表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/38

初勝利と祝い飯



 「うわぁ……マジか?その話……」


一見すると厳つい顔立ちの、いかにも荒事稼業が生業と言わんばかりの部分鎧で各所を補強した革鎧姿の男が、チラチラと町の外を窺いながら同様の男達と話し込んでいた。


「あぁ、あの()()()()()()()()のクァイナがよ……よりによって《激甚級(グラビテクラス)》を狩りやがったらしいぜ……それで、今どうしてると思う?」


傍に居た同業者の男は、過去に何か因縁でもあったのか、嫌な物に触れるように顔をしかめつつ最初の男にそう言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それも終わって町に戻って来るみたいだがよ……と、入り口の方へと目を向けた。


「どーせ色仕掛けか何かで騙くらかして、上手いことくっついていった相方が共倒れして……とか、そんなとこじゃないか?」


話の尻馬に乗ったもう一人がそう言うと、三人は下卑た笑い声を上げながら口々に、違いねぇ!見た目だけは上玉だからなぁ!!と嫌ったらしく騒いでいた。


「…………何だか噂だけが先走って、嫌な空気になってるわね……」 


町に戻ったクァイナとハジメを待っていたのは、賞賛と歓迎の声ではなく……疑念と疑惑の眼差しだった。


(ち、ちょっとクァイナさん……これ、一体どーゆーことなんですかッ!?)


思わず小声で耳打ちするハジメに対して、キッ、と目尻を吊り上げながら険しい表情を浮かべたクァイナは、


「……ここは私に……任せてちょうだい……()()()()()()()()()()に……ね?」


と、答えながらズッ、と町の入り口でしっかりと足を踏み締めて、


「ちょっとそこのアンタ達!!……私が、この私が激甚級の化物を捩じ伏せてやったのよッ!!……なんか文句あんのっ!?」


彼等は噂の張本人が現れたので一瞬沈黙はしたものの、明らかな失言を聞かれたことで詫びる風でも無く、格下の相手の遠吠えと侮りつつ出方を見ているようだった。


その沈黙を合図に、クァイナは不敵に微笑みながら掌を前に突き出して、グワッ!……と、握り込んだ瞬間、


……ガッシュッ!!……と、聞いたことも無い摩擦音と共に大気が揺らいで、何も無い筈の空間が丸く弧を描いて歪み、


「……つまらない口出しをする奴は……こんな風になるわよッ!!」


猛々しく叫ぶクァイナの声を合図に、さながら()()()()()()()()()()()()()()()()地面が(えぐ)れて無くなり、キュンッ、と小さく圧縮する音と同時に全て消えてしまった。



三人の男達も何らかの狩りで暮らす身分なのだろうから、大抵の異常な能力(チート)は見慣れていた。だが、彼等の知っていたクァイナの姿と、目の前で披露された異質な力の具現化は全く重ならず、下卑た笑い顔も一瞬で霧散してしまう。

しかも……全く成長の欠片も見えなかった過去の彼女と違い、彼等の前に仁王立ちするクァイナからは突き刺すような鋭い気迫、そしてその見た目からは決して想像されない筈の……武装した人間すら腕のひと振りで瞬殺出来る、規格外の猛獣さながらの殺気が迸っていた。


「……い、いやその……な、何だか急に強くなった……んじゃない……か?」


最前の一人が狼狽しながら必死に言葉を引き出して話すが、さっきまでの勢いは全く見えず、あわよくば即座に退散したがっているのは一目瞭然だった。


「……ま、そうね……()()()()本気を出せば……グラビデ・クラスも敵じゃないってこと、証明出来たんだけど、ね……?」


そう言うクァイナが軽く微笑んだお陰で一瞬空気が弛み、それを皮切りに……ままままぁそうかもね!!あははははははぁ!!と、冷や汗をかきながら必死に作り笑いを浮かべた彼等が各々に取って付けたような都合を口にしつつ、そそくさとその場から離れていった後、




「……はあああああああぁぁぁ…………慣れない啖呵なんか……言うだけでも疲れるわぁ……」


言いながらクァイナは、くたぁ……とハジメに寄りかかり、早く行きましょ早く、慣れたとこの慣れた席に座りたいの早く!!と彼の背中を押しながら先を促した。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「……っ聞いたわよ聞いたわよクァイナちゃんっ!!グラビデ・クラスのク・ヴォルティスどころか異世界未確認生物(トンデモUMA)まで一緒にグチャポイのペチョペキにして、イーッ!さん達をして【いやぁ、あんな風に巨大な相手を木っ端微塵に出来るなんて……なんて怖い()っ!?】なんて謂わしめたって聞いたわよっ!!!も~っ!ホントにクァイナも人が悪いんだからぁ~っ♪ねぇねぇ、いつから?いつからそんな風に格の違いっての?急にメキメキと頭角を現すようになったの?ねぇねぇ、ウチのご飯食べてから!?もしかしたらトナカイのモツにそんな効き目があるのかな!?だったらクァイナにマスコットになってもらおーかな!?特盛のモツ持ってモツだけに()()()()()()()()()()みたいなこと言いながら……あ、この世界テレビないんだったわ……」


二人が両開きのスイングドアを開けながらいつもの《くえばわかる亭》へと足を踏み入れると、マスターのモルフィスが……振り切れていた。


(うわぁ……マスター、こんなに喋るヒトだったんだぁ……)byクァイナ

(うわぁ……てか、イーッ!さんって他の言葉でちゃんと意思疏通(コミュニケーション)出来たんだ!?)byハジメ


……そして二人は各々に、モルフィスのマシンガントークにより見慣れた(イーッ!さんは初対面だったが)相手の意外な一面を見出(みい)だしていた。


「あ、それよか一仕事終わってお腹空いてるでしょ?……さ、好きなもん食べてってよ!二人のパーティ初仕事のお祝いと事の顛末、も~気になってワタシも仕事が手に付かないんだもん!早く注文しちゃってよ!!」


しかし彼女は《くえばわかる亭》の主人らしく、ニャハハ♪と笑いながら二人に注文を促しつつキャベツを刻みパプリカの湯剥きをし始め、手際よく段取りの下準備を始める姿を見せたので、


(……やっぱモルフィスって、凄腕の料理人なんじゃないかなぁ……見た目は私よりずーっと若いけど……)byクァイナ

(……それにしてもマスターって、後ろから見るとタンクトビキニ(※①)だよな?……じゃ、エプロンの下って……かなりエロい格好な気がッ!?)byハジメ


二人は各々にメニューから、今日の遅めの昼御飯をチョイスしつつ、やっぱり各々が違う所を観察して想像してました。ちなみに両人とも正解!!


(※①)→タンクトップビキニ、の略。某米国産(フクロウ)達の店名を掲げた都内某チェーン店では、働くウェイトレスさんみんなが真っ赤なコレを統一ユニフォームにしていましたが、作者はその際の店員さんが、全員好みとは違ってたので全くコーフンしませんでした。モルフィスさんは白いタンクトビキニとパンキーなダメージホットパンツのヘソ出し仕様ですが何か?


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「ほいほい!コッチは《ブリタニカ風・ピリ辛三段ロケットバケットサンド》の特盛ランチ!……そんでコッチが《本日の謝肉祭!チーブル超特急♪》のやや辛さ控え目の特盛ランチ!って感じだよね?」


「……ねぇ、マスター、この名前とか料理とかって、全部一人で考えてるの……?」


目の前に置かれた強烈な品々と、特盛ランチの名に恥じないてんこ盛りの付け合わせに圧倒されつつ、クァイナがモルフィスに尋ねると、


「ん?そりゃそーだよ?だって従業員ワタシしか居ないもん。チェーン店でもないしぃ~♪だーからこーしてマイペースにぃ~、店じまい出来ちゃうしぃ~♪」


モルフィスは、店の入り口に【支度中・何人たりとも覗くことすら御断り!】と極めて強気の札をぶら下げると、二人が座るテーブル席にガタタンと椅子を運びマイジョッキ(!)へ黄昏色の飲み物をなみなみ注ぎ入れ、


「ふっふぅ~ん、ねぇねぇそれで……んと、まずはぁっ と……うふうふぅ~♪いっただっきまぁ~っすぅ~!!」


……ごっきゅっ、ごっきゅっ、ごっきゅっ……っと、喉を鳴らしながら特大メガジョッキの三分の一程を軽々と飲み……、


「っくぅ~っ♪おっ仕事あっとのぉ~この一杯ぃ~ッ!!ぐぁ~ッ!!たまらんッ!!……ん?どったの?二人とも?」


唖然とする二人の顔を見比べながら、モルフィスはちょっとだけ止まっていたが、直ぐに気を取り直し二口目に取り掛かろう……とする前に、


「どしたの?さっ!とにかくお腹空いてるんだから食えばいーから!」と、二人を促した。


ちなみに二人の前に並ぶランチは、ハジメの前に《ブリタニカ風・ピリ辛三段ロケットバケットサンド》が、そしてクァイナの前には《本日の謝肉祭!チーブル超特急♪》が白い大皿にやっぱりてんこ盛りで載っていて、


【勇敢な挑戦者求む!全部五分で食べたら全部タダ!!】


……的な添え物を従えてドカン!と鎮座しています。


勿論二人は名前を読み上げて(……いや、何なんだろ?……まぁ、ここの料理だからまずハズレは無いか?)とチャレンジしたのですが、



《ブリタニカ風・ピリ辛三段ロケットバケットサンド》は、辛さ三段階のソース(スイートチリソース・ハラペーニョ・ハバネロ)に合わせて各々が違う具材(蒸しエビ・豚粗挽き肉・牛バラ肉)が三つに別れたバケットに挟まれているサンドイッチなのだが、もちろん《くえばわかる亭》的なギューギュー詰めのミニトマトやハムや刻みレタス、それに酸味を増したカラシマヨがピュピュンと掛けられた一品(ちなみに何処がブリタニカ風か?と聞いたらバケットだけどどう?と逆に聞かれた)。


そして《本日の謝肉祭!チーブル超特急♪》は、と言えば、チーブルとはチーズブルダック、の略らしく鶏(モモ)肉のピリ辛ソース炒め溶かしチーズ掛け……なのだけど、ふっわふわな食パン丸ごと半分の中身をくり貫き、空いた空間にチーズブルダックをコレでもかコレでもかッ!!と詰め込んで……くり貫いたパンはトーストにして添えてあるがコレにもチーブルが載っている……当然ながら周囲を取り囲むフレッシュサラダはやはり毎度お馴染みの量……(こちらの超特急♪に関しては一言《ん~、語呂の良さかな?》と言われた)。



……さて、各々のお味は?……と言えば、ハジメ曰く、


(……いきなりハバネロってのはハードル高いか?……いや、辛い方から攻めれば他が楽に……いや、安全パイでハラペーニョ……ややや、やっぱりハバネロッ!!)


「いただきますっ!!…………からっ!?…………ん、んん!?……辛いけど……、あ、やっぱり辛い。……んむ、汗出てきたぁ……(ドリンク休憩)、ふぅ……でも牛バラがホロホロっとほぐれて……あ、脂身の甘味が辛さを和らげてくれるのかぁ……でも、あれ?……あんまり辛くない(※②)?……」


ハジメはそう口走りながら、結局ハバネロサンドを完食してしまう。しかも、ハバネロの中に潜む特有の甘味すら感じられて、それが牛バラ肉とマッチして食が進み、パリパリのフライドオニオンや定番の千切りキャベツ+サワークリームの酸味等も手伝い、気がつけば無くなってしまっていたのだ。


そしてハラペーニョは緑の実を使ったピクルスで、爽やかな辛さに豚粗挽き肉甘辛炒めにシュレッドレタス、そして揺るぎ無いトマトソース&フレッシュトマトにチェダーチーズの不動の組合わせ。

こちらはアフターハバネロだったせいで、辛さは感じず若干の物足りなさに繋がるかな?と危惧したが、フレッシュ&ソースのダブルトマトとその他の具材は【コレ以外の組合わせで食べる?なーにいってんの?有り得ないでしょ!!】的な一体感を持ち、まだ日の高い時間にも関わらず……テキーラ、いっとく?と思いたくなる位にメキシカンな味わいだった(なんだそりゃ?)。


最後のスイートチリソースは、酸味の強いチョイ辛に合わせた蒸しエビとアボカド、そしてレタスと見慣れない緑色の葉。とりあえずその葉っぱと一緒に全てを口に入れて咀嚼すると……鼻まで突き抜ける独特のアクの強い刺激臭に一瞬意識が飛んだのだけど、慌てて吐き出す程の刺激ではなく、暫し戸惑いながらも結局飲み込んでしまっていて、


「……むはぁ!っててて店長さん!?……この葉っぱ、何ですか!?……でも、何処かで嗅いだことの有る匂いなんだけど……思い出せなくて……」


「ん?あー、それ?……んと、ちょっと待ってティング……あ、それ!」


ガチョン!!と、二つの黄昏なジョッキをクァイナとハジメの前に置きながらモルフィスは、


「コレ、二人の門出を祝してワタシからのプレゼント!……で、それはね~、サラダ用のドクダミの葉!!」


と、意外な食材の名を口にして、聞いたハジメは遠い記憶の只中で、おばあちゃんの家にお茶用のドクダミが干してあったセーブデータと内容が一致したのでひと安心。


恐る恐る二口目に取り掛かるものの、ファーストインパクトの強烈さと比べればお茶のこサイサイ、ハジメはパクチーよりも薬効ありそうなドクダミの味わいに、不思議な旨さを感じて眼から鱗が落ちた心持ちだった。



一方その頃クァイナと言えば、チーブル超特急♪と正面から向き合って、手四つの体勢から力比べに入ろうとする直前であった。

見るからに堅牢且つ重厚な城壁(食パン)に阻まれたチーブルは、赤いソースと黄色いチーズを纏った囚われの貴婦人さながらに、クァイナの出方を窺っているようにも見える(妄想)。


「お腹空いてるからいただきますっ!!」


まぁ、毎度ながら、空腹は最高のソースである……そう言ったのは古代ギリシャの哲学者アリストテレスだったけれど、クァイナに言わせれば「……っるさい!食事の邪魔すんな!」と言われそうである。

それはそれとして、チーズと甘辛い鶏肉、そして炒めたキャベツとタマネギそしてモヤシの組み合わせは、シャキシャキとした野菜の歯応え、それと……後からやって来る刺激的な辛さ……っ!!


そう思った瞬間に目の前にドンッ!!どんなもんだい!と置かれた黄昏ジョッキに意識をゴッソリと持っていかれ……て、


「……っくう~ッ!!たまらぁ~ん♪マスタァ~ッ!!やっぱりあなたは最高ですよぉ~♪」


……クァイナは我を忘れてビールとチーブル、付け合わせのポテトとビール……と、最高の反復横跳びを繰り返していたのだった。無論美味でしたが。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ