111弾 この資料から読み解こう
「う、ううう、うううう、なんで俺がこんな目に………。」
「まあ、腹は満たしたけど、味覚は破壊されるわね。」
メムは、ダメージを受けなかったが、俺は………、情けない声でうめきながら、しばらく手洗いとベットの往復をすることになった。
「うう、こんな油脂分が濃くて、何かよくわからないものを食わされて、………ほとんど動けない、メム様すみません。今日はもう無理です………。」
何というか、ヘルバティアの料理は………すごかった……。
まあ、トンデモ料理の犠牲になったのは俺だけでなく、3姉妹も結局ダメージを受けたようで、
「……ニシキさん、…大丈夫ですか。一緒に回復メニューを……いかがですか。昼食は……。」
ミアンが気力を振り絞る感じで、俺に聞いてくるが、
「…いえ、しばらくは、食事を別個にしましょうか。……ダメージが体だけでなく、心も、ゼェゼェ、ダメージを受け、……たもので。」
俺もしばらく食事を外食にしたい。
「申し訳ありません。……ティア姉さんが暴走しまして……、ある意味、……自爆攻撃で。」
ミヤンが詫びを入れる。
「何……言ってんのよ。……次………こそは、リベンジマッチ……よ。」
「そのリベンジマッチで、……何回………私たち、………ダメージを……受けたか。うう。」
ヘルバティアが再度挑戦の意思を示すが、ミヤンが拒絶の意思を示し、お手洗いへと。
「昼食を……買って、来まーす……。」
「まあ、しばらく外食ね。ダン。ふぅ、しょうがないわ。」
独り言のようにメムが呟き、ふらつき気味の足取りで買い物に出る俺の後をついて行った。
昼食後、何とか体調も回復してきたので、俺と同様に回復しつつある3姉妹に、彼女らの両親が残した資料を閲覧する許可をもらい、まずは絵について書かれたメモ類を自部屋に持ち帰り、読み解いてみる。
「まずこれは……。」
『異世界にきてすぐに目についた。このような箱にヒューマーが乗り込み、魔術を使って前に走らせる。また、大きなものを後ろに乗せることもできるようにしていたりするが、1人から4人が乗り込める。前にいる者が魔術を使っているのだろう。さらには、2つの輪っかに跨がり、兜をつけてこれまた魔術を使って前へ走らせる。箱も輪っかも、なかなかの速さで動く。』
ふむ、これは、自動車とバイクの絵についての話か。
『なんと言っていいのだろうか、怪物が空にいるのである。怪音を出して空を舞い、くるくると回って高く昇っていく。聞くところによると、数百人の規模でヒューマーが乗り、あちこちへと遠くへ早くいくことができるものらしい。空舟のようなものか。でもあれは、そんなにヒューマーが乗ることはない。あの怪物は、槍と剣が組み合わさったような形のものであった。ましてやこの近くに、クウコウというその怪物の巣窟があるという。』
これは、航空機、ジェット機のことか。
『水の上を、帆がないのにスイスイと走っていく。あの船は、大体が多くの荷物を積み込んでいる。それで何日かかけて、他の国へ売るものを運んだり、他の国から買ったものを運ぶのだそうだ。積み込む荷物の量が桁違いであり、大きさも桁違いである。あのびるとやらを横にした大きさのものが浮かぶのだと言われるが、信じられない。』
船舶、貨物船のことだな。
『高い大橋の上をするすると走る、長細い箱の塊。綺麗な色が塗られているが、そこから多くのヒューマーを吐き出し、食べ入れてを繰り返している。ここの異世界のヒューマーたちは、そうなることに慣れっこになっているようだ。列を組んで並び、吐き出された者と交代しながら喰われていく。他にもこのようなものがたくさんあるらしく、ものすごく速い、長細い箱の塊のものがあるらしい。』
電車のことか、しかしこれって、まさか………。
『今まで見たこともない建物だった。まるで大きな四角錐の頂点を下にして太い柱をくっつけたような異形の城、いや魔宮というべきなのかもしれない。その魔宮に多くのヒューマーがさまざまな格好で集い、群がり、行列を作っている。そこに入るのにたいそうな苦労があるというが、あの先で何が行われているのだろう。時々、自分たちの格好とよく似た格好をした者が、列に加わりその先を目指して少しずつ進んでいく。』
………え、えっと、これは、アレだ。多分年2回行われる日本最大のお祭りだ。俺はこの建物を数回直に見たことがあるはず。
「しかし、もしかすると、ちょうどアレのタイミングで地球に日本に来ちゃったのか……。」
この資料でほぼ読み解けちゃったようだが、しかし、また別の資料で詳細を調べるか。
絵について描かれたメモ類を読み込み、必要と思われるところは、別のメモ紙に書き出しておく。しかし、とんでもない所へ転送されちゃったのか。
「どうしたの、ダン。顔色が悪いわよ。朝食がそんなに具合悪かったの。ねえ、何か言ってよ。もう………夕食のことでも考えているのかしら。」
メムが俺に声をかけるが、読み込んだ結果が衝撃的だったので心ここに在らずの状態。メムが軽く猫パンチを俺の後頭部にして、俺は我にかえった。
「どうしたの、読み込んだはいいけど何か呪いの言葉でもあったの。ダンの意識がどっかに行っていたようだったけど。」
猫パンチをしたメムが、俺の隣で太ももに前足を乗せて聞いてくる。
「いや、大丈夫ですよ。読み込んでみて、残り2枚の絵について何が描かれているか、見当がつきましたので。」
「え、すごいじゃない。何が描いてあるというのかしら。」
「……うーん、言いにくいのですが。」
「いいわよ、言っちゃいなさいよ。」
「ひとつは航空機、それも旅客機の絵だろうと思います。もうひとつは、ビルの絵、とある建物の絵でしょう。」
そう言って、俺自身で軽く描いたビルの絵と航空機の絵をメムに見せる。
「ふーん、どれどれ。この航空機はどこの社の製造なの。」
「すみません、そこまでは。航空機マニアではないので。」
「この建物は、………これは日本にある建物かしら。」
「ええ、そのつもりで描いてみましたが。何かおかしな点でも?。」
「いや、日本の建物なら、シンジュクの高層ビル群じゃないかな、と思って。ニューヨークみたいな摩天楼がそびえ立つように。」
「まあ、その可能性もあるでしょうけどね。」
「これだけ分かれば、それの描いてある絵画を問い合わせて、聞きこめば解決の糸口になるのじゃない。ダン、どうしたの、険しい顔をして。」
メムのいうことはある意味ごもっとも。ただ、
「えっと、こういう盗まれた疑いのある絵画は、そうそう表には出てこないのじゃないかと。絵の行方とご両親の行方不明が全く関係していない可能性もあるということ、それに行方不明になった理由と、絵を狙われている理由がはっきりしない。」
「じゃあ、思い切って囮調査でもするの?。ダンが。」
メムが机に飛び乗り、思わぬ提案をしてくる。
「囮調査ですか。俺が?。うーん。」
まあ、俺も考えていたことだけど、まだ早いような気がするが。そこにメムが、
「私を最強の囮といって、戦闘時に使うのだから、今度はあなたが囮になりなさいよ。」
と言ってくる。そんな理由で囮調査にするのはちょっと違うのだが………。
「囮調査をするにしても、いきなりサッとはできませんよ。第一に、絵を盗んだと思われる犯人の見当すらついていない。第二に絵を盗んだ奴が、ご両親の行方不明と関連しているかどうかまだわからない。第三にまだ、ご両親の残した資料を全部は読んでいない。」
「ああ、そうだったわね。」
「ご両親もそれなりのハイランカーな冒険者だった、としたらどこかのパーティに加わっていたりはしていたことはチラリと、3姉妹の話からも聞いていますが、まずは残った資料の確認と読み込みでしょう。」
「冒険日誌、を読むしかないけど、それも一部欠けているのよね。」
「メム様、気長にやることも必要です。」
「また襲ってこないかしら。」
メムが物騒なことを言う。
「その時はその時でしょう。依頼完了を目指す途中で邪魔をした者として返り討ちにしてもいいでしょう。しかし、前に引き渡した奴らは、警備隊からの情報じゃ、金目のある家らしいから狙った、という話しか出てこないようですから。」
あの3姉妹が口封じしたようなところもあるけど、裏ギルドの掲示板で知り合った男という線からは、多分たどり着けない。
「簡単にはいかないのね。」
メムがしょんぼりとして床に飛び降りる。
「囮調査をするにしても、何をエサに誰に対してするか、でしょう。」
俺は、床に降りたメムに向かって言う。
「あの3姉妹には、話してみるの。」
「ええ。それがいいでしょう。何か情報を持っているかもしれません。」
「そうね、でも囮調査は。」
「一旦離れましょう、メム様。」
メムが囮調査にこだわる理由はものすごく残念な理由だが、まずは調べを進めるしかない。




