199弾 次のメニューは何だろう
「くぅー、来るわね、この痛み。この痛みを超えてこそ、ググググググ。」
翌朝、メムは自身の予想した通り、筋肉痛に苦しみながら動き回る。
「大丈夫ですか、メム様。」
「こんな痛みは、うう、根性で、ど根性で乗り越えてやるのよ。血の汗流せ涙を拭くなということわざもあるからね。」
俺の心配をよそに、気合いを入れてなかなかの精神力を見せる。あと血の汗流せくんだりのことわざはなかったと思うのだが……。
居間に行き皆と携帯食糧で朝食を取る。成績上位の優遇はどうやら特訓終了後の夕食だけのようだ。とはいえ、ここの空気がトゲトゲしいな。会話がない状態でもあるし……。
メムもさすがに空気を読んでいるのか、無言で朝飯を食べている。
朝食を終えて身支度を整えていると、ドアがノックされて昨日に続き、再びガーワンバーさんとトレガーマさんがやってくる。
「「おはようございます。」」
2人がそろって挨拶をする。
「おはようございます。」
俺が挨拶を返す。
「「「…おはようございます。」」」
遅れて3姉妹が挨拶を返すが、少しどんより重たい感じである。
「さて、まず昨日の結果により、ミヤン・チャティーア様にハンデをつけることになります。」
ガーワンバーさんがそう言って、トレガーマさんがミヤンの足首に何かつけさせる。
あれってアンクルウェイトみたいだが……、重たそうだな。
「ミヤン様には最下位のハンデとして、特殊環状重具をつけてこれからの特訓に参加してもらいます。頑張ってこれが外せるようにして下さい。」
トレガーマさんがそう言いながらミヤンの足首についたその特殊環状重具に鍵をかける。なるほど重しがついたままで特訓することになるのか……。鍵がないと自分からは外せない。
「この重具はこちらの方で着脱の管理をしますので。」
鍵をしまったトレガーマさんがミヤンにトドメをさすようにそう宣告する。
「では、本日と明日の特訓は、…………追いかけっこです。」
ガーワンバーさんがそう宣言する。別にそんなタメて言うことはないような気がするが……。
「ただの追いかけっこではありません。子供の遊びのように思うかもしれませんが、それはこの特訓所ならではの一味も二味も違う追いかけっこ、そう、それが、『キャッチミーイフユーキャン』という名に変わってただの追いかけっこじゃなくなります。」
続けてガーワンバーさんが追いかけっこの正式名称とやらを言うが、
「ルールの概要は単純です。一人が逃げて残りのものが追いかける、このフィールド内をです。ただし、細部ルールはありますので説明します。」
トレガーマさんが細部を説明してくれるようだ。
「逃げる一人は、武器、魔術の使用は禁止になります。武器として使えるのは己の身体のみ。追いかける者たちから逃げ切ってくれれば、逃げ切った者の勝ちとなります。追いかける者は武器、魔術の使用は自由。だが所定の時間までに拘束し続けられなかったり、逃げられたままの場合、追いかける者が全員最下位の扱いになります。逃げる者がどのくらいの期間逃げ続けたかによって、評価と順位が変わってきます。」
ふーん、なるほどね………。逃げる者はくじ引きで決めるのかなあ。
「では、昨日一位の成績のニシキ様が逃げる者として、逃げ続けて下さい。」
「……はい?。え、……俺が、ですか。」
ガーワンバーさんの発言に俺は驚く。
「いやいやいや、こういうのは、普通くじ引きで決めるのじゃないですか?。」
「いいえ、一位を取った者のハンデです。昨日言いましたが。」
『明日の特訓から一位の成績を取ったニシキ様と、最下位のミヤン様にはハンデが付くことになります。』
トレガーマさんの昨日の発言を思い出す。そして、がっかりする。
「じゃあ、俺が逃げ続けるということなのですか。」
「はい、そうです。」
俺の確認にあっさりとガーワンバーさんが言う。
「一応確認なのだけど、評価基準とやらは今教えてくれるということは。」
「全くありません。それを言ってしまうと特訓にならなくなりますので。終わってからですね。」
ガーワンバーさん、またもあっさりと言う。
「武器と魔術は使用できないのですね、うーん。」
「益獣は連れていけますよ。それと水筒と携帯食糧も。あと幾らかの消耗品、付け木とか燃水ですね。」
トレガーマさんがそう言ってくる。
「え、そうなのですか。」
「ええ、飼い主なのでしょう。それについては服と一緒の理屈ですね。全裸で逃げることもないですから。」
おっと、トレガーマさんの発言で3姉妹が渋い顔をしているな。
「じゃあ、とりあえず逃げればいいのですね。2日間。明後日の夕刻まで。」
「はい、そうです。」
「追いかける側は全力で魔法の発動とか本気でやってくるのですよね。」
「それについては、こっちの方で危険だと判断した場合は介入しますので安心して下さい。」
トレガーマさんが俺の各質問疑問に答えてくれるが、安心できないんだよなあ。
「今、介入と言ったけど、審判役はもしかしてついてくるのかしら。」
ヘルバティアが手を挙げて質問する。
「はい、ニシキ様にはガーワンバーがついて、ヘルバティア様たちには私、トレガーマがつきます。」
トレガーマさんがそう答えて、さらに
「ああ、一緒にいるのではなく隠れてつくことになりますので、そう心得て下さい。」
ガーワンバーさんがそう言ってくる。
まあ、やってみるしかないか。
(じゃあ、私と、ダンで逃げ切るのね。)
メムが念話術で話しかけるので俺が小さくうなずく。
「では特訓の準備にかかっていいのですか。ガーワンバーさん、トレガーマさん。」
「はい、どうぞ。」
ガーワンバーさんの了解をもらって一旦寝室に行く。武器と拳銃をカバンに片付けておく。
「じゃあ、そのキャッチミーイフユーキャンとやらを一緒にやりますか。メム様。」
「面白そうね、私たちの実力を存分にあの3姉妹に見せつけましょう。」
メムはノリノリであるが。
「準備終わりました。」
「持ち物の確認をします。………武器とか杖は……ないですね。大丈夫です。では、スタート地点まで行きますので一緒に来て下さい。」
トレガーマさんとガーワンバーさんに俺が武器や杖の無いことの確認をしてもらい、メムの首輪にも針一本ないか確認されると、ガーワンバーさんと一緒にスタート地点に行くことになる。
林と森の中をウロウロして、しばらく歩くとスタート地点になる。
(メム様、歩様が、歩き方が少しおかしい感じがしますが大丈夫ですか。)
(グググ、ちょっと筋肉痛がきついだけだから。)
メムは不調そうだが大丈夫だろうか。
スタート地点に連れてこられると、そこでガーワンバーさんが発煙道具を使いのろしを上げて特訓開始となる。
「では、逃げ続けて下さい。」
そう言ってガーワンバーさんはどこかに消えてしまう。後を追っかける手も考えたが、それだとルール違反になるだろうしな。詳細についていろいろ聞きただしたかったが、とりあえず逃げてみて隠れてみるか。
「メム様、筋肉痛はどうです。」
小声で聞いてみる。
「ちょっと動きにくいわね。」
この状態で過度のトレーニングはメムに逆効果だろうしな。よし、隠れんぼにしよう。
ガーワンバーさんがどこかで観察しているのだから用心のために小声で話してみる。
「メム様、どこかに隠れて様子を見ましょう。」
「え、ここから全力で離れる方がいいのじゃないの。」
「いえ、メム様の状態を見てると、いきなり全力で飛ばして逃げるとしてもきついのじゃないですか。ここは正直に答えて下さい。」
「そうね、ダンがそう気を遣ってくれるのに甘えようかしら。」
「この状況ならそれがいいでしょう。ただ警戒の方を。」
「わかってるわ。鼻が不調というわけじゃないから。こっちに良さそうな隠れ場所がある感じよ。」
メムが俺を連れていく形で、岩陰を見つける。
「まあ、どっちにしてもプランは立てますか、どうでしょうかメム様。」
「何か考えているのね。」
岩陰で座り込み考えることにする。




