃針をポケットにしまい、偽精霊が失せ去った。
「あんた待って!」
「なんだよあいつ。総偽精霊ってそんな速く逃げる者か」
ミレイが偽精霊を呼び止めてみたけれど彼の姿はもういなかった。雄一は納得がいかないありげな表情でそう言う。
「そうみたい……あ、そうだ、たぶん呼ばれたんだ」
「呼ばれた? 誰が総偽精霊を呼ぶんだよ」
「違う……あいつは総偽精霊じゃなくて普通な偽精霊だけど……総偽精霊の助手かもね」
総偽精霊の助手だから呼ばれて、去ることしか出来なかった。戦い続けたかったから去らせるのは苛立ちので偽精霊がその舌打ちをした。どうにしろ、雄一は頭を抱えながら口を開く。
「いやでも、あいつは強いんだろう……」
悩むのは今さらしょうがなくて、雄一はため息をつきつつ肩をすくめた。ミナの方へ視線をやると彼女の髪の色はまたか黒いからその青い光を雄一は思い出した。その青いは偽精霊が表れたときにミナの毛先が染まっていた青いと同じく、そしてその青い光に包まれたたびに鬱陶しさと恐怖交じりの感覚を覚えた。
「……ミナってすごいな」
「そうだね、ミナちゃん。すごかったよ」
「あ、あ、ありがとう」
でもその感覚に関してなにも口に出さず、ミナを褒めて彼女の頭を撫でた。雄一とミレイの褒め言葉を聞くミナはお礼を言いながら頬と髪は桃色に染まっていった。