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第36話 屋敷への襲撃

 薄暗い森の中を俺とバハリスさんは走り抜ける。

 通常の2倍くらいのスピードで走っているが、それほど疲れは感じない。

 これも肉体強化の恩恵だろうか。


 さっきは運よく監視の目を盗んで街から抜け出せてよかった。

 あそこでバレていたら囲まれて死ぬし、メイドさんが戦ってくれている意味がなくなってしまう。

 いやまあ見つかっても全力で走ればどうにかなったかもしれないが。



 3分くらい走っただろうか、やっと屋敷の門が視界に入って来た。


 そして俺とバハリスさんは走り続け、やっとその門へとたどり着いたのだった。

 その開け放たれていた門へと……。


「おい……、あれって……」


 俺は門を抜けた先で倒れ伏す、短い金髪のメイドを指さして言った。

 地面には彼女を中心に赤い絨毯がひかれている。


「――まさか……クラリスが……」


 バハリスさんは信じられないといった顔をしている。

 俺も信じられない。

 あんなに強いクラリスさんが負けるなんて。


 バハリスさんはゆっくりと門を抜けてクラリスさんの方へ歩いていく。


「……結界で魔法が封じられているようです」


 何かを感じたのか、空を見ながらバハリスさんはそう言った。

 そして今度はしゃがんで、クラリスさんの呼吸を確認する。


 しばらくしてからバハリスさんは首を横に振った。


「そんな……」


 俺は傷だらけのクラリスさんを見ながら悲しみに顔を曇らせた。


 魔法が得意なクラリスさんが魔法を封じられてしまった。

 だから殺されてしまったのか。

 なんて卑怯なやり方だ。


 そんな思いは俺の心を紛らわせる口実でしかない。


 ――俺のせいだ。


 さっきメイドさんが潰れて死んだのも、クラリスさんが殺されたのも、何もかも俺のせいだ。


 俺が情報を流してしまったから。

 ミラのプレゼントに魔法が仕込まれていると気付けないほど、俺が未熟だったから。

 もっと注意深く生活すべきだったのに、油断しきっていたから。


 だから気付いた時にはこんな状況になってしまっているんだ。

 情けない。未熟さは既に気付いていたはずなのに、ちょっと魔法と剣が使えるようになったからって……。


 ――いや今は干渉に浸ってる場合じゃない。

 反省会は後だ。


 俺はひとまず顔を上げた。


「結界を解くにはどうすればいいんだ?」


 俺がそう尋ねると、バハリスさんはまた首を横に振って答えた。


「術者を倒すか、この広大な敷地のどこかに置かれているかもしれない魔道具を破壊すれば解けます」


「置かれているかもしれない?」


 もしかしたら置かれていないかもしれない、といった言い回しが引っかかりそのまま尋ねる。


「術者は魔道具を置かずとも結界を発動させることができます。それに術者を倒せば魔道具があっても結界は解けます」


 なら術者を倒すのが確実か。

 それが大変なのだが。


 でもそうしなければきっと生き返らせる能力も使えないだろう。

 はやく生き返らせてやらなければ。


 俺たちは無言のまま屋敷の大きな扉へ向かって歩きだした。


 いつもなら穏やかで整えられた庭だが、争った後なのか庭は荒れていて、とても穏やかとは言えない。

 それにこの薄暗い天気と、目には見えないが結界があるという。

 穏やかとは無縁だ。


 しかも大切な人が1人死んだ。

 命を懸けた戦いに卑怯も何も言っていられないが、最大の攻撃手段を封じられて相手の有利な条件で戦って殺されたのだ。

 悔しいだろう。


 俺はクラリスさんの思いを想像して、怒りを嚙みしめた。


 そして扉の前に着き、バハリスさんは扉をそっと開けた。


 俺はその間から中を覗いた。

 幸いなことにそのままグサッ、とはこなかった。


 でも俺の体は一瞬そこで止まった。


「フィリム……?」


 声を震わせ、目を見開く。

 そして俺は滑るように、倒れ伏すフィリムの側へ寄り抱きかかえる。


 無論、血の絨毯に学校の制服は赤く染まる。

 それでも俺は躊躇なく、人形のようになった傷だらけのフィリムを抱く。


 またフィリムを殺してしまった。


 俺がフィリムを殺すのはこれで2回目だ。

 通常ありえないはずの2回目で、また殺してしまった。


 もう死なせない。

 そう心に誓ったのに……。


 やはりフィリムはここから、いや俺から離れた方が幸せに生きられるだろう。

 俺の側にいるだけで何度も死ぬ痛みを味わうのなら、フィリムも俺から離れたがるだろう。


 俺は血まみれになった手で涙を拭って立ち上がった。


「死んでる」


 俺はバハリスさんに、震えていることがバレないように静かに伝える。


 でもダメだった、俺の声は震えている。

 なんなら息も震えている。

 涙も止まることなく出ている。


 2度目でも、罪悪感と寂寥感に押しつぶされそうになってしまう。

 でもその感情を失ってしまったら、人間をやめていることと何ら変わらない。

 まっとうな人間であると自負しているから、これが正解なはずだ。


 なのに、なのに……、つらくて、死んでしまいたいほどに苦しくて、でも俺のせいで……。


 そんなやり場のない思いが、俺の心を破壊していくような感覚に襲われる。


「……大丈夫ですか?」


 バハリスさんもつらそうな顔をしているが、それでも俺にハンカチを差し出してくれた。


「……ああ」


 俺はそのハンカチで涙を拭きながら、そう返した。

 でもなんだか、自らフィリムの血を拭き取ろうとは思えなかった。



 しばらくして落ち着いてから、俺とバハリスさんは屋敷の探索を開始した。

 勿論2人で行動している。


 まずは1階から。

 そして2階。

 ここまでは異常はない。


 そして3階。

 ここはラミリアの部屋がある。

 ラミリアの暗殺が目的なら、この階になにかあるかもしれない。


「慎重に行きましょう」


 俺はバハリスさんの後ろから静かに声をかける。


 ――こういうときは頼もしい背中だな。


 そんなことを考えているとバハリスさんは進みだす。


 俺たちはまずラミリアの部屋へと向かう。


 部屋の前に着くとバハリスさんはゆっくりと扉を開けた。

 中は暗く、明かりがついている様子はない。


 バハリスさんはそのまま部屋へ入っていく。

 俺がそれについて行こうとしたときだった。


 バハリスさんが突然倒れた。


 声も出さず、ただ急に倒れた。


「バハリスさん!?」


 俺は急いでバハリスさんのもとへ寄って、生死を確認する。


「よかった……」


 気を失っているだけのようだ。

 でもなぜ突然気を失ったのだろうか。


 俺は疑問に思いながら顔を上げた。

 すると、視界の端から顔が現れた。


「ぅうわぁぁああああああ!!!!」


 俺は壁際まで飛ぶようにさがりながら叫んだ。


 この登場の仕方にこの顔、フォルミドだ。


 ――クソッ!!


 バハリスさんという唯一の望みが消えてしまった。

 俺に何ができるというんだ。


「久しぶりねぇ、元気にしてたかしらぁ。今からお預けにしていた、お仕置きをしなくちゃだわねぇ」


 むかつく口調でフォルミドはそう言う。


「ラミリアはどうした?」


 俺はフォルミドを睨みつけながら、小さく尋ねる。


「ああ、あのたまたま生きていた子ねぇー? そういえばメイドにも私が殺したはずの子がいたけど、どうしてかしらねぇ。まあ、たくさん殺せるから問題ないわぁー」


 フォルミドはうっとりとした様子でそんなことを言った。


 ――サイコめ、くたばりやがれ。


 俺は答えを言うまで睨み続ける。


「ちょっとぉー、なに睨んでるのよぉー。安心していいわよぉ、ちゃぁんと殺しておいたものぉー」


 そう言いながらフォルミドは奥のベッドを指した。


 外は薄暗いし部屋にはカーテンがかかっているのであまりよくは見えないが、そこには確かに人の形をしたものがあった。


 上半身と膝まではベッドに乗っているが、そこから下はベッドから垂れている。

 腕は大きく広げて、大の字のようになっている。


 目が慣れてきたのか、やっとその様子がはっきりわかってきた。

 まず、その人はラミリアだ。

 ベッドは赤く染まっている。

 いたるところには羽毛が落ちており、ベッドが破れていることも分かった。


 ラミリアは仰向けで、髪はベッド中に散乱しており、乱暴されたことが見て取れる。


 ――許さねえ。


 俺のせいでこうなったのはわかっている。

 俺がフォルミドに勝てないのも分っている。


 けどラミリアを殺して、こんな雑にベッドに置いて、それを嬉々として見ているフォルミドを許せるはずがない。


 俺は一気に全身に肉体強化を施して立ち上がり、高速の拳をフォルミドに向けてはなったのだった。


ご覧くださりありがとうございます。

今日も投稿が遅くなってしまいすみません。

評価をどうかお願いします。

ブクマのほうもよろしくお願いします。

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