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197弾 最初の特訓メニューをクリアしよう

 ミヤンの様子を探るため俺は防御に徹することにする。


「集中。」


 そう呟いてスローに見えるミヤンの動きを観察する。

 間合いを詰めたミヤンがいきなり飛び込んでの、え、右拳で顔面へのスーパーマンパンチか、体を右にずらして横にスライドする感じでかわす。着地するとすぐに俺の動きの先を突くように、そこへ左足ハイキックを入れてくる。ここはかわさずに左足ハイキックを右腕で受けて防御する。利き足だけあってズシリと右腕に響いてくる。

 ただ急いで俺を追ってきてしまったからか、息が上がりかけているように感じる。ミヤンの表情には少し焦りの色が見えるようだ。

 俺は構えを少し変えるとミヤンが奇妙な表情をする。しかし、意を決したかのように右拳でジャブを打ってくるのでこっちは右拳でカウンター気味にストレートパンチ。よし、ミヤンの顔面にヒット。しかし、大きなダメージを与えるまではいかなかった。

 ミヤンが一旦後退気味に離れて遠目の間合いをとる。

 こうやって一対一で戦うのは引っ越ししてきた夜以来か……。ふと俺はそう思い出しながらしばし睨み合うことになる。

 そこに気の緩みがあるとみたのか、ミヤンがタックルを仕掛けてくる。俺は思い切って地面に伏せるくらい亀のように身を屈める。俺の右腹部に足の引っかかる感触があり、ミヤンがタックルする目標を失った状態で野球のヘッドスライディングのように前のめりに飛んでいく。そうして倒れたところを俺は素早く起き上がり、うつ伏せになっているミヤンの背中に膝をついで抑え込み、腰のタスキを回収する。


「これで勝負有りですね。」


「くそっ、汚いぞ。そんな手でタスキを取るなんて、無効だ、ノーカンだ、ノーカン。」


 うつ伏せに抑え込まれたミヤンが悔しそうに負けを認めないで意地を張る。


「いえ、この勝負は有効です。チャティーア・ミヤンさんは敗退となります。」


 どこからともなく審判役のトレガーマさんが現れてミヤンに無情にも敗退の宣告をする。


「くっそー、くっそー。」


 ミヤンが叫んで不満をあらわにするが、審判役は『敗北』の札を貼り付け、猿ぐつわと重しをつけて動けなくして、さらに


「チャティーア・ミヤンさんは最初に敗退しましたので、最下位となります。敗北者はそのまま猿ぐつわをかけられて会話は禁止してもらうことになります。」


 と宣告する。

 ガックリとするミヤン。


「では、続行して下さい。」


 審判役はそう言ってサッとどこかに行ってしまう。多分どこかに隠れたのだろうか。

 そのまま俺はジッとすることにした。敵を探してウロウロしても仕方がない。多分向こうからやって来てくれるだろうし、俺がミヤンのタスキを取った情報は伝わっているかもしれない。もう一つ考えているのは、多分今度は、ヘルバティアとミアンが一緒に俺に攻勢をかける可能性が大きいというところだ。

 しばらく待つと、昼頃になった。影が短くなる。時間がはっきりしないが影の長さから昼頃だろうと思い、審判役に最初に渡された携帯食糧を頬張り、渡された水筒から水をすする。ミヤンの悔しそうな視線を感じながら、そこから動きがないまましばらく2時間ぐらいが過ぎる頃に、ゆっくりとミアンが現れる。

 ミヤンが猿ぐつわで会話をできない状態にされてかつ重りで動けない状態で、近くで俺が座り込んでいるのを見て、


「なるほど、ミヤンはニシキさんにやられたのですね。」


そう言って、ミアンは思わぬ行動を取り出す。


「ねえ、こんな目にあって恥ずかしくないのですか。同じ双子とはいえ恥ずかしいわ。ミヤン、下手したらあなたは私の出涸らしじゃないかと思うことがあるの。本当にダメな子ね。どうせ目の前にこのニシキさんがいるから、この前の恨みとばかりに襲っていったのじゃないの。それで返り討ちにあってちゃ世話ないわよね。」


 思いっきり俺の目の前でミアンがミヤンを罵倒し始めた。

 ミアンはミヤンを罵倒し続ける。


「前から思っていたのだけど、何、このお姉ちゃんっ子は。ティア姉ちゃんティア姉ちゃんって。いまだにガキじゃあるまいし、ティア姉ちゃんがメムちゃんを猫可愛がりするからって嫉妬でニシキさんに喧嘩売っていりゃわかるわよ。全く、平常心を保つことができないのだから……。『あのグランドキャットに、ティア姉ちゃん盗られたー。』って泣き出した時は私ものすごく引いちゃったからね。」


 えらく罵倒するなあ、しかし、なぜこの状態で攻撃してこないのか……、ここでミヤンを罵倒しても俺が攻撃すれば不利になるのに。

 俺は一つ可能性に思い当たって、ゆっくりと身構える。そしてミアンとミヤンに気づかれないように周りを見渡す。

 俺が思い当たったこと、ミアンがミヤンを罵倒することで俺の注意を引きその隙にヘルバティアが攻撃してくるということ。メムがいないので気配感知は難しいが、どうしよう。このままの状況だと多分ミアンとヘルバティアの術中にはまるかもしれないしなあ……。よし、こうなったら思い切って、ゆっくりとその場から移動を開始する。

 ミアンはミヤンを罵倒し続けているが……、やっぱり芝居だな。

そう思いながら移動すると、そこへ石つぶてが飛んでくる、これはヘルバティアが隠れて石つぶてを飛ばしたか。

 俺がある程度読んだ通りの状況だな、じゃあ。

 一気に2人のいない方向へ駆け出す。


「え、うそ。」


 戸惑うような声が聞こえて、


「ミアン、行くわよ。」


 とヘルバティアの声がする。

 予想した通りヘルバティアとミアンで俺と戦うつもりのようだ。

 そうなると、ここで戦うことにするか。

 駆け出した足を止めて、振り返り二人を見る。

 ああ、ヘルバティアは草や枝を体に着けてカモフラージュしているのか……。なんだか子供が無理している感じに見えてしまう。


「いい、合わせるわよ。ミアン。」


「はい、姉さん。」


 どうやら2人もここで戦うしかないと判断したようだ。

 獣道のあるやや薄暗い林の中、俺はヘルバティアとミアンのコンビと戦うことになる。

 ミアンが一気に踏み込んで俺との間合いを詰める。そしてそこから猛烈にパンチでラッシュをかける。

 でもこれは、妙に軽い、手数を打つことを優先したようなパンチだな。多分その隙にヘルバティアが動くはずだな。

 そう考えながらパンチを両腕でガードしながら受けつつ、ヘルバティアの様子を伺う。俺の思った通りヘルバティアが左脇を抜けて俺の背後をとろうとする。

 取ってもらうか、背後を。俺はヘルバティアが左脇を抜けるのをミアンのラッシュを捌きながら見る。背後に移ったヘルバティアが一気に俺の腰をタックルするために抱きつくが、容赦無く俺はヘルバティアの腰部のベルトを鷲掴みにして持ち上げる。ミアンのパンチは気合いでこらえる。


「おおりゃっ。」


 ヘルバティアを思いっきりミアンの方向に向けて投げ飛ばし、 よろめきながら飛ばされるヘルバティアをミアンが受け止める格好になる。俺はそこへ体をかがめて右肩から思い切り2人を目掛けて体当たりをする。

 体当たりを喰らった2人はそのまま転倒してしまうので、そこへ容赦なく2人へ体重をかけて踏みつける。


「ま、まいりました。」


「降参です。」


 そう言った2人からタスキを回収する。


「はい、それまでです。」


「これで訓練終了です。」


 タスキを回収し終えると、2人の審判役のガーワンバーさんとトレガーマさんがまたどこからか現れてそう宣言する。


「えっと、……これで訓練のタスキマッチは、終わりですか?。」


 俺は審判役に確認する。


「はい、こっちの予想以上に早い終わりですが、終わりです。」


 ガーワンバーさんが俺ににっこりしながらそう言う。


「あなたがこの訓練での一位になります。」


 トレガーマさんが俺へにこやかにそう宣言する。


「じゃあ、これからは。」


 俺が短く聞いてみる。


「はい、反省会をしますので。で、二位がチャティーア・ヘルバティアさん、三位がチャティーア・ミアンさんになります。」


「うう、まいったわ。こんな結果になるなんて。」


 とヘルバティア。


「姉さんと組んでまずニシキさんを叩くという方法をとってみたのですが……。」


 とミアン。

 2人ともしょんぼりしている。


「フグァー、フグァー。」


 猿ぐつわをつけられたままで、ミヤンが連れてこられて悔しそうな声をあげていた。

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