エピローグ
――――数日後。
俺は、咲実に連れられてある場所へとやって来た。
「お兄ちゃん、ごめんね。あの時は、もっと心配させることになっちゃうと思ったんだ」
「もう、終わったことさ。今さらごたごたと言いはしないって」
「うん……ありがと」
この数日で、色々なことが分かった。
まず、俺がどういう存在なのか。
分かったというより、決まったという方が正しいけれど。
あの戦いを経て、レノラさんに報告して、協議ともいえない協議がされた後、決定された。
正式に付けられた名前は、"魔法使い"。
それが、今の俺みたいだ。
魔法少女しか使えない魔法を使う男。
さらにマスコットとの契約もせず、ステッキすら用いない。
それは今までにない異例の事態。
男だから魔法少女なのもおかしい。
魔法少年と言える年でもない。
魔法青年とは言えるだろうが、俺が提案したそれは、咲実やレノラさんや、果てはメリルさんにまで駄目出しされた。
曰く、なんか違う、曰く、かっこわるい、と。
そんな訳で、そのまま、現代世界では何度も物語の中で聞いたことがある、魔法を使う者。
"魔法使い"と、決定した。
魔法少女省庁国の敷地内、裏庭。
俺が、最初にこの世界に来た日に行こうとして、咲実に止められた場所。
その場所に、足を踏み入れる。
視界に、広くスペースが取られた場を捉える。
その、広がった光景。
石。
ではない。白い石、でもない。
墓石。
そこに広がっていたのは、大量の墓石だった。
ここは、墓場だ。
「みんな、魔法少女なんだよ」
咲実が言う、この墓が、全部魔法少女の墓。
墓の数は、多い。
数十、もしかしたら、三桁まで行っているかもしれない。
魔法少女は、少ないと聞いた。
それなのに、この数。
それとも、死ぬから少ないのか。
それは、知らないが。
咲実が、もっと心配させるといった理由が分かった。
この場を、あの時に見せられていたら、俺はなにがなんでも咲実を現代世界に連れ戻して、異世界には二度と行かせないようにしていただろう。
咲実には転移魔法があるから、あの世界に縛り付けることは実際できなかっただろうけれど、無理でもやっていただろう。
もう一つ、分かったことを思い出す。
野良マスコットとだけ、咲実に以前説明された、敷地内を浮いていたマスコット。
あれらは、死んでしまった魔法少女のパートナーだったマスコットらしい。
死んでしまった魔法少女の、残った片割れ。
これを詳しく説明しなかったのも、墓場を見せたくなかったのと同じ理由だろう。
魔法少女の死を意識させたくなかった、咲実の死を意識させて止められたくなかった、ということか。
「お兄ちゃん、こっちだよ」
咲実に呼ばれ、そちらの方へ行く。
「ここが、アリアちゃんたちか」
「うん……」
四人の墓石が、そこに並んでいる。
仲の良かった四人が、横並びに眠っている。
俺は、しばらくその墓石たちを見つめた。
咲実はあの子たちと友達になりたいと言っていた。俺に料理を作ってくれるとあの子たちは言ってくれた。
それらは、果たされることはなかった。
みんな、戦いの中で死んでしまった。
「なあ、咲実」
「なに、お兄ちゃん」
今日は、天気がいい。
気持ちのいい風が、俺たちの体を撫でて通り過ぎていく。
「ゲシュペンストは強かった。強大な化け物だった。こんなに、殺されている」
「あそこまで強かったのは初めてだけどね。今までは、魔法少女たちで協力すれば、安全に倒せることも多かった」
「それでも、死ぬときは死んでいたんだろう?」
だからこんなに墓石が並んでいる。
「そうだね……」
咲実は静かにそう言った。
「それなのに、そんな戦いの最中にあると解っていて、みんな、明るかった。笑っていた。怖く、なかったのか」
「怖かったと思うよ。すごく、怖かったはずだよ。それでも戦うことをやめたくなかった子が、守りたかった子だけが、ここに残っているんだよ」
咲実も、そうなのだろう。
気高く強い、精神性も魔法少女足り得た女の子たちだけが、最前線で戦っている。
本当は、強いだけじゃない、まだ幼さの残る少女でもあるにも拘らず。
俺たちは、どちらからともなく手を合わせ、瞑目した。
魔法少女たちへ、黙祷を捧げる。
怖くても前を向いて戦った、強い女の子たちに。
「あ……」
気づく。
あの子たちの態度。
俺への、接し方。
きっと、あの子たちは愛に飢えていたのだろう。
だから、俺に全力で甘えることのできる兄を求めた。
いくら尊敬する相手の兄でも、初対面の俺に甘えてきたのが物語っている。
怖くても、死にたくなくても、戦うことをやめはしなかった魔法少女たち。それでも溜め込んでしまったものが溢れた。心が救いを求めた。そして俺を頼ってくれた。
それが、俺へ過剰に甘えてきた態度の原因だろう。
今となってはそんな推測しかできないが、きっと間違っていないはずだ。
俺は君らを、ちゃんと甘えさせてやれただろうか。もっともっと、甘えさせてやるべきだったのだろうか。
彼女たちの救いに成れていたのなら、それはどれだけ光栄なことだろうか。
今さら考えても仕方がないことだが。
ならば、せめて、何度でもこの場に来よう。
ここにはいないかもしれないけれど、あの子たちが眠る場所であるここに、何度でも顔を出そう。
俺は、いつまでだって、甘えてもらっても構わないのだから。
俺だって、かわいい女の子たちに甘えてもらえて、仲良くしてもらえて、嬉しかったのだから。
――今一度決意する。
信念を、定める。
この世界でやりたいことが、分かったから。
魔法少女たちの思いを背負って、これからも、誰かを守っていく。護れる力が在るのだから。
俺は、人を助けられる人間に成る。
それは、元からの考え、でもそれもあるけれど。
それと。
一番の、俺の行動原理。
唯一最上の、信念。
俺は昔から魔法少女が好きだ。
残酷な現実を知っても、魔法少女が好きだ。
彼女たちに、絶望と恐怖に引き攣った顔などさせたくない。
勇ましく気高い表情を消させたくない。
俺は君たちの思いを背負いたい。持って行きたい。継ぎたい。
だから、俺は君たちの想いを背負う。そして、魔法少女を守っていく。
俺は、魔法少女の味方だ。
俺は、魔法少女を守る。
それが、最優先のやりたいことだ。
俺は、魔法使い。
魔法少女を守る、魔法使いだ。
黙祷が終わると、俺は魔法少女たちの墓場に背を向ける。
咲実が、横に並んだ。
「お兄ちゃん」
手を握って来た。
握り返す。
二人並んで、歩き出す。
その、去り際。
後ろから、聞こえた気がした。
――ありがとう――
振り返る。
そこには、幾つもの墓石が並んでいるだけだ。
「お兄ちゃん……?」
咲実が、突然足を止めた俺を見て首を傾げる。
今の、声は――。
俺の、妄想だろうか。
わからない。
けれど、彼女たちが本当にそう言ってくれたのだとしたら。
少しでも、救われてくれているといい。
どうか、君たち魔法少女が、安らかにいられますように。
ここまで読んでくださりありがとうございます。これで一応ひとつの完結となります。二章は未定。




