60弾 この買取は拒否しよう
「うーん、ここのところ、ニシキ様に向いた依頼はないですね。」
セイクさんが申し訳なさそうに、俺に告げる。
「しかし、商業ランクが3級になったとはいえ、ここまで依頼がないとは。」
「あえて、上位ランク用の依頼もあればいいのですが、今のところなくて。」
「商業ギルドの工事現場手伝いみたいなものは。」
「これも今は。しばらくお休みしていただいても十分かと。この組合本部に対する貢献度は高いですので。それに、商業ランクが3級になりましたので、そろそろ、家を探してみるのも有りかと思います。」
商業ランク、冒険者ランクともに3級になると、寮を出ることができる。組合本部付きではなくなるのだ。家を買うか借りるかの問題に結論を出す必要が出てくる。しかし、街の景気はいいのだが、そのために街への移住者が増えて、住まいが払底してしまい、冒険者向けの住まいは買うのも借りるのも今ない。
「それは、組合本部で斡旋してくれればいいのですが。」
「申し訳ございません。ここまで住まいが少なくなるとは。今の段階で斡旋できる物件がなくて、しばらくは、組合本部付きの寮に住んでいただくことも、やむを得ないかと。」
「でも、支払額は変わる契約になるのですよね。両方のランクが3級になると。」
「そうなのです。そこは了承いただくことになりますが。」
そうやり取りしているところへ、低い声が響く。
「話し中、申し訳ないが、貴公がニシキ・ダン殿か?」
「ニシキ・ダンは私ですが。」
話し中にいきなり背後から声をかけるとは、ずいぶんだな。振り返って、声の主を見ると、太って腹の出た、商人みたいな格好をした男だった。ずいぶん金ピカが好きな奴だな、どこぞの成金紳士のような感じがある。
「ここなら会えると思っていましたよ。」
「依頼受付で話をしている真っ最中、なのですが。」
「そうでしたか。では、一旦失礼しますか。」
その男はそう言って、一旦俺から離れる。
「よろしければ、先にあの方と話されてもいいですよ。多分、ニシキ様に直接、鉱山関係で話をしたいのでは。」
そう言って、セイクさんは気遣ってくれた。
「わかりました。では、お言葉に甘えて、一旦失礼します。」
そう言って受付を離れる。
するとその男が、すっと俺のところにやって来て、組合本部のロビーの一席に俺たちを誘った。
「さて、ニシキ様、私は姓はアンチージョ、名はリージーと申します。ファチオア商店の副商店主、兼ねてファチオア家執事長をしております。いきなりで失礼します。そこのグランドキャットを、当方にお売りいただきたいのです。我が商店主のファチオア・ディビヤが、絶対に欲しいと所望しておりまして。」
本当にいきなりだな。そう思いながらも、まるで洋梨のような下膨れした顔を、無言でじっと見つめる。
このアンチージョさん、俺の視線を受け流してメムに目をやると、こう言ってきた。
「いかがでしょう、金額は3億クレジット、これが手前どもの誠意でございます。」
なるほど、大金で言わせるタイプか。
「お断りいたします。俺の相棒をそんな金で売れる訳はないですね。」
俺が、断りを告げると、
「わかりました。じゃあ5億クレジット、これ以上は無理でございます。」
と抜かしてきやがった。
「いくら金を積まれても、相棒は金じゃないので。お引き取り下さい。」
もうハナから決裂だな、そう思って言い放った。
「ふむ、今回は引き上げるとしましょう。当方は、また交渉させていただきます。」
そう言い捨てて去っていった。
(ずいぶん、舐めたやつね。)
メムが念話術で、ものすごい不満を表明する。
(でも、さすが私の相棒ね。まあ頑張って交渉潰してね。)
(メム様、その余計な一言が………。あの商人と付き合うのは俺なんですけど。)
少し、メムを落ち着かせてから、受付に戻り、セイクさんと話をする。そこへ、イサドさんもやって来た。
「ニシキ様、今さっき話されていたのは。」
イサドさんが尋ねてくる。
「確か、アンチージョ・リージーとか言いましたね。ファチオア商店の副商店長、兼、ファチオア家の執事長とか。」
「ふむ、やはりあの男が。ついにというか、やはりというか、ファチオア商店がここまで来ましたか。で、あなたに何の話をしに来たのか、差し支えなければ教えてくださっても。」
「このメムを、グランドキャットを売ってくれと。5億クレジットで。」
俺が、そう言って話の内容を教えると、
「え、5億クレジット。」
とイサドさん。
「え、メムちゃんを買うですと。」
と、セイクさん。
二人してリアクションがすごく違うなあ。とはいえ、
「イサドさん、ファチオア商店がやはり来た、と言いましたが、何かファチオア商店についてご存じなのですか?」
まずはメムを買おうとする、その商店について情報が欲しくて、イサドさんに聞いてみる。
イサドさんは、渋い顔をして沈黙する。しかし、意を決したかのようにこう言う。
「商業ギルド長とも話するか。セイクさん、ニシキ様をお借りしますよ。ニシキ様、こちらへどうぞ。」
そう言って、俺たちを再び商業ギルド長の部屋へと連れて行った。
部屋の前でしばらく待つように、イサドさんに言われて、待機していたが、
「どうぞ、入ってくれ。」
と、ブーファロさんの声がして、部屋に入る。
部屋に入ると、早速ソファーを勧められて、前回の懇談時と同じ状態で、話が始まる。
「このイサドから話は聞いた。ファチオア商店と接触したのかね。」
「はい、このグランドキャット、メムを売ってくれと。」
「ふーむ、いきなり相当な金額を言って来たのじゃないかね。」
「はい、その通りだと思います。最初は3億クレジット、一回断ると5億クレジットを示してきました。ただ、メムは俺の相棒なので、はっきり断りました。また交渉するとは言って去っていきました。」
「やはりそうか。あの白粉石の鉱山を見に来て、その際に君に声をかけたのだろう。」
ふーん、しかし、なぜ商業ギルド長はなぜ、そんな話を俺にするのだろうか。
「実は、ニシキ様に声をかけてきた、ファチオア商店、あの商店には何か裏があるようなのです。そのために、ニシキ様をこの部屋までお連れした次第です。」
とイサドさんが、事情を説明してくれる。
「ファチオア商店ってそんなにヤバい商店なのですか?」
俺が質問する。
「一言でいうと……………資金の怪物だ。」
商業ギルド長が、無表情になり、そう答える。それを継いで、イサドさんが話をする。
「ファチオア商店、武具商店です。最近コシチューク国で創立した商店です。特に防具を商売にしているのですが、数々の武具屋などの買収を繰り返して、急成長してきました。」
「何かヒット商品でもあるのですか、そのファチオア商店は?。」
「いや、とにかく安いのです。あと鎧に店の名や他の商店名を入れて、名を入れた商店から広報料として金を回収しています。一般的に売られている防具の、約3分の2くらいの値段で売られています。」
へえ、コマーシャル付きにして鎧や防具を安くするということか。
イサドさんが話を続ける。
「しかし、裏では荒っぽいやり方が行われているようでして、買収に応じなければ、裏で暴力、謀略、脅迫等が。また、働いている者にも過重労働、給与のピンハネや中抜き、犯罪行為への加担の強制も。さらに、防具の質には粗悪なものも混じっていまして。」
商業ギルド長は、その話を受けて、
「さっき、資金の怪物と言ったが、買収資金の流れが見えないのだ。商店などを買収するにしても、それなりの資金が必要だ。資金の原資が何かが全く不明なのだ。多分、ファチオア商店は、金と荒事で、商店内及び買収した他商店などを、コントロールしているのだろうがね。」
「ここで、そういう話を俺にするということは、ファチオア商店に用心されたし、ということですね。」
「併せて、ニシキ様に、今後ファチオア商店の情報等があれば、こちらにも流して欲しいのです。」
とイサドさんが、頭を下げてお願いしてくる。
「君が会ったアンチージョ・リージー、ファチオア商店の副商店長、兼、ファチオア家の執事長。彼は、実は裏の実行部隊の長とも噂されている。しかも、ファチオア商店の商店主のファチオア・ディビヤ、名前だけで正体が不明なのだ。あまり表舞台にも出てこないのだ。それは息子のファチオア・ワジューカもそうなのだ。それゆえにこちらとしては、身構えざるを得ない。」
商業ギルド長が険しい顔で、説明してくれる。




