第十五話 キタノ森林
一瞬で一二号室ではなくある森にいる雄一は思い知る。その上、キタノという森林なのだ。
見るだけで、ミナと一緒に夜を過ごした森、即ちシラナイデス森と比べればキタノ森林は二、三倍以上広くて二倍の茂みがあると言える。それに、木の大きさのせいで、昼間でもあまり太陽の光が漏れてこない。つまり、昼間にこんな暗いなら夜の時に何も見れなくなる程度の暗闇があるはずだ。
「大きな木々ですね」
「ここはキタノ森林か」
ミナと雄一が思うことをそのまま口にしながらキタノ森林のあっちこっちに見る。
「すごいよね」
「本で見た絵と同じね」
ミナと雄一の真似をするかのごとく、ミツキとミレイがそう言いつつ彼女たちの周囲を見る。
「真昼でも暗いな……ここに寝るってやばい」
「そうね、すごく暗くなりそうだわ」
雄一がそう言うとミツキが心配そうな表情でそう言い返す。
「でもしょうがないね」
「日没前にホンユジを見つけるほうがいいですね」
ミナがそう宣言して雄一は苦笑いを浮かべながら開口をする。
「いや……もういない可能性もあるけど……まあ、歩けば歩くほどいるかいないか確かめられるぞ」
「そうです……でもどこから探せばいいでしょうか」
ミナのセリフを聞くと雄一は考えている身振りをする。十秒ぐらい後で、ようやく雄一は話す。
「そうだな……その本でここの地図があったか?」
「あったわ」
「その地図で川があったか」
雄一がそう聞いてミツキが顎に手を当てて答えを口にする。
「そうね……間違いなく一つの川があるよ。地図によって、キタノ森林の東部に川があるって」
「じゃあそこへ行く」
「そうなのね……川宮くんが言う通り川へ行く方がいいわ」
川へ行くの意図は分かったような顔をしながらミツキが雄一と賛成をする。だが、ミレイがまだ理解出来なくて質問を投げかける。
「なんで川へ?」
ミレイがそう聞くが早いか雄一は回答する。
「この隔たってる森林で住んでるからな。体を浴びるや洗濯や水を飲む等ために、川の近く村を立てるのは当たり前だろう」
「……確かに」
ミレイの顔に納得をしそうな表情が浮かぶと雄一は言い添えるように言葉を口にし続ける。
「それから、そのホンユジの精霊はまだいるなら、その川で見つける確率が高い」
人間にとって、歴史以上に川でも湖でも海でもの近くに住むのは常識的なものだ。それでは、一つや二つところ以外、精霊と人間はほとんど同じなのだ。したがって、精霊も―この場合ホンユジ部族もそのパターンをするのはおかしくないのだ。それは分かるのはたぶん生存本能のせいかもしれないけれども今は助かったがどうでもいい知識だなと思いながら雄一は皮肉げに笑う。
「以外と利口なことを言うね、あんたは」
「その以外とって言いすぎてるだろう!」
そのミレイのセリフに雄一はすぐに答えるとミレイが言葉を継ぐ。
「別に……気づいてないの? あんたの顔に『バカ』って書いてあるよ? ね、ミツキちゃん」
「……少しだけだけれどね」
「あのな、少しだと言われても……」
ミレイとミツキが真面目な顔でそう言ったから雄一には冗談に思えなかった。
「ミレイちゃんとミツキちゃんもそう思いますか? 私は最初からそう思いました」
「ひでぇなお前ら!」
そして、ミナは何気なくさりげなく止めを刺した。
ひどくても雄一は本音でこんなやりとりはつまらなくもなくて面白いんだと思いつつため息ををついた後ミレイは口を開く。
「さて、行こう」
「いやでも東はどこ?」
ミレイに視線をやって雄一はそう聞くとミナとミレイが躊躇いもなく言葉を発する。
「この方ですよ」
「こっちだよ」
ほぼ同時にミナとミレイが同じ方向―彼女たちの前へ指差しながらそう述べる。
「どうして分かるのか?」
「守る精霊の機能なんだ」
なぜそれをわかるなのかと聞く雄一にミレイがそう答える。
「スマホかよ!?」
雄一は突っ込みを入れると女子の三人が笑う。
この三人美少女の笑顔を見ると癒される感覚を雄一が覚える。しかし、彼女たちの笑いに雄一は何かが間違っているのも感じる。その間違っているところを分かっていても口にしなくて、ただそれに関して雄一は考え込む。
「…………」
「何かありましたか? 川宮さん」
何も言わないからミナが彼に問いかける。
「いや特には……」
誤魔化すように雄一が曖昧に答える。
「とにかく行こうか」
ミナとミツキとミレイの視線が彼に集まっているのが気がづくと雄一はそう言い、一歩を踏み出してキタノ森林の東部へ歩いていく。三人の女子は交互に目を合わせたり小首を傾げたりするけれどついに肩をすくめて雄一を追いかける。
明白でありながら、歩けば歩くほど少しずつ疲れていき、その上、歩けば歩くほどもっと暗くなっていく。六時間くらい歩いてきたであろうともそのキタノ森林の東部にある川に辿り着くまでいくら時間がかかるのか知る術はないのだ。日が没していった途端辺りが闇に包まれてくる。雄一は歩みを止めて開口をする。
「もっと暗くなってきた……数分経てばなにも見れなくなるかもしれんな」
「だよね。キャンプファイヤをしようよ」
ミレイがそう言うとミナとミツキが土に座る。雄一も土に座って吐息をもらす。ミレイは任せてと言いながら手を伸ばして、両手の手のひらで土を指差すみたいな真似をする。三秒ほどまでもなくて、ミレイは火をつけて焚き火をする。
「暖かいですね」
雄一はミナを見ると彼女がシラナイデス森にした焚き火を思い出す。ミナとミレイの焚き火のやり方はhとんど同じだけれどもミレイのほうが早く焚き火を出来た。火をつけるということは守る精霊の得意なところなのか守る精霊だけの技なのかと思いながらミレイに話しかける。
「焚き火をやるってうまいな、お前」
「別に。守る精霊には火をつけるって簡単だよ……まーたまに面倒くさいもんね」
こめかみを掻きながらミレイがそう言う。雄一はそうかと問いをかける。
「それってもう一つの精霊の機能か?」
「機能とも言えるけど、これは精霊の透明な袋なんだ。まあね、たまに魔法とも呼ぶよ、あたし」
今まで聞いたことない透明な袋という機能の名前を耳に入ると雄一は小首を傾げてそれはなんですかという質問を聞かんばかりミレイのセリフの概ねを繰り返す。
「透明な袋?」
「そこに、あたしたちは手に入れたことをしまえるよ……たとえば、この葉」
ミレイがそう言いつつ彼女の近く風に置かれた葉を拾って、葉が瞬間移動をしたようでミレイの手のひらから消えた。何があったのかを説明するようにミレイが言葉を継ぐ。
「今は透明な袋にしまった。そして、こうすると」
ミレイの言葉に呼ばれたみたいで葉がミレイの手のひらの上に現れる。そして葉を人差し指と親指で握った後焚き火に投げる。その葉が焚き火に燃えながらもう一つの葉がミレイの手に現れる。
「あたしの手のひらに戻る……ある物を一回でも接すると永遠に透明な袋に入れ続けられて出し続けられる」
「そうなのか……」
「すごいですね」
ミナと雄一が了解済みの調子でそう言う。黙っているミツキもミレイの説明を聞くが、同時に他のことに関して考えているっぽい鬱陶しい顔をする。
雄一はなるほどとミナに話しかける。
「ミナお前、この先に使ったぞ、その透明な袋」
「いつですか?」
ミナの問いに雄一は人差し指を立てて答えを出す。
「灰色空間から出た後その森で夜を過ごしたときに。ミナが火をつけるには速かったぞ」
「私は火をつけたのは覚えますがその透明な袋を意図的に使って覚えはありません」
ミナがあの夜の焚き火に火をつけたのを覚えても透明な袋のことあの頃で何も知らなかった。魔法ではないのかとミナが思った。ミレイがまた説明をするため口を開く。
「無意識で使えるよ。ほら」
そう言うと水が現れ、ミレイの手のひらの上で浮かぶ。
「水を飲んでだけで無意識に水を透明な袋に仕舞ってしまう……飲んで飲んで」
説明の途中でミナとミツキと雄一は喉が渇いていそうな顔をしているからミレイが余った手で透明な袋から水いっぱいな木製の四杯のコップを透明な袋から出して一瞬で四人は水を飲みきる。
雄一は反省する真似をしてミナに問いかける。
「いや、あのときの前、火を触ったことがあったのか?」
「ありませんでしたよ」
「そうだったら、どうして火をつけるって出来たのか?」
雄一は独り言めいた質問をするとミレイはすぐに答えを出す。
「たぶん、答えは太陽なんだ……その日に一秒でも太陽に当たったでしょ」
「そうですね……森の中へ歩く前に太陽の光に当たりました」
ミナがそう述べるとミレイは言葉を継ぐ。
「それは十分なんだ。太陽の光に当たれば、その光は無意識に透明な袋に入れる。そして、その光は火とし使ううことは出来るから火をつけるのは簡単なんだ、無意識でも」
ミレイの言い添えを聞くと透明な袋と関係を持つ出来事を覚えてそのまま口にする。
「そして今朝も使ったぜ。着替えのときに」
「そうでしたね……透明な袋でしたか。気づきませんでした。ミレイちゃんが言う通り無意識に使っていましたかもしれません……」
雄一の宣言にミナがそう言い返すとふたりはそれの説明をしてくださいと言わんばかりミレイの方向へ顔を向ける。ミレイは咳払いをして話す。
「そうね。太陽と火の例えと等しく、布を触ったことがあったら透明な袋から衣服を出せるよ」
「つまり、透明な袋はたくさんの物を入れるためだけじゃなくて、素材があれば何とかかんとか出せるってことか」
「その通りなんだ」
接した物を保つためではなくて、その「何か」から他の物を作ることも出来る。例えば、布で衣服を作れる。太陽の光で火を起こせる。そのパターンで、鋼で剣を作れるかもしれないのだ。
そういえば、シルデス村のあの宿屋を築いたのはミレイだった。それを告げたときに魔法でと言った。けれど、ミレイが透明な袋を魔法と呼びがちとも言った。即ち、その宿屋を透明な袋で築いたということだ。
「そうですか……食べ物でも透明な袋にしまえますか?」
「しまえるよ。何食べたいの?」
「りんごジャムパンッ……」
ミナがそう言うとセリフの途中で彼女の腹が鳴った。ミレイが笑いながらミナに話しかける。
「ふふ、腹減ったね、ミナちゃん。はい」
「ありがとう、ミレイちゃん」
ミレイの手のひらにりんごジャムパンが現れ、ミナにそのりんごジャムパンを渡す。
「ミツキちゃんも……あんたも、食べて」
「ありがとう」
「おう」
ミレイがりんごジャムパンをミツキと雄一にも渡し、お腹がいっぱいまで四人は食べ続けた。焚き火の辺りに座って食べ物を分かち合う。それなりに楽しいと雄一は思った。
自分の家族のことさっぱり思い出せない雄一は彼の近くにいる可愛い子たちの顔を見る。おそらく、この三人の女子は、今は、家族の定義に最も似る関係だな、と雄一は考えながらため息をつく。
透明な袋からミレイが二つのテントを出す。昨夜の寝るときと同じく、一つのテントはミナとミレイとミツキが一緒に寝るためだ。言うまでもなく、余るテントは雄一のテントである。ミレイは焚き火の炎をもう一度透明な袋にしまい、四人は各々のテントに入った。
キタノ森林はひっそりと静まり返っている。枝が弱く揺れる。静けさの音が隅から隅まで反響をする。そのキタノ森林の囁きような音を聞きながら雄一はテントの暗闇の中、一人で笑った。今は一人であっても、孤独感を全然感じていないのだ。




