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第30話「ホワイトナイト」

 あれ以来さらなる雨野からの妨害もなく、勇者正は祭りの日を迎えた。

 封印祭り、表向きは龍神祭。金曜日に始まり日曜日に終わる。

 本日は金曜日、祭りの初日である。


「ふぅ」

 閉鎖の一報が入ってからも何だかんだと騒がしかった温泉が今日は朝から静かだった。

 勇者正と裕也は3日間続く神事のため朝日が昇る前から勇者本家とその関係者しか知らない、幾重にも隠された本殿に籠っている。

 勇者分家で代々儀式に関わっていた家は雨野に組みしていなかったようでつつがなく祭りが開始されるようだ。……流石に地域の存亡に関わる儀式なので、どちらに与していようと関係なく協力するということなのだろう。

 なので邪神様は今魔王と2人であった。

 流石に主人のいない旅館に居座るわけにもいかず、先ほど祭りの表に関わっている灯にチェックアウトの手続きをして表に出ていた。

 灯は灯で地元のイベントで忙しそうだった。夜は夜で神楽を舞うとのことで邪神様を見送ると自身もいそいそと戸締りに走り回っている。


「……社長、今日休みません?」

 宿に蓄えていた荷物はトランクルームをレンタルしてしまい込んだ。

 車に積み込んでいるのは数日分の着替えだけ。


「あーだる。封印温泉にいれば、封じられし獣を隠れ蓑にして簡単に隠密できたのに……離れたらな……」

 邪神様と魔王であれば他の神々が介入できないほどの結界を作り上げることが可能だ。

 だがそれをすると天界に見つかる。

 それ以前に力を込めすぎると世界が耐えられない。

 ひっそりと休暇を楽しんでいた世界を、休暇のために壊すのは本末転倒である。

 しかし、このままであれば見つかるのも時間の問題である。

 力を使えば発見され、鬱陶しい泣き落としが続く。

 せっかく正義の神が気を利かせてくれたのに、その気遣いが無駄になってしまう。

 とは言っても、放っておいても邪神様たちの存在がバレてしまう。1度こちらの世界で嗅ぎつけられて以降彼らが邪神様たちを発見する精度は高い。


「……もう休んで、お祭りを楽しみましょうよ」

 魔王はすっかり割りきていた。『もう、なるようになるでしょう』と言いたいのだろう。


「……ま、来週考えればいいか。業務の方は大丈夫そ?」

「大丈夫です。今日いなくても大丈夫なように予定を組んでいます」

 魔王は待ってましたとばかりドヤ顔で答える。

 邪神様、ここ数日魔王が忙しそうにしていたことに納得した。『そういえばこいつ祭り好きだった』と。天界に見つかる前、魔王は日本国内の有名なお祭りを見に行くのが趣味だったのである。


「宿も1週間ほど駅前で手配済みです」

 駅前のタワマンみたいなホテルを思い浮かべる。朝食の海鮮が美味しいところだ。


「朝ごはんが美味しいって評判な?」

「はい。飲み屋街も近いので朝まで飲めます!」

 この20年で飲み文化に肩まで浸かりきっていた魔王。一方邪神様、お付き合いの飲み会は嫌いだし、流行病を挟んで『飲み会しなくてもいいなら部下や後輩と飲まなくても良いじゃん』と理解し『うち、ベンチャーなんで』を免罪符に飲み会否定派になっていた。


「飲み会は3人までな」

 飲み会、やっても少人数、邪神様。


「社用の飲み会、パーティは我慢してくださいね」

「……社用の飲み会やだ……」

「若手も社長と話違ってますよ」

「……話さなくても勝手に育つじゃん……」

「……」

「わかったって! そんな目で見ないで……」

 邪神様敗北。


「とりあえず、昼酒飲んで15時から灯ちゃんの神楽舞を見に行って……あとは町内会のおっちゃんたちと合流かな……」

「いいですね。昼酒。それで行きましょう〜」

 と言うことで魔王と邪神様はホテルの駐車場に車を入れると、早速お祭りに繰り出してゆくのであった。


ーー祭り、御神輿宮出し後の法被を着た男たち

「なぁ、今年は外人さんが多くないか?」

 普段大工している頭が淋しくなりつつある中年男が、一息ついて汗を拭き顔馴染みの男に声をかける。


「ん? 天野さん(邪神様)とこのジョン君(魔王)のこと? それとも最近布教活動頑張ってる教会系?(ラーカイル流魔術修行中の世界的宗教組織エリート集団)」

「いやいや。欧米系じゃなくってさ、アジア系」

「ああ、でも昔から多かったっしょ。もう30年も前からだし、爆買いとかの時期もあったじゃないか」

「……最近あっちの大型連休でも来る人数減ってただろ?」

「ああ」

「今日はやたら多いんだよ。しかも最近の大人しい奴らじゃやなくて、前の横柄な奴らが……」

「ああ、やたら騒がしい……声の大きいやつがいると思ってたけどあの連中か……」

 2人は気まづい表情でスポーツドリンクを流し込む。


「昔から現場のやつが飛んだとかどうとかあったし、最近の流れからするとなんか怖いよな……」

「そうだな。子供とか何かトラブルに巻き込まれないか俺たちも見てないとな」

「ああ、取り越し苦労ならそれはそれでいいからな……そういや、天野さんの伝手で天地酒造から良い酒を仕入れてるらしいぞ!」

「マジで! 顔広いなあの人! 早くいかないとなくなっちまいそうだな!」

 男たちは不穏な空気を感じつつも、自分たちでは何もできないので楽しい話に切り替える。

 しかし男たちの不安は的中していた。

 一般人には対応できない状況が刻一刻と近づいていた。


  全国的にことが起こる……雨野の革命まで、あと1日。


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