第二十七話 喜多村綾乃のこと
HRが終わったところで俺は教室に戻った。
美月はなんで授業をサボったのかと聞くと俺は説明した。けれど、喜多村もそこにいたのは言わなかった。
俺は家に着くと毎日のルーティンをする。
ベッドに横になると罪悪感みたいな感覚を覚えた。スマートフォンを取るとフラインを開き、美月にメッセージを送ることにした。
『起きてる?』
『今は起きてないなら雄一くんのメッセージを返事することが出来ないでしょう。馬鹿な質問ね』
『そういう美月のところ好きだな』
『ありがとう……わたしはチョコレートケーキよりも雄一くんのことが好きだわ』
『そう言われると嬉しくないな。まあ、ちょっと嬉しいかもな』
『雄一くんはツンデレ?』
『美月にツンデレと言われたくない! ちょっとツンデレけどな、俺は……でもな、美月のツンデレのレベルは俺より高いぞ』
『否定しないわ』
『美月って喜多村のことどう思うのか?』
『どういうこと?』
『後で説明するから答えてくれ』
『喜多村さんね……彼女はいい子だと思うわ。わたしは彼女と話した限り親切な人だと思う。けれど、なんとなく、喜多村さんはとても寂しい人の印象があるわ』
『そうか』
『喜多村さんと何があったの?』
『明日で説明する』
『いいけれど』
『じゃあ、おやすみ』
『わたしのこと好き?』
『図書室で寝て授業をサボるよりも美月のこと好きだ』
『わたしも雄一くんのこと大好きだよ。お休みなさい雄一くん。また明日』
『また明日』
美月の最後のメッセージを読み直すとスマートフォンの画面をオフにして俺は無意識に笑った。甚だしくバカな顔をしているだろう。しかし、バカな顔を浮かべても恥ずかしいことと思わない。
***
金曜日の昼休みの時間に美月と美鈴は俺の席までやってきて一緒に昼ごはんを食べることとなった。
昼ごはんの途中で美月はお箸の動きを止め、俺に話しかける。
「そうね。雄一くんは昨夜のこと説明すると言ったわ。喜多村さんの話」
「綾乃ちゃんの話? なになに」
「そうだな」
俺は自分の顎にてをやると図書室で喜多村と話したことと彼女の手首の傷のこと美月と美鈴に説明した。けれど、喜多村は俺の耳に近づいたときのことだけが言わなかった。美月に殺されるから。でも、いつかそれに関して美月に言わなければならないのだ。一年後で言うのは今より殺される可能性は低いからそれにしよう。
説明した後、美鈴は心配そうな表情で口を開く。
「今まで気がつかなかった。綾乃ちゃんは自傷をする人と言われても信じられない」
「喜多村さんは自殺してみたということね……」
美月も美鈴もそれを知らなかったからそんな簡単に納得を出来るわけない。
「そうだね。体育の授業のときに、綾乃ちゃんいつも左手にリストバンドをつけるのはそれだからなんだね」
誰も喜多村の手首の傷を見たことないのは無理もないのだ。制服は長袖だし、今は夏でも喜多村は長袖を着る。その上、美鈴による、体育の授業にリストバンドをつけるのだ。
俺はそれに関して聞いたときに彼女はそれを素直に認めた。つまり、喜多村は手首の傷のことを隠していないけれど見せたいものでもないということだ。まるで、誰かが彼女の傷のことを気がつかせたいようだ。
「……そういえば、綾乃ちゃんのこと噂話があるよ」
「噂話?」
「綾乃ちゃんはよく男と遊んでて、数男と寝てきたって……あたしはそれを信じない。けど、傷の話を言われると疑わないと言えないよね」
喜多村は男子とよく遊ぶ女子だという噂。
彼女は男子と遊びたいのは悪くも良くもことだと思わないけれど、両親との関係と手首の傷と関係があれば危ないことになるかもしれない。
「それで、喜多村さんは彼女のお母さんとお父さんとさえ彼女の気持ちについて話すことは出来ないね。寂しく感じるのは当たり前だわ」
美月が言うと目を伏せた。
―そうだ。
美月の母は三年前に死んだ。だから、喜多村の気持ちをある程度に分かるかもしれない。
「喜多村さんを助けるために、わたしたちはどうすればいいのかしら」
「そうだね、どうすればいいのかな」
確かに微妙な状況だ。適当な答えを出すことで何も済まない。その上、喜多村は助けを頼んだわけないので俺たちはただ勝手に巻き込んでいるのだ。
昼ごはんを食べながら俺たちは沈黙した。
予鈴が鳴ったときでも三人は答えを出すことが出来なかった。
***
放課後になると俺はすぐにトイレに行った。
教室に戻るところで廊下に喜多村と出会った。
「川宮先輩、ちょっといい」
「おう、なに?」
喜多村は決意こめた視線で俺と目を合わせ、言葉を継ぐ。
「川宮先輩だけに頼みたいことがあるんです」
「俺だけに?」
「そうなんです。大事なことなんです」
俺は小首を傾げると質問を投げかける。
「それは?」
「後で言うんです。とにかく、わたしの家に行きましょう」
決意こめた目のままで喜多村は彼女の家に俺を誘った。
なぜこんな急に彼女の家に俺を招いたのだろう。
おまけにその大事なことはなんなんだろう。昨日の話に関してなんだろう。それとも、美月と美鈴のことなんだろう。
行かないと喜多村は言わないので行くしかない。
「分かった。鞄を教室に取りに行くからちょっと待ってくれ」
「はい」
誰もいなかった教室に入り、鞄を取るとそのままに教室をあとにした。俺はポケットからスマートフォンを出し、美月にメッセジーを送信する。
『喜多村の家に行くぞ。彼女は大事なことについて話したいって言った』
美月の返事を待つことなくスマートフォンをポケットにしまった。




