212弾 この訓練用防具どうだろう
「まあ元々、試作された装備品、防具だったそうですけど。」
なぜか添付されている取扱説明書を見ながらヘルバティアが呟く。
「完璧に攻撃の衝撃から身を守る目的で作られたそうですが……、ただ立っているだけでほとんど動けないので失敗作だということで使われなかったそうです。あと重いので気をつけろと説明書にはそう書いていますね。」
ミアンがミヤンと一緒にヘルバティアの横から説明書を覗き込みながら俺に教えてくれる。
だから使う人がいないのかもしれないな、これ。
「まあ、これなら特訓に使えるということで貸してくれたのですね。」
俺は前向きに考えようとしてそう言ってみる。
「……では、私たちはこれから特訓に行きますので。」
ヘルバティアがそう言って、双子妹を促してロッジを出ていく。
「じゃあ、メム様。場所を探しましょうか……。」
俺はメムへ声をかけてロッジ近くで適当な場所を探すことにする。
「じゃあこの辺にしますか。」
「そうね、ダンの体力も考えなくちゃいけないものね。」
そう会話して、メムをその場に残して不動の受防具うけぼうぐを運んでくると、少し手間取りながらもそれを装着する。
ロッジから10マータルほど離れた庭の端っこでメムの特訓を開始する。
「じゃあ、メム様、俺の体めがけて爪斬撃をしてみて下さい。」
そうメムに声をかけてしっかり構える。まるで相撲の関取が稽古で構えるように腰を少し落として攻撃を胸で受け止める格好である。
「わかったわよ、じゃ。」
メムがそう言って右前足から爪を出して振りかぶり、袈裟懸けに爪で切り付ける。
「ウゥッ。」
ズンとくる音は体で感じるが、衝撃が拡散していくような感じである。
「ふぅー。」
「ダン、大丈夫なの?。」
「ええ、ではもう一丁行きましょう。」
「じゃ、もう一丁。」
メムがそう言って今度は左前足から爪を出して振りかぶり、袈裟懸けに爪で切り付ける。
さっきと同様にズンと衝撃と音を感じるが、俺にダメージは全くと言って良いほどない。
「ふん。」
「大丈夫、なのよね?。」
「ええ、大丈夫です。」
「しかし、すごい防具ね。防具に傷一つついていない。これを実戦に持っていくのはアリなのじゃないかしら。ダンが装着して。」
「すみません、それは無理です。全くスムーズに歩くことができませんし、ましてや走れません。本当にこれを装着した人はただのサンドバックになってしまいます。」
多分殴られっぱなしになってしまって精神的にキツくなるだろうな。
「じゃあ、思いっきり攻撃してみるわよ。」
「ええ、やって下さい。」
今度は左腕部目掛けて噛みつき攻撃、ガスッと音がして噛んだ感触の圧力がかかるが、腕に痛みも何もない。
「うーん、歯ごたえはあるわね。じゃ頭突きを試すわよ。」
メムはそう言って後退して助走距離をとり、一気にダッシュして腹部へ頭突き攻撃。
ドシッと音がして少し腹部に衝撃は感じるが、全く痛みもダメージもない。
「当たった瞬間にインパクトがうまく逃げていく感じね。」
メムが首を回しながらそう言ってくる。
「メム様は大丈夫ですか。」
「ええ、これなら思いっきり特訓できそうね。」
「そうですか、それはよかったです。では、メム様としての必殺技を頭突き、爪斬撃、噛みつきの各技を連続して組み合わせる、という方向から開発してみますか。」
「そうなるわね、だとしたら、……やはり各技の威力を上げて、あらどうしたの、ダン。」
メムは俺が体をモジモジさせ出したことに気がつく。
そう、この不動の受防具あまり隙間がなく、使ってみて気付いた蒸れやすさ。おまけに装着したままだと、手で蒸れてかゆくなってきたところをかいてみようとしても……。
「ち、ちょっと失礼。」
慌てて装着を外し、ポリポリとかゆいところをあちこちかいていく羽目になる。
「うー、あうー………、はあー、かゆかった……。」
「ダン、私もこんな格好でも女神だから、せめてそんな私の目の届かないところでかいてくれないかしら……。」
しかし、これを使いこなすには、………どうしようか。メムの困ったような声を聞きながら考えてしまう。
持ってきたタオルで体を拭き、不動の受防具うけぼうぐの内部もしっかり拭いておく。
急いで一旦ロッジに戻って、予備のタオルを持ってくると、
「ちょっと待ってくださいね、メム様。」
俺はそう言いながら再度装着して、
「うーん、……これは難題ね。」
メムがそう呟くのを聞きながら
「さあ、再度やってみますか。」
と俺が言って構えると、
「じゃあ、いくわよ。」
そう言って技を繰り出す。
しばらくそうやって技を繰り出すこと6回、その後蒸れてかゆくなって装着を外し、体をぬぐい、また装着して、技を繰り出しすこと6回、さらにまた蒸れてかゆくなって装着を外し、体をぬぐい、防具の内部を拭いて、装着して技を繰り出すこと6回、
「すみません、メム様。ロッジに戻りましょう。」
俺の体力が尽きてしまいそうになってくる。
「いいわよ、もうすぐ昼食の時間だしね。」
メムも不満気ながら了解してくれる。
昼まであと30分くらいのところでロッジに戻って居間の椅子に座る。
「ふぅー、かなり疲れてしまいました……。」
「まあ、特訓になったようなならなかったような感じね。で、ダンはこれを使い続けるの?、疲労度向上寄与の訓練用防具。」
「疲労度向上寄与とは言い得て妙ですね。で、比較してということになるのですが、この防具に技を繰り出して攻撃して特訓するのと、木や人形に技を繰り出して攻撃して特訓するのとではどっちがいいですか。」
「特訓の実感があるのは防具の方ね。実戦の勘も磨かれるような気がするわ。ただ、ダンがそれを上手に使いこなしてくれるともっといいのだけど……。」
「そうですね、正面からメム様の技を見ながら受けれるのはいいのですが、やり方を考えないといけないでしょうね。ところで、実際に技を受けてみて思ったのですが、最初、俺は頭突きから爪斬撃そして噛みつきの連続技を必殺技として考えて話しをしてみましたが、メム様自身はどうですか。」
メムが考え込んで少し沈黙する。
「……技をこれって最初っから決めつけるより、頭突き、噛みつき、左右の爪斬撃を本能で組み合わせる方が私の性に合ってる気はするのよねえ……。」
沈黙を破り、首を左右に振りながらそう言い出す。
「じゃあ、今この時点では、連続技を必殺技にすることには何も問題はないのですね。」
「まあ、最初の必殺技の開発はこんなものなのかなと。」
そう言いながらメムが俺の顔を見て続ける。
「でも、ダンがあの防具を使いこなした上で特訓できるようにしたいわね。途中でかゆくなって外して体をぬぐうたびに集中力が削がれる感じが……。」
うん、こればっかりはどうしようもできないしなあ、でもだったら、
「思い切って、回数を決め打ちしますか。俺の装着した状態で5回、全力集中して連続技で攻撃してもらう。そのあと、一旦休憩と俺の体のコンディションを整える。それで特訓をしていくのはどうでしょうかね。」
そう言って俺はメモ紙を持ってきて机に特訓メニューを書いていく。メムが俺の後ろから覗き込む。
『装着→特訓、攻撃→外す、休憩→装着→特訓、攻撃→外す、休憩 でループさせてみる。』
「どのくらい休憩と特訓の時間のバランスを取るかよね、休憩が長すぎるとね……。」
そこへドアがノックされて、ガーワンバーさんが現れる。
「ニシキ様ですね。昼食です。こちらに置いておきます。でどうです、訓練用の不動の受防具の使い心地はどうですか、何せこういう使い方をされる方は初めてなのであとで感想とか聞かせて下さい。」
「……あ、わかりました。というか今まで使ってみて言えるのですが、かなり蒸れますので、体がかゆくなります。長時間はつけてられないですね。」
「ああ、やっぱりそうですか。まあ試作品として一度開発されて使用されたら、いろいろ欠点がありすぎて使われなくなっていたものなので……。」
まあ確かに実戦投入しても、歩きにくい、走れない、蒸れてかゆくなる、だとなあ……。
「実戦投入されたのですか、この試作品は。」
俺はふと思ってガーワンバーさんに聞いてみる。
「最初に野獣退治で投入されたのですが、攻撃は完璧に効かなかったのですが、動きにくいのと装着した者が蒸れとかゆみに苦しんでしまい、その装着者が戦闘中に外して逃げてしまってそれで欠陥は判明しましたが。」
製作前の段階で気づかなかったのかどうなのか……。




