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肉友(マブダチ)



 「錬獄の住人、に成り立てなんでしょ?」


どや顔のクァイナに宣告されて、若い男は恥ずかしげに俯き、


「ええ、まぁそんな所です……」


と肯定する。……が、そんなことは最初からクァイナにはお見通しな訳で、彼女の頭の中では既に先々のソロバン勘定が始まっていて、


(……見た所、この人、まだ来たてで時間も浅そうよね……なのにあんな大それたチラシを貼って人寄せしてる、ってことは明らかに狙いを持って求人が必要な訳でしよ?つまり……ツテまでは無くても目論見はある訳よね……そんなに悪い奴には見えないし、客観的に見てもまぁ……害の少なそうなタイプよね?うーん……もしかしたらこれは……掘り出し物っぽい?いやいやまずは慎重に探りを入れていざとなったら女の武器を駆使してでも……ん?そーいやまだパーティ編成してないからステータス確認は出来ないか……よし、まずはそこから攻めるか……?)


「じゃ、道先案内人のあてはあるの?」


クァイナの進言に首を傾げる男の様子を見てとり、これは脈あり……、と悟った彼女はグイッ、と反らしていた胸元を更に寄せんとしながら彼に近づいて、


「ちちちちょっとあの、近いんですが……?」

(わざとそーしてんのよバーカ♪ウフフ……こりゃチョロチョロじゃない?楽勝コースじゃん!)

「あのね?ここに来る人種は二種類なのよ?先ずはさっき言った《錬獄の住人》……ま、平たく言えば私達みたいな、過去に色々あって……ここに転移転生してきた人間のこと!それともう一種類は、ここのマスターみたいな《来訪者》達ね……希望して自らこの世界にやって来た人ね……そーでしょ?マスター?」


そう差し向けられたモルフィスは、そーそー!と軽く返事しながら、


「うちの場合は親戚筋から、平和で居心地のいー場所だからどう?って誘われてさー!従姉妹のねーちゃんが現地人と結婚したから、お祝いに来た時に勧められてさ?」


と、肉を焼く鉄板に用いるコテ(起こしがねとも言うが)をクルクルッと指先で廻しながら注文されていたパティをジューッ、と焼き付けつつ、


「……っと、ほいっ、とねぇ~♪あ、出来たてホーイ♪」


ポン、と真ん中を割られたパンに挿し込みギュギュッ、と千切りキャベツを盛りつけ液状卵液調味酢(マヨネーズ)をチューッ、と網掛けしながら仕上げに粒マスタード。


「はいよ!ウチ特製の照り焼きバーガー一丁あがり!」


サッと皿に載せ、添え物のフレンチフライを山盛りてんこ盛りにしてケチャップをぐにゅにゅ。


「……気になってたんですが、このお店の名前って……」


若い男が控え目な声で訊ねると、モルフィスは何だそんなこと?と触角をフワフワと動かして、


「《くえばわかる亭》?だって見てのとーり、食えば判るじゃん?」


もうもうと湯気をあげながら運ばれていく先では、四皿目を待ちかねた獰猛そうな容姿のコボルト(標準より四割増しの体躯)に手渡して、


「ポチ、ほらお待ちかね♪」


「ポチじゃねーし!!あと遅いし!!」


「だってしょーがねーじゃん!一番時間かかる奴なんだからぁ!ソーセージ入りのほーが早いのにぃ。お前バカでしょ?」


「客にバカ言うな!あとバカじゃねーし!いただきます!」


荒々しい様相ながら、意外にも従順な態度の彼が照り焼きバーガーにかぶり付く様を眺めてモルフィスは満足げに頷き、


「んで、なんの話だったっけ?……あ、店の名前ね~食えば判るじゃん!……旨いってさ?」


はむはむ……と食べ進める彼を見る眼差しはざっかけな口調とは裏腹に、慈愛と温かさの籠ったもので、クァイナと若者は彼女の容姿とかけ離れた年季を見て(……このヒト幾つなんだろ?)と同時に思ったのだけど、


「ま、まぁ、とにかく!ハジメさんだっけ?いきなり契約とかは早いだろうから、明日もう一度ここで会わない?たぶん承認届け出とか立会人も必要だからさぁ!」


「し、承認……ですか?」


言葉少なげに聞き返すハジメは、承認届け出……立会人?と繰り返していたが、


「あの、そもそも……ここって、どんなとこなんですか?俺……ホントに来たばっかりでその……良く判らなくて……」


(知らんのに良くあんなチラシ作るわねぇ……バカの天才なのかしら……?)


クァイナは手続きに必要な物を揃えて明日見せるけれど、まずは簡単に言うとね?と言いながらモルフィスに飲み物のオーダーをして(ハジメに払わせるつもりだが)、


「そうね、先ずはこの国の仕組みから説明しようかしら?……んと、」と言いつつ……運ばれてきたジンジャーエールに口をつけてから、


「……あなたも見たかもしれないけれども……この国はたっくさんの神様が居て……」



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



本当に沢山居るからね?……だって、私達みたいな流れ者にもたっくさんの担当の神様が居るから!……確か私が逢った時は……そう!「秩序」と「記録」と「放埒」の神様だったかなぁ……凄い組合わせだけど。


ま、それはともかく、私ら《錬獄の住人》って、死人と生きてるヒトの真ん中らしくって、ポイント……って言うか真面目にキチンと過ごしてると……なんか良くやってるな!って認められるみたい。私はそう言われたから……ハジメさんは?……え、「好きにやってこい」って言われた?ふーん……まぁ、そゆヒトも居るのかもね……。


あ、もちろん「来訪者」さんとかは関係ないみたいよ?だって例えばマスターとかは好き勝手に来てるし、中にはココにしか居ない怪物を狩る為に通ってる魔族やら物好きやらも居るからさ……あぁ、怪物?そのうち会えるわよ?……強いけど。


怪物を何で狩るかって?それは簡単よ!……「魔属性レアメタル」の産出が怪物頼りだからねぇ。「魔属性レアメタル」?あ、知らない?知らないかな?《オリハルコン》や《ヒヒイロカネ》とか。そーそーそれ!

この大陸って、別名「星降る地」って言われててね、昼間も夜も関係なくピュンピュン色んな物や生き物が降ってくるのよ?アハハそーそー私達もそんな感じよね?で、元々魔素が豊富に含まれてる大地の影響で、この辺のモンスターって強さも大きさも半端じゃないのよ!


さっき見かけたコボルトさんもそーだけど、種族を問わず、能力的に優れて且つ……伸び代が望めそうな連中もぞくぞく集まってくる訳。だから、私達みたいな《錬獄の住人》も、並大抵の能力じゃあ……しんどいと思うけど?


……え?私は強いのだろうって?……あ、アハハハハぁ……うん、まぁまぁ……かな?うん。



で、そんだけ強者揃いなら、何かとトラブルの種が起こり得るじゃない?そーゆーことを予防する為に、立会人立てて認証届け出を提出するのよ、神様に直接ね。そーしとけば例の怪物を倒した際も、色々な加工やら精錬やらを代行してもらえるし、楽なのよね!出てきた資源はすぐお金にしてもらえるし。


……ただし、そんな怪物を相手するような強者だと、パーティ編成の許可が必要になるから面倒も増えるんだけど。え?私?……そんなカワイイのにって?そ、そぅ?アハハハハ……そう!?


じゃ、パーティ組んじゃう?いっとく?うんうんだいじょーぶだいじょーぶ!!任せといてよ!うんうん、それじゃ、パーッと前祝いしとこーかなぁ?ねぇ、リーダー♪


……そーだよ?ハジメがリーダーに決まってるじゃん!私みたいにか弱い女の子が前に出て怪物とやり合うの?無理でしょ?ね?


あ、マスター、ここ!うんうん、コレとコレとコレ。そーそー、前祝い前祝い!!……あ、これ食べてみたかったのよ!ねー、ねーリーダーいいでしょ~?やったぁ~♪さっすがは未来のスーパーリーダー!よっ!!女殺し脂地獄!!



……ぷっはぁ~♪これよこれ!この一杯をどんだけ待ち焦がれたことか……くぅ~旨過ぎるぅ~♪あ、マスター、例のモツ持ってきて!!そーそー、じゃんじゃん!うんうん、ハジメも飲みな?旨いから!うんうん、そ~でしょ~?ココのモツなら間違いないから!!旨いから!


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



……あいたたたたぁ……あ、二時かぁ……羽目外したからなぁ……夜中まで飲んで、ハジメに送られてって……あ、そーだ……(ゴソゴソぺろん♪)……うん……何ともない……でも一体何にガッカリしてんの私は!?


ま、いっか……うん、少し仮眠したら仕度しなくっちゃ……今回は絶対に外せない戦いなんだから……私の直感が囁くのよ……アイツは絶対に……、





……イイ楯役(バリアー)になる筈だと思う!!……たぶん!



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