206弾 アドバイスとかしてみよう?
「明日からは各自で特訓メニューを考えて、その考えたメニューで特訓してください。10日間はその予定になります。」
夕食直前に、格差のついている夕食を給仕して俺とメムに行き渡ったのを確認し終えてから、トレガーマさんはそう言って、ガーワンバーさんと一緒にロッジを去っていく。
この状態での夕食は俺の精神をえぐるなあ………、食事に手がつけられない気分である。その傍らでメムが美味しそうに夕食をぱくついている。それだけになおさら食事に手がつけられない。俺は意を決して、
「あのー、皆さんもどうぞ……。俺は、今のこの空気の中で食事できるほど図太くはありませんし、いやむしろ、かえって食欲が落ちるというもので……。」
半ば怯えながら3姉妹に勧める。
「……良いのですか、ニシキさん。」
ミアンが少しおどおどした反応を示す。
「なになにー、ダンってそんなナイーブなの、良いわよ、私が食べてあ・げ・る。」
全く空気を読んでくれない元女神猫が舌なめずりをしながら言い出してくる。
「メム様、少しは空気を読んでください。本当にもう、何するんです。食い意地を張りすぎないという崇高な目標はどこに行ったのですか。」
「目標は状況によりけりよ、今は負けたものへ無用の情けは不要よ。」
「そう言いながら自分の悪行を正当化しないでください。ああもう。ヘルバティアさん、ミアンさん、ミヤンさん、取りたい物を取ってください。このメムのも一緒にとっていいですから。」
メムを抱きかかえるように抑えながら3姉妹にそう言うと、メムも抵抗して、食事の席で激しい組み手争いが始まる。
「ふん、このグランドキャットの体の柔軟性をダンに教え込んでやるわよ。食い物の恨みは恐ろしいのよ。」
「ふん、この食事は俺のものですから、3姉妹らにあげてもいいんです。俺のものは俺のものです、当たり前のことですからね。」
「何言ってるのよ、私のものは私のもの、ダンのものは一部私のもの、それが定理というものよ。」
「そんな定理、誰がどこで証明したのですか。」
「今私がここで証明したのよ。」
組み手争いから低レベルな口喧嘩に成り下がっていく。
「まあまあ、じゃあみんなで分け合いましょう。夕食はみんなで分け合いましょう、メムちゃん、ダンさんそれでいいでしょう。」
見かねたヘルバティアが俺とメムに向けて妥協案を示してきた。
「じゃあそうしましょう、俺は全く問題ないですよ。この意思薄弱な自分の宣言したことをすぐに撤回するようなメム様とは違いますから。」
「ムキー、一方的なものの見方ね、そんな器の小さい女神じゃないわよ。みんなで景気よく分け合いなさい。」
俺とメムは妙な意地の張り合いになってしまうが、結局は4人と一匹で分け合って夕食とすることになる。
「しかし、いいのかなあ、こんなことをして。ハンデの意味がないのじゃ。」
ミヤンが心配気にそう言うが、
「初日、今回と審判役の方々、食事の監視はしていないのですから。分け合って食事したらダメとも言ってないですし。」
そう俺が言うと、
「あっ、……そうか……。そう言われれば、その通りだ。」
ミヤンがそう言い、みんなも納得をするのだった。
「では、……ニシキさん、メムちゃん、ゴチになりまーす。」
「ありがとうございます。」
「では、いただきます。」
俺とメムの豪華な夕食を皆で分け合って、冷え冷えした3姉妹の視線とその周りを覆っていた空気が一挙に和らぐ。
ふぅ、よかったぁ。先程のような冷え切った空気と視線の中での食事なんて精神がどうにかなりうだからなあ。
「でもさあ、やっぱり私は何か問題があるのかなあ。ニシキさんにあんないいようにされ続けて、結果的に弱点になってしまったようなものだものなあ。ニシキさんはどう思っているの。私のこと。」
パオニスをかじりながらミヤンがそう聞いてくる。
「……え、ミヤンはまさかこのダンに何か思うところがあるの。そんな聞き方したら、ダンとしては結婚するかしないかの答えしか、イデっ。」
メムが変に曲解して言ってくるのを全部言い終える前に、俺はメムの頭を拳骨ではたいて止めることになる。
「…まあ、メンタルの問題でしょう。戦闘で気持ちが入ることはあるでしょうけど、冷静さを失わないことですね。今メムにああ言われて動揺するようじゃ、まだ冷静さに欠けるのじゃないでしょうか。目的を優先して変な感情移入をしないことです。」
俺がそう言うと、顔を赤らめたミヤンが深呼吸して落ち着きを取り戻そうとする。
「まあ、ミヤンの今の聞き方だと確かに誤解が生まれそうですが。」
ミアンがミヤンを刺すような目で見ながら呟く。ミヤンがミアンに向いて両手を合わせて合掌しながら無言で頭を下げる。
「じゃあ、ニシキさんとメムちゃんに聞きたいのだけど、私たちの戦い方に何か問題はあったのかしら、それも大きな問題は。」
ヘルバティアがそう言って俺とメムに問題点の指摘をお願いしてくる。
俺とメムは互いに顔を見合わせて、同じように左に首を傾げながら
「「うーん………。」」
ハモりながらうめいてしまう。
食事しながらメモするなんてどうかだが、答えてあげることができればいいからなあ。そう思いながら、俺は食事をかたわらに置いてメモに書き書きする。
「多分、多分になるのですが……、何かまだこういうことでの連携が、3姉妹の連携がまだうまく取れていないのじゃないかという気はしますね。」
「そうね、今回の特訓の時にダンとも話し合っていたけど、最初に逃げ切るという方針を決めたのよね。その上でどうするかを考えて行動していたのだけど、3姉妹でそういう話を最初にしたのかなあとは思ったわ。」
俺とメムの話に、3姉妹の表情は思い当たる節があるのか、納得の表情をする。
「確かに先程の反省会でも言われていたことの原因かもしれませんね。ただ追いかけて捕まえる方針だけで、遭遇した時や見つからなかった時にどうするかをしっかり打ち合わせせずに、のろしの上がった先へ向かってしまったわね。」
ヘルバティアが険しい表情で反省の弁を述べる。
「そうですね、あの特別直轄依頼の時はニシキさんが色々言ってくれていたけど、そう言いながら方針を決めていたように思えるし、私たち3姉妹はそれにのっかっていただけだったから、こうなっているのかもしれないわね。」
ミアンもため息をつきながらそう述べる。
「……うーん、あと、ふと俺は思ってたのですが、今のその3姉妹でのコンビネーション、裏ギルドで依頼をこなすために得た戦い方なのですか?。ご両親がいた時は別の戦い方だったような気がするのです。どうもそのシーフ、盗賊や暗殺者のような形で戦っているのとは別のスタイルもあるように俺は思うのですが。」
「ああ、だから3姉妹で行動して戦う時、ミヤンの行動がおかしく見えるのね。ダンも意外と目の付け所が鋭いわね。」
俺がそう言うとメムも思い当たるところがあったのか、俺の話に同意を示す。
「そう言われると、……そうだけど。よく分かりましたね。ニシキさん、メムちゃん。」
ミヤンが意外だという表情をしながら正解を認める。
「多分、ご両親がいなくなったことで、こういう戦い方を身につけたというのもある意味天才的ですが、ご両親のいる時は弓とか魔術をもっと使っていたのではないでしょうか。」
俺が再度指摘する。
「そうね、もう一度戦い方を見直してみるのも手なのね。」
そう言ってヘルバティアが何か決心したような表情になる。
「ねえ、ダン。今のこの3姉妹の戦い方、盗賊や暗殺者のような戦い方を捨てることになるのかしら。」
メムが俺に聞いてくる。
「決めるのはヘルバティアたちですが、……俺は戦い方を使い分けるのもアリじゃないかとは思いますが……。」
俺はそう言いながら少し考えつつ、ふと気づきパチンと両手を打って、
「ああ、皆さん、それより今は食事を終わらせますか。」
と言いパオニスをかじった。




