Kneel Down Ye All Others 4
蛇腹剣をコンバットスーツから切り離したクロードは、白銀の太刀のデバイスに触れて振動刃を停止させる。途端に嘶きを鎮めた白銀の太刀はその手に馴染みすぎるほどに馴染んでおり、足元の凄惨さとは裏腹に美しかった。
赤黒い血液は枯れた大地に吸い込まれていき、飾られたアクセサリーの1つ1つは溢れ出した血で輝き、切断した見覚えのある首は穏やかな眠りについているように目を閉じている。
過去と決別するために名前を与えてくれた事は覚えている。義姉弟として過ごした時間は忘れらないものではあったが、深い思い入れがあった訳はでない。世界を相手取って戦っていた事は愚かしいとすら思えていた。
それでも、クロードが同情を禁じえないのも事実だった。
選ぶしかなかったという点において、レイアはソフィアと同じだったのだから。
ふと背後から視線を感じたクロードは反射的に、それでいて気だるげに刃を背後へと振るう。青いヴァインが描かれた白銀の刃は、甲高い金属音を立てて鉛製の殺意を切り払った。
ため息をつき、ゆっくりと背後の岩山を見れば、2mほど上の段差にサプレッサーを付けた拳銃を構えた黒人の少年が居た。
「どうして、どうして彼女を殺した!?」
怒り、恐怖、困惑。あらゆる感情に震えだした体を誤魔化すように、ジョンは声を張り上げてて更に引き金を引く。だが"Sheep Tumor"の効果を失っているというのに、クロードの両手の2振りは高速の弾丸を当然のように弾いた。
「彼女を知ってたお前なら分かっていたはずだ! 彼女が自分のために罪を犯すような人間じゃないって!」
「だとしても、レイアがソフィア様を利用しようとしていた事実は変わりません」
「当たり前だ! より強い暴力でしか彼女を、ソフィアを守れない事は、お前が1番知ってるはずだろうが!」
1発も当たらない事に苛立っているのか、ジョンの拳銃の照準がぶれ始める。
元々ジョンは参謀としてメサイアに所属していただけで、銃はただの護身用でしかない。整備はメサイアの構成員任せで、撃った事は取り扱い方を教わった時の1度だけ。クロードとの距離が比較的短いといっても、レイアのために狙撃の技術を磨き続けたメイのように上手くやれるはずもない。
「あなた方はソフィア様を理不尽な暴力で囲おうとしただけです。檻の中に閉じ込める事と守る事は違うはずですよ」
「なら一々お伺いを立てろとでも言うのか!?」
「その発想自体がソフィア様を道具扱いしていると、なぜ分からないんです」
感情のままに声を張り上げるジョンに、クロードは漆黒の太刀を握る右手を先ほどと同様に突き出して、袖から短く成型されたセラミックブレードを射出する。軽いガスの射出音と共に吐き出された刃は、拳銃を握る手に突き刺さり、ジョンは経験のない激痛に悲鳴を上げることも出来ずに崩れ落ちた。
「もう無駄な抵抗はおやめなさい。あなたの処遇を私が決める事は出来ませんが、あなたには司法取引が出来るだけ技術があるはずです。今からでも遅くありません」
クロードは2振りの刃を交差させてジョンに投降を促す。
もしジョンがレイアの遺志を継ぐのであれば、生きてファイアウォーカーの暗部を告発すればいい。そのつもりがないのであれば、全てを忘れて日常に戻ればいい。
銃もろくに扱えない少年がホテルを襲撃した狙撃手でない事は明らかであり、人を殺した事もないのであれば帰れるはずなのだ。レイアが帰りたいと望んでいた日常に。
しかし痛みに顔を歪めていたジョンは、刃が突き刺さったままの手で拳銃を強く握り締めていた。
「……結局お前も、他の頭の悪い奴らと同じだ。小さな視点でしか物を見れない、利己主義の愚か者だ。そうやって、あの子も、ソフィアも傷付けるんだ」
「待ちなさい!」
徐々に上げられていく銃口にクロードは声を張上げて両手の太刀を構える。しかし"Sheep Tumor"によるリミッター解除と、レイアという最強の敵との戦闘を遂げた体はクロードの言う事を聞かず、クロードは太刀を投擲しようとするその体制のまま固まってしまう。
甘く見ていた。ソフィアという究極のカリスマの傍らに居たせいで、レイアのカリスマ性を甘く考えていた。世界征服など馬鹿げた夢だと取り合う事もしなかった。
クロードにとってそれが優しく、正しい答えである事は間違いない。
だが、それこそがジョンに世界と敵対させた無関心でもあった。
そしてサプレッサーが付けられた銃口が、黒い肌のこめかみに押し当てられる。
「僕が死ぬ事で、世界は進歩のスピードを落とすだろう。精々苦しめ、人の痛みも分からない低脳どもが」
僅かな銃声と共に放たれた弾丸は少年の頭の中身を撒き散らし、転げ落ちた中肉中背の体が首を失った死体と寄り添うように叩き付けられる。
使命感に駆られるままに理不尽に殉じたレイア達、ソフィアの望む日常のために戦った自分達。哀れなのはどちらなのか、クロードには理解できなかった。




