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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Fallin' The Flames
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Bite The Sweet Virginity 3

 耳鳴りがするほどに静かなベッドルーム。黒檀で作られた天蓋の下でシーツがもぞもぞと動く。

 真っ白なシルクから燃えるような赤毛がこぼれるように広がり、覗く顔は差し込む日差しを鬱陶しそうに歪められ、渇いた音が室内に響き渡る。


 思わずしてしまった舌打ちに、ベッドの住人であるソフィア・ストロムブラードは再度寝返りを打つ。

 リュミエールのプライベートジェットでアメリカに連れて来られてからというもの、ソフィアは何もする気になれずにいた。


 誰も傷付けたくないから決着をつける事にしたのに、結果として皆を傷付けてしまった。共感される事はないだろう罪悪感は、食欲すら減衰させるほどにソフィアの胸中に居座っているのだ。


 本当なら、もっと穏やかに解決したかった。

 不快感も後悔も何もかもを誤魔化すように、ソフィアは捻り折ってしまった楠本の感触が未だに残っている手を握り締める。


 母を殺したのは、"ファイアウォーカー"。


 囁かれた言葉を理解したその瞬間、ソフィアは無意識の暴力を行使してしまった。

 おそらく、楠本の心に体以上の深い傷を負わせてしまった事は理解している。だがそれ以上に、あの場を取り返しがつかないほどに乱してしまった事をソフィアは悔いていた。

 1瞬にして両腕がひしゃげた男と血まみれの少女。あまりにも凄惨なその光景はクロードを兄と呼んでいた桜井明日香は失神してしまい、その身柄と事態の収拾を静音に任せて、ソフィア達は日本から出国せざるを得なくなってしまったのだ。


 思い出せば思い出すほど、ソフィアは自嘲する事も出来ずにため息をついてしまう。

 自分の価値、"Sheep Tumor"の希少さを理解していたからこそ、ソフィアは綿密に策を弄していたつもりだった。自分自身が策を台無しにしてしまうその時まで。

 策がなってさえ居れば、静音を、ドロシーを、トニーを、そしてクロードを解放してやれるはずだったのに。

 それでもドロシーはトニーに保護させ、遅れて合流したクロードと静音は根気強く連絡を取ろうとしてくれている。いくらクロードとトニーが強いといっても、1瞬で成人男性の腕を粉砕したソフィアの暴力は悪辣なものだというのに。


 だからこそ、ソフィアはこれ以上誰にも迷惑を掛けてはいけない。

 日本滞在中、クロードの様子がおかしかった理由を他だと勘違いしてしまった主に、優秀な執事を付き合わせ続けるわけにはいかない。

 ストロムブラード、御巫、リュミエール。3つの組織の同行に意識を割き、着実に変化していっている主を抱え、イレギュラーの全てに対応していたクロード。口数が少なくなるのも当然で、手間の掛かる主の面倒など見切れるはずもない。

 静音がソフィアのために身を挺する事が出来たとしても、楠本を含めた他の御巫の人間達はそうではなかったのだから。


 全てを理解しまえばこそ、ソフィアは1人になりたかった。

 そうでもしなければ、自分が惨めでしょうがなかった。

 静音の特別は兄弟達であり、自分である訳がない。

 ドロシーにとっての友達作りに会社の意思も含まれていない訳がない。

 トニーが持って来てくれる食事でさえ、"Sheep Tumor"の延命が目的かもしれない。

 そして、誰よりも自分を見てくれたクロードを追い詰めてしまった。

 考えれば考えるほどにそんな自分が惨めで、誰1人として幸せに出来なかった自分が憎らしくてたまらない。

 失踪したままのグレナの手の平で踊る以外、自分には何も出来ないと言われているようで。


「おいおい、いつまで寝てる気だ。もう昼過ぎ通り過ぎて夕方になっちまうぞ」


 ふと、ベッドの外から掛けられたハスキーな声に、ソフィアは咄嗟にシーツを頭上まで引き上げる。

 粗雑な言葉とどこかシニカルな響きを感じさせる声色。トニーに似て非なる喋り言葉を使う人間などソフィアは知らない。

 しかしソフィアの華奢な指はやんわりとシーツから引き剥がされ、真っ白だった視界は天蓋とその存在へと移り変わる。


 レザージャケット、パーカー、デニムボトム、コンバットブーツ。何もかもを全て黒で統一した服装で凹凸のあるラインを露わにする見知らぬ存在。

 ジャケットとパーカーのジップは上まで閉められており、フードからは黒髪がこぼれだすものの、顔を窺う事は出来ない。


「顔色がわりいな。唇も乾燥して頬もこけてるっていうと、水だけは飲んでるけど何も食ってねえって事か」


 全ての指に指輪を嵌めた手で少しこけた頬を撫でるなり、女はソフィアをゆっくりと起き上がらせる。

 その拍子に若干の目眩がソフィアを襲うも、ワンピースを纏う背に回された腕は力強く、ソフィアがベッドに倒れこむ事はなく、気付けばグラスを満たす水に口をつけさせられていた。

 その優しげな強制力はどこかの誰かを思い出せるようで、ソフィアは思わず真っ白なワンピースの裾を握りこんでいた。


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