58弾 三方よしで交渉しよう
初回交渉の前日、セイクさんと、イサドさんに呼ばれて、交渉の日程についてと交渉前の意見確認を行う。
「交渉は明日からと連絡がありました。商会側も結構早く動いていますね。」
とセイクさん。
「ニシキ様、多分、分割払いによる買取か、長期の借用のどちらかになるとは思っています。商売上スタンダードなのは、長期の借用による採掘権の契約でしょう。後は、あちらが、いくらぐらい提示するかでしょう。」
と、イサドさんが予想を披露する。
「俺としては、それ以外の条件を提示したいですね。」
「え。」
「え。」
組合本部の二人が同時に驚きの声を上げる。
「採掘権はそのまま無料で譲って、あの白粉石の売上利益の何パーセントかを払ってもらう、ということを考えています。採掘権と利益の配当を取り替えるような感じですが。」
俺がその考えを示してみると
「ふーむ、明日の交渉で提案してみますか。」
イサドさんは乗ってきた。
翌々日から交渉が開始された。
初回の交渉では、テタミク商会が、採掘権について買い取った場合の額を提示してきた。俺は言葉を失った。合計15億クレジット、俺の取り分が3億クレジットになる。商会側としても一括では支払えないので、10年の分割払いとなる。俺の一年間の取り分が3千万クレジット。
次に採掘権を借用する場合、30年契約で、25年後に契約の見直しか更新、借用料として、合計1年間5千万クレジットを組合本部と俺に支払う。俺の一年間の取り分が1千万クレジット。
商売上、スタンダードなのは借用による長期契約である、と商会側の説明も受けた。
それを受けて、俺が組合で前日に話した、採掘権を無料にする代わりに、ここから出た白粉石の売上利益の何パーセントかを配当として受け取る、という提案を示してみたら、相手側はびっくりして、商会に持ち帰り検討するということになった。
「しかし、いいのですか。採掘権をタダにするなんて。何か勿体無い気もしますが。」
相手側が去った後、セイクさんが首を傾げながら、俺に尋ねる。
「採掘権に回さないことで、初期投資の負担を軽減して、採掘準備をして操業してもらい、なるべく早く採算が取れるようになればいいのかな、と考えていまして。ただで採掘権を渡す代わりにといったところですかね。」
と俺が答えると、
「あっ、もしかして………。」
イサドさんは俺が別に考えていることに気付いたようであった。
「ええ、イサドさんの察した通りです。そうすれば、こちらの街での仕事も増える。雇われる人も増える。その効果が早い目に出るかなと思って。昨日も言っていたことなのですが、その効果で、治安の悪化や物価の上昇も出てくるでしょうが、早めに手を打って、この街の景気上昇につなげたい、ということです。」
「なるほどです。警備隊員の増強とかなら、こちらからでも警備隊にお話しして、あらかじめ進めましょう。物価の上昇対策も、市場の動向を見ながら進められますね。」
イサドさんが納得した表情で、次の手を考えて言ってくれる。
「あとは、商会側にこの案の利点が見えれば、乗ってくるでしょう。」
俺は、半ば期待するように言う。
この翌日の交渉で、商会側は
「昨日、そちら側の出された提案、是非それで行かせて下さい。ここから出た白粉石の売り上げ利益の20パーセントをそちらに支払う形でお願いします。」
と言ってきた。
ということで、交渉はとんとん拍子で進む。
俺が、追加条件として労働環境の向上と過重労働の禁止、周辺への粉じんや騒音など公害防止の対策をお願いしたところ、商会側は、
「もちろんです。しかし、冒険者の方が労働環境や、周辺への環境配慮を言ってくるなんて、実に珍しい。」
とは言われてしまった。
交渉の結果、無事に契約にまで進み、俺と組合本部との交渉もあって、俺の取り分が、白粉石の売上利益の5パーセントとなり、組合側が同じく15パーセントを受け取ることになった。あとは、商会側が周辺への環境配慮や、労働環境向上の実施の話も盛り込まれた契約になった。
「いいの、あの契約で。あの場所から出る白粉石の売上利益の5パーセントなんて。少なすぎやしないの。」
契約を終えて、寮の部屋に戻ったら、メムが契約について、少し不満げな表情を見せる。まあ、採掘権をただで譲ったように見えるからね。
「いいのですよ、メム様。我々は、ずっとあの洞窟から白粉石が採掘され尽くすまで、この異世界にいるわけじゃないし、そのつもりもないでしょ。」
「ああ、そうね。そう言われてみれば。でも、大金が一気に手に入った方がいいのじゃないの。」
「そうすると、かえって目立ってしまう可能性が大きくなりますよ。目立ちすぎると、動きがしにくくなりますし。」
「少しずつ配当をもらっていくのが、目立たなくていい、と言うことね。」
メムは納得したようだった。
「それに、この配当受領の権利は、この異世界から離れる直前に、誰かに譲ることも可能なようにしていますから。」
「そうね、元の世界に戻るのが最大目的だものね。私もたまにその目的を忘れてしまうわ。」
「あの………メム様、女神様がそれを忘れては………。」
こうして、フレイムウォルフ退治から始まったお宝探しは、旧街近傍の洞穴から出た白粉石の利益の5パーセントが、俺の配当となったことで収束した。
タテミク商会は採掘のための準備を進め、1ヶ月後には操業を開始した。その1ヶ月後には、
「配当が出ます。いい売り上げですので利益もかなり期待できます。」
との連絡が来た。
最初の配当額は………1ヶ月分50万クレジット、だった。
その配当額を見たメムは、狂喜乱舞した。
俺は、驚きのあまり、腰が抜けてしまった。
「何、ダンはそんな額で腰が抜けるの。もっと泰然としなさいよ。」
「メム様、これ………、今後は増える可能性が………大とのことです。」
「え、じゃあ今後は、この額より増えると言うことなの。いやっほう、この街の高級食材全部持ってこーい。食い尽くしてやるわ。」
「あのう、こうなると税金の方も考えなくてはならないのですが。」
「何いぃー、この異世界にも税金じゃとー、異世界にきた女神になんて仕打ちじゃー。」
メム様が、何かなき戦いのように吠えだす。
「税金払うのは俺だけなんですが………」
やっぱあの時、あの箱を持っていったのは失敗だったかなあ。なお、宝の地図と暗号文を作った人物は一体誰なのか、調査してもらったが、結局不明のままであった。
「ねえ、もうちょっと贅沢をしても、いいのじゃないのー。」
寮の部屋でメムが俺に絡んでくる。
「いえ、あまり目立ったことはしない方がよろしいか、と思います。メム様、あまり派手に散財すると、ものすごく目立って、色々と探られたくない腹を探られるのは、こちらとしては好ましくないかと。それに、この実入りがいい状態は、一種のバブルです。バブルというのは、すぐに尽きるかもしれませんので。」
「でも、こんなに収入が増加するとはね。ダン、あなた偉い。」
メムはなんだかんだ言いながら、ご満悦である。
この異世界で白粉石の鉱脈を見つけた。そして、その結果得た採掘権の一部を、俺を建築資材を扱う商会に譲り、その代わりにその鉱脈からの売上利益の5パーセントを配当として、もらえることになった。
上質の鉱脈のためか、評判も売り上げも上昇中、最初の配当額は50万クレジット、その後は配当額も増え、月平均70万クレジット………怖くて使いづらい。税金で持ってかれる分はあるにしても、それでも60万クレジット。鉱山の操業も順調で、この街も好景気にわいている。
まあ、平たくいうと、金持ちになりました、ってことか。でも、ランクはまだ上がらず、冒険者ランクも商業ランクも2級のままなので、次のランクアップを目指して、各種依頼を行なうことには変わらなかった。




