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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Fallin' The Flames
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Kneel Down Ye All Others 3

「ならどうする!? ソフィアに一生誰かに狙われ続けろってのか、命を奪われる恐怖に耐え続けろってのか!?」

「それで何もかもを燃やし尽くした世界を捧げてどうするというのです! あのお方を悲しませるだけではないですか!」


 怒鳴り返したクロードは体を回転させるように、横薙ぎにされた白銀の刃を漆黒の刃で受ける。高周波の振動はお互いを拒絶するように弾き合う。それはクロードとレイアを象徴するかのようだった。


 核心を突くまでもなく、クロードはレイアの本心を理解していた。


 自分に暴力を振るった義父のような男でなく、自分を拒絶した母のような弱い女でもないソフィア。目にした暴力に怯える事のない様は気高くもあり、抱き締めれば壊れてしまいそうなほどに華奢な体は儚くもある。唇を重ねる度に心を満たしてくれ、1つ1つの言葉が庇護欲を掻き立て、それでも自分と向き合える強さを持ったソフィア。レイアはソフィアの無関心を慈愛と母性を超越した感情だと誤解したレイアは、そんな唯一の存在が欲しかっただけ。メイでもジョンでも癒せなかった自分の心を癒してくれる存在が。

 しかしこそレイアはソフィアの無関心を諦めと理解できず、島の襲撃がクロード達と知ったソフィアは感情を露わにした。


 自分の知らないソフィアをむざむざと見せ付けられたレイアは、嫉妬に駆られるままに刃を振るった。その好意がソフィアを望みから1番遠ざけるとも知らずに。


 それでも、レイアにはもう止まる事など出来ない。


 きっと、これが最初で最後なのだ。

 誰かを心から愛し、誰かに心から愛されたいと願えるのは。


「やはり、あなたでは不適格だ。あなたのような愚か者では、"彼女"の心を癒す事は出来ないでしょう」

「あァッ!?」


 苛立たしげに振るわれるレイアの斬撃をいなし、クロードはあきれ果てたとばかりに肩を竦める。

 ミカエラ・スタンネも、御巫(ミカナギ)泰明(ヤスアキ)も、楠本(クスモト)直樹(ナオキ)も、レイア・ブレームスも。結局誰もかもが同じだった。16歳の少女に勝手な価値観を押し付け、何もかもを奪っていこうとするだけの愚か者だった。

 ソフィアは状況に孤高を選ばされただけの少女であり、儚いその存在を孤独で埋め尽くそうとする愚か者達を許す事など、クロードには出来そうになかった。


 そして、3分という時が終わる。


「ダダをこねるだけのあなたでは、いたいけな女の子1人の望みも叶えられやしないって言ってるんですよ――救世主様(メサイア)?」


 嘲るように口角を歪めたクロードは、虚空を殴りつけるように無手の左拳を突き出す。コンバットスーツの袖は渇いた音を立てて新たな脅威を吐き出した。


 赤い袖から現れたのは、銀色の蛇と見まごう蛇腹剣だった。


 その切っ先にレイアは慌てて回避を試みるも、蛇腹剣は無慈悲に白銀の太刀へと巻きつき、動きを止めたレイアの鳩尾にクロードの足が突き刺さる。正確には加速を終えただけなのだが、加護と嫉妬に酔いしれていたレイアにはそこまでの考えに至る事は出来なかった。

 "Sheep Tumor"の2度目の起動までに掛かった数秒の時間、加速した肉体では人を仕留めるくらいは十分な時間なのだと。


 常軌を逸した衝撃にレイアの手からは太刀が手放され、覚醒の絶頂から情事の後を思わせる倦怠感へと変わる肉体は、岩壁に叩きつけられた激痛に上書きされていく。

 形容しがたい激痛が全身に広がっていき、口からはヒューヒューという呼吸が漏れ出す。骨の数本が折れたのか、内臓が潰れてしまったのかは分からないが、だがレイアにはもう立ち上がる事は出来そうになかった。


「……頼む、よ。あの子を、絶対に1人にしないで、くれ」

「私は執事にして従僕。あのお方が望まれるのであれば、いつまでも寄り添い続けましょう」


 歩み寄ってくる気配に懇願したレイアは返された答えに、日差しで熱くなった地面の熱を感じる顔を思わず緩めてしまう。

 思えば、何かに踊らされているような自覚はあった。誰よりも大事にしていたメイを差し置くほどに入れ込み、仲間達を守る為の戦いはその意義を変えていた。

 まるで怒りが増幅され、他の感情の全てが、ソフィアのためにあるようにすら感じるほどの錯覚さえ感じていた。


 それでも、ソフィアと出会えてからの数日は、レイアにとってのワイルドタイムだった。

 それこそ、モノクロだった世界が彩られていくような錯覚さえ覚えるほどに。


「"さようなら"。レイア、最悪のファイアウォーカー、愛しの義姉」


 だからだろうか、振り下ろされる漆黒の刃ですら、レイアが後悔すら抱させなかったのは。

 少女の幸せのためなら、その命すら安く思えてしまったのは。


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