第26話 激突!聖獣師VS龍氣師⑧
魔龍皇と筆頭聖獣師が対峙したのは殲敵決死線よりもはるかに王家の森に近い交戦許可区スレスレの無人地帯であった。
陽光をギラギラと反射して、あたかも白銀色の焔に包まれたかのような金属的質感の猛禽類を彷彿とさせる巨鳥からおよそ30ヤーン(約50m)の距離を隔てて向かい合う45個の漆黒の鏡晶珠──目下この異様な光景を目の当たりにしているのは魔龍閣最上階の龍眼の間に詰めている星覇獣国首脳陣と、王家の森の地下要塞に陣取り、戦景眺映士パレル・ラツォーロの巧みな鏡晶珠操作(筆頭聖獣師の愛鳥の背後から撮影中)によって観戦するパヅァルア聖門王国十二代国王ゼトゥス・マナレックのみであった。
「ナージェム師によればあの巨鳥は魔龍皇が駆使する黒鏡晶珠迎撃に特化した聖獣だということだが……たしかに神々しいまでの金色に彩られていた兄鳥とは好対照に、冷徹なまでに硬質な輝きを放つ白銀色の体躯はその使命を無言で宣言しているかのごとき趣だな──だがはたして、あれら数十もの凶悪な物体を文字通り手玉に取ることができるものなのか……!?」
身を乗り出し、固唾を呑んで闘示盤に見入るゼトゥスの背後から卓越した操作技術によって戦況を映し出す美少女聖獣師は、もし師匠にして育ての親であるルゼルク・ナージェムが危機に陥った際にはいつでも自身の鏡晶珠(とはいえ現場にはロズガ専属のたった4個が飛翔するのみであったが)を戦線に投入する決意を固めていた……。
「くっふふふふッ、それでは苦心の魔改造の成果を見せてもらうとしようか。
とはいえ賢しらに聖獣師などと名乗ろうがその内実は外星人の生物工学技術頼みのキサマらのこと、余がぶつける真正の魔霊術と渡り合えるはずもないが……そもそも数と速度において大幅に勝る鏡晶珠の進行をどう押し留めるつもりなのだ?」
倨傲なまでの自信に満ちた言葉と同時に一斉に疾駆を再開する魔性の球体──されど次の刹那、愛龍と一体化してそれぞれの戦場を脳内に投影しつつも、横目で密かに黒水晶の闘示盤を窺っていた二人の龍氣師が思わず嘆声を発したのである!
「な、何とッ!全ての鏡晶珠がその場に釘付けにッ……ぐぉあああッッ!?」
愚かにも言わずもがなの実況?を口走ってしまったイヴェロイ・ドゥヌバが、その髑髏の眼帯に覆われた光を失ったはずの右目を両手で押さえながら苦悶する。
「……自分こそただならぬ窮地に追い込まれているくせに何をヨソ見しておる?
そんなザマでは十中八九、目的地に到達することは叶わぬであろうな。
ちなみに気鋭のウォセメルは、べジュネオス出現の段階で今日のキサマの戦果を大幅に上回る200名以上もの愚民どもを屠ってのけたのだぞ──よいか、今度集中を切らすようなことがあらば、即座に我が魔念によって残った左目も潰してやるからそのつもりでいるがいい……!」
漆黒の焔のごとき絶対者の怒気によって龍眼の間は完全に異空間──そう、龍氣師たちの心魂に今も生々しい傷跡を残す恐怖の龍魂素界そのものへと変貌したかのような錯覚を両者にもたらした。
「はっ、ははあッ!も、申しわけございませんッ、以後肝に銘じまするッッ!!」
両掌を蒼白な顔面に張りつけたままガバッと平伏した古参幹部を一顧だにすることなく黒水晶の杯を再び掲げたズザ・ビラドは、弾かれたように動いた侍女の酌を受けつつこう嘯く。
「ふふ、予想通りだ──ただ今彼奴が放射したのは余の強力な精神波と鏡晶珠それ自体が発する微弱な生体波動を一時的に遮断する特殊重力波であろうが、ならばこれにはどう対処する!?」
なみなみと注がれた魔酒を喉に流し込んでいる間に45個の鏡晶珠は黒い破壊光線を一斉発射するが、意外なことにその全ては巨鳥に達することなくメタリックな体表面に乱反射して霧散してゆくではないか!?
「──おお、見事だッ!
あれほどの数で迫る悪の鏡晶珠の動きを封じ込めたばかりではなく唯一の飛び道具をも撥ねつけてみせるとはッ!
後は熱閃煌破弾によって各個撃破すれば決着は早々につくと思われるが、しかしそうなると未だ誰も目にしたことがない魔龍皇の分身ともいうべき超凶霊龍が出現する危険性がある……全く悩ましい、一難去ってまた一難となるのかッ!?」
あたかも若き新国王が拳を握りしめて言い放ったセリフが聞こえたかのようにロズガが巨大な銀の穂先を連想させる嘴を目一杯開いて何かを吐き出すが、それは予想された白く燃えたぎる火焔弾ではなく、重力波同様に無色透明な〈超崩壊発生音波〉であったのである!




