Bite The Sweet Virginity 4
「ゆっくりでいい、食べれるだけでいいから食えよ」
「……やだ」
ソフィアは女が口元に運んできたサンドイッチを拒むようにそっぽを向く。いつのまにかサイドボードの皿に掛けられていたラップがはがされている事から、そのサンドイッチはトニーが用意してくれたものだとは分かる。だが見ず知らずの人間が口に運ぶものを食べられるほど、自分の価値を知っているソフィアは無警戒ではいられない。
「やだじゃねえ、見てる方が辛いんだよ。そんなんじゃアンタが心配で食事が喉も通らねえって過保護なアイツらが言い出すぞ」
「それでも、やだ」
「そう言うなって、食事中の話し相手くらいにはなってやるからさ」
女は頑固なソフィアの姿勢に女は肩を竦めて懇願するように言う。
年頃の子供の相手をした事があっても、適切な対処法を知っているわけではない。
だがソフィアの青褪めた顔は、放置しておける段階はとっくに過ぎているようだった。
「……本当に?」
「ああ、マジマジ。何でも聞きゃいい。これでもアンタより10は年上なんだ、年の功なめんなよ」
そう言って覗き込むように見詰めてくるソフィアに女は胸を撫で下ろす。
ソフィアの特別さと自身の怪しさを理解し、代わりに隣に寄り添う事を決意していたからこそ、事態の好転は喜ばしいものだった。
たとえそれが、自身の中で起きている変化と、次に投げ掛けられる質問を理解していても。
「じゃあ――ファイアウォーカーってなに?」
ほら見たことか、と女は自然と上がっていく口角に鼻を鳴らす。
誰が特別で誰がそうでないかなど考えるまでもなく、特別な存在は確かにここに存在している。
そうでなければ、女がここに訪れる事も、世界が変わる事もなかったのだから。
「ファイアウォーカーは孤児を引き取って傭兵として教育する傭兵一家。それは知ってると思うけど、引き取られる孤児には条件がある事は知ってるか? 優れた肉体を持ち、美しい顔をしている事ってだけなんだけどよ」
「顔の良さって戦場で何の意味があるの?」
「分かりやすいだろ。メチャクチャ強くて面の良い奴が居たら、ソイツがファイアウォーカーだって。もう勝ち目はねえんだって」
答えさせる気もない質問をした女は、首を傾げるソフィアの口元にグラスを運ぶ。
「受ける教育は学校で受けるようなものから、戦闘、工作、諜報とかいろいろ。そこで脱落した奴は戸籍もないまま追放される訳だけど、意味、分かるよな?」
「最低、ね」
「同感だな。選ばれた奴らは追放者か裏切り者を殺せばスピード出世、舐めきった話だと思うぜ。実力を認めさせる事で裏切り者を見逃した事を帳消しにした"どっかの誰か"も居たけどよ」
そう言ってシニカルに口元を歪める女が差し出したグラスを受け取り、ソフィアは唇を湿らせるように水に口をつける。
ファイアウォーカー自体が合法な組織とは言い難いが、戸籍の抹消も捏造は紛れもない非合法処置。掛かる費用も手間も生半可なものではないはずだがクロードのような才能と比べてしまえば、無駄な出費とは言い難い。現にリュミエールでさえ、クロードを手中に収める事が出来ていなかった。
何より、いくら強者揃いのファイアウォーカーとはいえ、クロードのような強者に裏切られてしまえばどうしようもない。
ではやはり自分を人質にクロードを、とよぎる考えをソフィアは否定する。
つい先日までのソフィアであれば、その価値もあったかもしれないが、今のソフィアとクロードの関係は主従ではなく、赤の他人。他ならないソフィアが主従関係を破棄している事を知らずに乗り込んでくるほど、ファイアウォーカーが愚かであるはずがない。
だからこそ、ソフィアは戸惑ってしまう。
"Sheep Tumor"が欲しいと言うのであれば今すぐ力ずくで連れて行けばいいだけなのだから。




