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Kissin' The Flames  作者: J.Doe
Fallin' The Flames
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Bite The Sweet Virginity 2

「そうですか。えらいごやくたいをお掛けしてしまいますが、どうかよろしゅうお願いします」


 薄暗いホテルの1室で、鈴の音のような声が転がり、電子音と共に通話が終了したスマートフォンははんなりとした動作で浅葱色の袖にしまわれる。そのディスプレイに表示されていた名前はトニー・トバイアス、ドロシー・リュミエールの護衛の女だった。


「ソフィアはんはドロシーはんとトニーはんで保護してくれはってるみたいですえ。情報が漏れる前に手を打たなあきませんな」

「……ご迷惑を、お掛けしています」


 浅葱色の和装の女――御巫(ミカナギ)静音(シズネ)は気の抜け切った返事にため息をついて振り返る。

 すっかり乱れたプラチナブロンド、アイスブルーの瞳の下で存在感を放つ隈、皺だらけのシャツとスラックス。薄汚れたソファに腰掛けるその姿に優美な執事の面影はない。

 クロード・ファイアウォーカー。最強の傭兵にして最高の執事であった男の変わり果てた様子に、静音が思うところがあるのも無理はなかった。


 日本での事件後、ドロシーはトニーに命令して、ソフィアを力ずくで保護する事を決定した。家に縛られる自分ならともかく、最悪リュミエール・インクをやめる決意をしてくれたトニーなら、社の意向を跳ね除けられる事も可能だと判断したのだ。

 そしてトニーはリュミエール家が所有する別荘の1つにソフィアと住まい、ドロシーは"Sheep Tumor"を手に入れろと勝手な事ばかりを主張する幹部や株主と直接対決を試みていた。ソフィアの保護はあくまで実質的な保護者2人(クロードとシズネ)の許可を得ただけの強攻策であり、僅かに残った信頼が崩れてしまえば今度こそ取り返しのつかないことになってしまう。


 現に、ソフィアはクロードと静音との面会を拒否しているのだから。


「構いまへん。ソフィアはんがかいらしゅうのはうちも同じやさかい――それにしても、妬けてまいますなぁ」


 立て続けに送られてきたドロシーとトニーからのメールを思い出した静音は、口元を浅葱色の袖で隠してクスリと笑みをこぼす。

 ソフィアの好きな食べ物は何か。宗教とかの理由で食べれないものはあるか。どうしたらニンジンも食べてくれるか。

 文面だけ見ればソフィアが食事を摂ってくれないと言う事でもあり、ワガママな妹に振り回される姉達のようでもある。どこか微笑ましくあるメールでさえ、静音は心配と嫉妬が先行していた。

 それこそ、彼女のした事さえ些細に思えるほどに。

 弟や妹に向けたものと同じ愛情を抱いているとは言い切れないが、それでも心からソフィアを想っていたのは事実だ。心配で胸が張り裂けそうで、"甘いものが好きだ"とメールを打つ事しか出来ない自分が悔しくてたまらないのも事実だ。


 だからだろうか。思わず吐き捨てた言葉に、その声色には似合わない棘があったのは。


「せやから、いい加減教えてくれはりませんか。"Sheep Tumor"の本来の使い方を、グレナはんの本当の目的を」


 ゆっくりと顔を上げるクロードに、静音は作り笑いすら浮かべずに見詰め返す。

 少し前までは見詰め合うだけで高鳴っていた鼓動も、もはやソフィアと離れてしまった事によって生まれた焦燥を駆り立てるだけ。

 決してクロードに対して失望した訳ではないが、それ以上にソフィアが心配でならないのだ。冷静な対応を取れているのも、それがソフィアの為だと理解できているからこそ。


 何かが変わりつつある自身に気付きもせずに。


 だがその静音の変化すら掻き消すように、状況は大きな変化を迎える。

 追求するようにクロードに向けられていた静音の瞳は窓の外に小さな光を捉え、跳ね上がるように飛び出したクロードが静音を窓から離すように突き飛ばしたその瞬間、圧倒的な熱量と爆音がホテルの1室を吹き飛ばした。


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