195弾 特訓所にさあ行こう
「伝言のためだけで、わざわざ夕食まで持ってきてくださるなんて。本当にありがとうございます。師匠。」
ヘルバティアがお礼を言う。
「ああ、ついに10級のランクアップ試験に挑戦か、意外に早くここまで上がるとはな。」
いや、兼組合本部長として推薦したのじゃないのかい。大師匠……。俺は心の中で激しくツッコミを入れる。ものすごいマッチポンプ感があるのだが……。
「特訓所へ行く準備をしていたので、夕食を差し入れてくださって助かります。」
とミアン。
やっぱりツッコミを入れる空気じゃない。
「では、みんな食事にかかろうか。」
大師匠がそう言って夕食が始まった。
「じゃあ特訓先はどこにするのだい。」
食事をしながら大師匠がヘルバティアに尋ねる。
「はい、エビンロコ山の特訓所に行ってみようと考えています。」
「そうか、助っ人としても師匠としても参加はできないが、何かあったら連絡をくれてもいいぞ。あそこにはツカイドリがあるし、ディマック・パトアイ宛てで組合本部にツカイドリの足に書面をつけて送ればいいだろう。」
「「「はい、ありがとうございます、師匠。」」」
3姉妹声を揃えて師匠にお礼を言う。
「お気遣いありがとうございます。大師匠。」
俺も遅ればせながら、3姉妹に続いてお礼を言う。
「ありがとうございます。」
メムも俺のあとに続いてお礼を言う。
「まあ、どうだ、師匠というのはこういうふうに、いいことをするだろう。」
「勉強になります。」
皆にお礼を言われて照れ隠し気味に大師匠が言ってるようなので、俺がその照れ隠しをフォローする意味でお世辞を言っておく。
「ところで、孫弟子よ。」
「はい、なんでしょうか。」
「商業ギルド長から聞いたぞ。組合本部で養護院の子たちに手伝いをしてもらうアイデアを出したのだな。」
「はい、まあ、そうですが……。」
何か問題でも出てきたか。
「……いいアイデアだ。実にいいアイデアだ。もっと早くそのアイデアを出して実現していればもっと良かった。しかし、世話役という名称は少し大仰な感じがするがな、まあ、いいな。仕事しながら目と心の保養になる、…と組合本部長が言っていたな。」
ものすごい笑みで俺を労ってくれたのだった。
「はあ、褒めていただくとは……恐縮です。しかしあの冒険者ランク10級のランクアップ試験だけはそんなに中身は変わらずに、みんなも試験内容を知っていても難易度が高いのはなぜですかね。やっぱり、そのヘビースネークというのはとんでもない獣なのでしょうかね。」
褒められついでに思っていたことを大師匠に聞いてみる。
「ああ、孫弟子の言うとおり、ヘビースネークは厄介すぎる獣だからな。死亡率が高い原因はほとんどこれとの戦闘だからな。」
「攻略法とかは全くないのですか?。今までずっとこのヘビースネークとはやり合ってきたのに。」
「まあ、一度開発された攻略法がいつの間にか無効化される。ヘビースネークは見た目以上に頭がいいのさ。本当に初撃、最初の攻撃を交わすか受け切って、攻撃を続けて倒していくしかない。魔法を発動させての攻撃、武器での攻撃、どちらで攻撃するにしても、ヘビースネークを倒すかパーティの体力が尽きるまでの攻撃を続けるかの勝負になってくる。聞いたと思うが、このランクアップ試験が『重課金試験』とか『廃課金試験』とか言われている。それは、より守備力の高い装備品に、攻撃力の高い武器、高威力の魔法といい杖を求めていくことになるからだ。」
「ふーむ、イダーゴンの葉を採集するのにこんなに手間暇がかかるのも特殊被服を作るためとはいえ、大変のことだなあ。」
「ニシキさん、まずは試験を受けて、私たち華束舞踏の実力がどのくらいの能力かを把握するのが優先ですからね。」
ヘルバティアが俺と大師匠の会話に割り入って俺をたしなめるように言う。
「ああ、わかりました。」
俺はそう言って食事に集中する。
しばらく歓談しながら食事をして
「まあ直弟子たちがパーティを組んで活動してくれてよかったよ。じゃあ特訓所でしっかり特訓しておけよ。」
食事が終わり、そう大師匠は言い残して帰宅する。
翌日、みんなで組合本部へ特訓所使用のための紹介状を取りに行き、その後は装備品、特に鎧兜系統の物をチェックしながら必要なものを購入する。
俺も新たに軽鎧を購入して、これを予備用とすることにしてみる。
「特訓後に試験前のタイミングでもう一度装備品はチェックしましょう。」
ヘルバティアの指示で、回復薬、ポーションを買い込むことにする。
そして4日ほど準備をして、ドラキャに乗って特訓所に向かうことになる。
交代しながらドラキャを操縦してまずは、途中の村で一泊してヨーンノガクトの街に着く。
その街の組合本部で紹介状を渡して宿を紹介してもらい、そこで一泊することになる。
「一応、試験受験のための特訓所の利用者にはそれなりに優遇措置がついたりしますので。」
と、部屋に入って、ミアンが俺とメムに説明してくれる。
「その特訓所、この前、3箇所を候補地として検討していたけど、何か違いがあるのですか。」
「うーん、ルロス峰の特訓所は主に体力向上に効果がある特訓所で、ムードイピュ岳の特訓所は武器攻撃能力の向上に効果があるのです。で、私たちが行くエビンロコ山の特訓所は総合的な能力向上に効果があるのです。」
「なるほど、伸ばしたい能力を決めて特訓所を選ぶのか……。」
「これ以外にもそう言う特訓所は他に3箇所あるのだけど、ティア姉さんはもしかすると、検討した3箇所全部回るつもりかもしれないわね。」
とミヤンも説明に加わる。
「さあ、明日には特訓所よ。そして特訓はハードよ。今のうちにしっかり体を休めましょう。」
地図を見ていたヘルバティアがそう言って、夕食と入浴と就寝の準備をするのだが……、
「これは、なんですか……?。」
俺は部屋の隅に置かれた大きめの棺桶のような箱を見つめながら質問する。
「ああ、これは、就寝箱よ。」
とヘルバティアがあっさり応えるが、
「は、就寝箱?、何をするための箱で。」
俺にはピンとこないし、メムもこの箱の匂いを嗅ぎながら、
「変なものは入ってなさそうだけど、どう使うのかしら。」
と聞いてくる。
「蓋を開ければわかるわよ。」
とミヤンが言うので、俺は蓋を開ける。まるで棺桶の蓋を開けるような気分だ。
蓋を開けると、寝床があり、でもやっぱり棺桶に思えてくるが……。
「特訓前に間違いが起きないようにするための寝床です。男はニシキさん1人なのでそこに入って寝てもらえばちょうどいいのです。」
とミアンが申し訳なさそうに教えてくれる。
ああ、棺桶じゃなくてカプセルベットみたいなものか、確かに棺桶より大きいし広いし……。
「いいじゃないの、ダンはここで寝てしまえば、いろいろ安心安全ということね。」
メムがニヤニヤしながら俺に向けて言ってくる。
「メム様、言い出しっぺが入ってみるのが自然な流れだと思いますが。」
「何言ってるのよ!。メムちゃんと私が一緒に寝るのよ。」
横合いからメムちゃんラブのヘルバティアが強い口調で言ってくる。
まあやっぱりそうなるか。俺のささやかな抵抗も終わり、あきらめてこのカプセルベットみたいな就寝箱に入って眠ることになる。
俺はこの箱でよく眠れたのだった。でも何か釈然としないというか、なんか納得できねー……。
ヨーンノガクトでの一夜を終えて、また交代でドラキャを操縦して坂をダラダラ登り、ついに特訓所に到着した。




