新しい朝が来タ
チュンチュンと、たぶん雀じゃないですが、爽やかな朝を告げる小鳥達が鳴き交わす中、一睡も出来なかったハジメがそこに居ました。
流石に目の下に真っ黒な隈が出来る……程ではないにしても、精神的なダメージは計り知れない。……そりゃそうだ。
……ぎぎぎぎぎぎぎっ、油の抜け切った蝶番のように軋む首をゆっくりと振れば、視界に入るモルフィスとクァイナの……あられもない寝姿。
直ぐ隣で寝ているモルフィスは、閉じない複眼の下にある単眼を閉じながら、スヤスヤと安らかな寝息を立てている。だが、やはりそのよく動く唇は、まだ夢の中とでも言いたげにムニョムニュ、と蠢かしながら、「……んぅ、入るかどうか……試しちゃう……?……うふぅ♪」等と一切触れられない寝言を呟きつつ、ギリギリ瀬戸際セーフな着崩れ感でシーツに包まれたまま寝入っていた。
その向こう側で寝ているクァイナはと言えば、モルフィスが横に寝ているお陰で寝姿は見えなかったが、手前で寝ているモルフィスが仰向けで寝ている時は、その向こう側に薄暗がりの中でもハッキリと確認出来る程の白き雄峰……白いブラトップ姿で眠るクァイナと言う山だった。
確かに手前のモルフィス山も決して丘レベルではなく、形も高さも立派な山であるが……その先に聳え立つクァイナ山は……高さ、形、そしてボリューム全てが完全無欠だった……。と言うか、仰向けなのに形があんま変わらないぞ!?……世が世なら(……シリコン?)とか疑っているレベルだぞっ!?まぁ入れている人だろうと何だろうと直接見たことはないが。
そんな美峯連山を視界に納めてしまうと、ついつい若さ故……様々な妄想がムクムクと頭をもたげて……ハイ、朝になりました。
ついでに《あたたかなおもてなしの心》スキルは、意外にも発動した後は自動的に継続するらしい。……どうやって止めたりするんだろうか?一度詳しく聞いてみたい。……と、言うことはまたあのマイクロビキニ神に会わなきゃならんのか?……うーん、楽しみですじゃない波乱の予感しかしない……。
「……くぅ~~ッ!!おっはよぉ~♪ハジメ!……あふぅ……ん、あれ?(ゴソゴソ……)……襲われてない……だと!?見損なったぞッ!!」
「モルフィスさん言ってること……矛盾してません?」
モソモソと身を捩らせながら目を覚ましたモルフィスに、オトコとしての沽券の違いについての意見の食い違いを指摘され、戸惑うハジメを他所に、触角を撫で付けながら、まぁ……そんな紳士的な所が悪くないんだけど……良くもないけど……と、軽いジャブを入れられ、
「んふん……ふああああぁ……朝かぁ……あ、おはよござますぅ……モルさん……と、……!?な、何でアンタまで居るのよっ!?……はっ!?……(ゴソゴソ……)……くっ、……襲われてない?…………ちっ。」
と、やっぱりらしく慌てながら肩口の着衣の乱れを慌てて直すクァイナだったが、やはり同様ながら若干違う反応をされて、(……微妙に二人のニュアンスが違うなぁ)と他人事のように思うハジメだった。……爆発すればいいのに。
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「……んで、すーっごく爽やかな目覚めだったのよねぇ……あれ、物凄い有意義なスキルじゃない?」
モルフィスはそう言いつつ、手製の朝御飯(何故かシンプルな和食)の沢庵漬けで白飯を頬張りながら、快適な睡眠だったと回想し、
「そーそー!さっき洗面台の前で見たら、いっつもと全然違ったのよ!肌艶もいーし、髪の毛もしっとり滑らかで!……何だかホルモンバランスまで整ったみたいな?……ねぇハジメ、アンタ本当に……何もしてないの?」
こちらは全粒粉パンとマーガリンのシンプルな朝食(サラダとベーコン付き)を食みながら、ハジメのスキル効果が予想を上回る結果を引き出したことに驚くクァイナ。
「……それはよござんしたねぇ……あ、俺は出来れば熟睡できる環境をお願いしたいです。切実に……」
そう言うハジメはくり貫いた食パンに目玉焼きを落として蓋をして、外した中身で閉じてからチーズで塞ぐ手の込んだトースト(モルフィス曰く只の思い付きらしい)をかじりながらカフェラテで流し込む。
三者三様の朝食風景を醸しつつ、のどかな時間を過ごしていたのだが、不意にモルフィスは、そー言えばさ、と切り出し、
「パーティ組んだんだから、一回【職業斡旋所】に顔を出してきたら?あそこならクエスト探せるし色んな情報も得られるから悪くないよ?」
と、年長者らしい的確且つ作者思いな(おいコラ)ことを言う。
「【職業斡旋所】……?それにクエストって何?」
この世界に疎いハジメはそう言いながら、自称道案内人のクァイナの方を向くと、
「あー、まだ話してなかったわね?……この世界って……」
と、指を立てながらはむ、と全粒粉パンをかじってから暫く咀嚼して、
「……んむ。つまりこーゆーことよ?」
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……この世界、そして「星降る地」には、様々な種族そして魔物や怪物が居るのだけど、基本的に……【煉獄の住人】と呼ばれる死に戻りの人々がウヨウヨしてる場所なんだけど、
ともかく、【煉獄の住人】の大半は、一般的に与えられた《特殊な能力》を用いて、狩りや討伐、それにクエストと呼ばれる人助けに近い仕事を生業とすることが多いの。
良くあるゲームのイベントとかと変わらないけれど、内容的には狩りや討伐はその名前の通り、相手は魔物や怪物。倒して得られる副産物を金銭と替えて収益を得るだけの単純な仕事よね。……当然ながら、必要なのは単純な腕力や力業……陰で「コミュ障だろうと出来る仕事」と揶揄されてるわ。
で、イベントと呼ばれている方は、【職業斡旋所】で募集されている仕事を指していて、こっちは依頼者が【職業斡旋所】を介して依頼する特殊な仕事。当然ながら、内容は多岐に渡り、人探しや行商人の護衛、時には誘拐解決や商談援助と言った複雑で人との交渉みたいな難しい内容もあるのよ?コミュ障じゃとてもじゃないけど務まらない仕事ね。
……で、イベントには一つの特典があって、【職業斡旋所】ってのを運営してるのが、私達の転移転生に関わっている神様達だってこと。何でそんなことしてるかって?……詳しくは知らないけれど、ここが《死者と正者の狭間の者》を受け入れている場所だ、ってことが深く関係してて、イベントをこなすと神様から《ポイント》みたいな評価を受けられるってこと。
《ポイント》が何になるのかって?ズバリ言えば……【復帰】を促す為に必要なものだ、ってこと。……何でそんなこと、知ってるのかって?
んふふ……それは私のスキルの一つ!【ステータス詳細閲覧】が有るからよ!
……何それ、って?まぁ、簡単に言うと「相手及び自分のスキルに関わる数値や詳細を隈無く理解できる」ってこと!
……だから、ホントはパーティ組まなくてもハジメのスキル、判る筈だったのに、見たら【Secret】ってなってたから、あー、これはパーティ編成しないと閲覧出来ない仕様のモンかな?って思ったから……えっ!?今は、って?……そーよ、今もそのままよ?……ほんっと、アンタって訳判らないスキルばっかよね……【悪運】といい、【あたたかなおもてなしの心】といい……【超時空戦艦】だって……何なのあれは……茶番劇?そうそれ……見てる間って出られないの?あそこ?……ふーん……まぁ、いいけど。
ちなみにハジメ、その……全長三十キロ……だっけ?そんなバカでかい存在なのに、何で床が抜けたりしないの?
……何よそれ……「指人形で歩く姿を模したとしても、付いてる面に全体重は掛けないだろ」って?……そりゃ、確かにそうだけど……じゃ、何で噛まれても平気なの?……「あれは自分が余りにも硬過ぎて、相手の咬む力と荷重が柔らかなスポンジでふんわりと挟まれているようにしか感じられない」から?チートここに極まれり……ね。
じゃさじゃさ、ものッ凄い高温とか、信じられない位の爆発とかだとどーなるの?
……「宇宙では超高温の恒星の傍を通過したり艦砲射撃に一番良く曝される船首だから、その対爆対熱対放射線能力は船体最高に設定されている」から問題ない?……じゃ、アンタを倒そうとしたら、同じ能力の戦艦ぶつけるしか方法ないってこと?
……な、何そんな「頭の切れる出来る女なんですね、御見逸れ致しました」的な顔してんのよ?……バカにしないでよ……もう。
(……二人とももう付き合っちゃえばいーのに)byモルフィス