第三十八話 思い出と場所
雄一は目覚めると彼に起こされたようで三人の女子も目覚めた。
けれど、彼たちよりも早い目覚めた人がいて、彼女は鼻歌を歌いながら微笑んでいて、朝ご飯を作る。
雄一たちは寝覚めたのが気がつくとアヤはにっこりと笑いつつ言葉をかける。
「みんな、おはようございます」
「ああ、おはよう」
四人はそれぞれ挨拶をし、心配を誤魔化すように微笑を口に浮かべた。
しかし、変だった。
昨日、ミヤとリョウヤを亡くしたので眠りにつくまでアヤが泣いていたけれど今はこんなにやっと笑っているのは不思議な行動だ。
「朝ご飯はまもなくですからちょっと待ってください」
「……あの、アヤちゃん……大丈夫?」
「うん? わたしは大丈夫なんですよ」
「いや昨日のことで……」
「そうなんですね。ミレイさんたちは言いたいのは分かるんです……」
そう言うとアヤは各々に朝ご飯を渡す。そして彼女も床に座り、自分の朝ご飯を食べ始める前に言葉を継ぐ。
「けれど、素晴らしいことがあったんです」
全部食べきったのち語り出した。
アヤは夢を見た。
その夢には、ミヤとリョウヤはお礼を伝え、アヤを一人にさせないと述べて、お別れも笑顔で告げた。
あっちらの世界とほぼ等しい出来事だ。同じ人物なので無理もない。
「ですから、ミヤとリョウヤを亡くしたでも、ふたりは、どこかでわたしを見ていて、守っているんでしょう!」
そう宣言したアヤはあらためて笑みを口に浮かべると雄一たちは交互に一目を交わして頷くと彼は〝現実世界〟について語ることにした。
アヤの表情は笑みから混乱に変わり、だが、雄一は話を語り終えるとまた笑みを浮かべた。
「そうなんですか……それは一言で言うと、ミヤとリョウヤは本当にわたし見守っているということなんですね」
泣きたがる表情でアヤがそう言って微笑む。
その彼女の顔色を見る雄一たちも微笑を口にした。
「川宮雄一さん、一つ聞いていいんですか?」
急に何かを思い出したごとく曖昧な表情をしながらアヤは雄一に言葉をかける。
「もちろん」
「その〝現実世界〟では、わたしは川宮雄一さんのことが好きだったんですか? だって、もう一つの夢を見たんです……その夢は川宮雄一さんは説明したと似て、川宮雄一さんはわたしを「キタムラ」と呼んでいたんです。そして、わたしは川宮雄一さんと……キ、キスをした……異様な夢だったんですけれど、もしかして、これもあっちらの世界で本当にあったではないんですか?」
困った顔をする雄一は誤魔化すように頬を掻いて、しかしじっと見られているからため息を漏らすと答えを口にする。
「……あったんだけど」
雄一の返事にそうなんですかと照れながらアヤが頷き、川宮さんと桃色に染まった途端窘めるようにミナが呟いて、最低あんたはと軽蔑しそうな視線で雄一を見て頭を横に振りながらミレイが言う。ミツキはなにも言わずにただ冷たい顔で雄一を見つめる。
「……いや、あっちの(喜)世界(多)のアヤ(村)が俺をキスしたから俺のせいじゃねえよ。その上、俺はあっちの世界のミツキが好きだからすぐに断ったぞ!」
そう言ったや否や、雄一はしまったと手のひらを額に当ててゆっくりとミツキの方へ視線を向く。すると、赤くなった頬のミツキと目を合わせ、彼の顔も赤くなったのは分かったのでふたりは目をそらした。
それを見たミレイとミナとアヤはお互いに一目を交わすとふっと笑った。
***
キタノ森林から去るために支度をしたのち、雄一はしわを寄せながらアヤを見て話しかける。
「アヤってこれからどうする?」
そう聞かれるとアヤは手を顎に当てて、落ち着いた声音で答えを出す。
「そうなんですね……ここで生活を送り続けるんです」
「ひとりでなの、アヤちゃん」
ミレイがそう言うとアヤは頭を左右に振った。
「一人ではないんです。ミヤとリョウヤはずっとずっとわたしと一緒にいるんです」
そう述べた途端アヤの瞳には光が宿るように輝くに見えた。
彼女の表情を見つめる雄一は曖昧な笑顔を浮かべると話す。
「だろうな……どこに行ってもミヤとリョウヤはアヤといつまでもいるんだな。だから、俺たちと来いよ」
「え? 川宮雄一さんたちはどこに行くんですか?」
「…………どこって?」
そう尋ねられると雄一は言葉を失った。そして気づいた。
どこに行くなのか自分さえ分からない、と。
「そうだな……俺たちはここに来た理由はミツキの呪いを解くためだっだな」
「そうですね」
「けどミツキの呪いは解かれたから行くところのも一緒にいる理由のもないしな」
雄一の顔に微苦笑が浮かんで、彼は腕を組む。
「そうかもね……」
ミレイは雄一の真似をするようにそう言いながら微苦笑を浮かべる。ミナとミツキも困った顔をして視線を交わした。
もう一緒にいる理由がないのでこれは雄一とミナにとってミツキとミレイとの旅の終わりかもしれない。その上、雄一はなんでこっちらの世界に来たのか、そして〝異世界〟に来ることに意味があるのかないのか分からなくてならないのだ。それは言うまでもなく、ミツキとミレイと関係のないことなので彼女たちを勝手に巻き込ませる権利はないのだ。
だがしかし、彼の頭の上で電球が点けられたごとく雄一は指を鳴らした。
「……いやあれだな。俺は約束を守ったからお返しをくれ」
「確かに……」
「仕方ないわね」
ミツキとミレイはそうだったねとこっくり頷くと雄一は言葉を継ぐ。
「だから、よく聞いてくれ……俺たちはあっちの世界に戻れるために俺を助けてくれ」
「あたしたちって?」
小首を傾げて、どういう意味なのと聞かんばかり顔で雄一を見つめると雄一は言い続ける。
「そうだよ……俺たちは〝現実世界〟に属するぞ。俺たちはあっちの世界に行ったとアヤたちはあっちの世界の記憶があるのはそれの証明だろ。けど、なぜここに来たのかなぜ俺は行って来ることが出来たのかまだ謎なんだ……だからこっちの世界にいる意味を探し、一緒にあっちの世界に戻るためには助けてくれ」
そう述べて雄一は決意こめた笑顔と視線でミツキからアヤまでを見て手を伸した。四人の女子が雄一を見返すと交互に視線を交わした後で、笑いながら彼女たちも手を伸ばした。
「はい」
「うん」
「わかった」
「いいわ」
そう言って五人は手を結んで笑った。ミナの髪はかすかに灰色に染まったけれど誰も気づかなかった。
友達か仲間か、この関係をどう呼べばにかかわらず、頼れる人がいるのはちょっぴり励みになることだ。
「で、どこに行くの?」
ミレイはそう聞くと雄一はアヤに問いかける。
「アヤってここから最も近い村覚えるか?」
「えっと……そうなんです! ノスタ村なんです。東へ一時間くらい歩けば着くんです」
「それならノスタ村へ行こうか」
女子たちははいを口にして、歩き出した雄一を追いかける。
アヤはちょっと待ってと振り返り、樹上の家を見つめる。
その樹上の家で生まれ、育たれ、ずっと住んできた。けれど、樹上の家にともに時間を過ごした人はいなくなって今はアヤのみがいる。しかし、山ほどの思い出はまだそこに宿る。
それなのに、その思い出の時間は終わった。
場所を逃すときに、本当に逃しているのはその場所に対応する時代である。だから、逃すのは場所ではなくて時代である、と誰かが言った。
そして、樹上の家の幸せな記憶がそこになくて、アヤの心だけにあるのだ。したがって、いつか樹上の家に帰ったらあの幸福の思い出を涙で蘇る。
だから、アヤはただ弱く手を振って、そのまま振り返って雄一たちと歩いていった。




