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第28話「買収は突然に」

 中華風の鎧を纏い青龍刀を構える大男は獰猛な笑みを浮かべる。


「いいな、お前! 見掛け倒しじゃないことを祈るぞ!!」

 大男はそう吠えると仙術を発動させ、飛ぶ。


「おお、怖いね。正面から猪侍を相手にするほど、俺は馬鹿じゃないぜ」

 大男が光る青龍刀を携えて空中を蹴り高速移動する大男はまるで一筋の光線のように駆け、同様に高速で動き回る黒い狸の黒い尻尾と斬り合う。


「おっと、それは悪手だ」

 実体を魔力に変換して移動し再顕現しようとした黒い狸の首元に青龍刀が迫る。


「くっ」

 黒い狸はぽんちゃんと呼ばれた男の別人格が異世界で使っていた体を再現したものである。

 術に別人格が乗っているのでできる技ではあるが、この術実体を斬られることで術が霧散する欠点がある。つまりは実体を斬られたら術が崩壊する。

 術であるため通信ネットワーク、今は倒れた兵士の無線を経由しての移動は効果的に敵の背後を取れるように思われたが、大男に欠点を見抜かれていたようだ。欠点、つまり再度実体を構築する際に座標固定と生成処理が必要となり、1秒に満たない時間ではあるが座標を見抜かれた場合、ピンチになる。


「面倒だな、早く死ね!」

 黒い狸は実体再構築中に無理やり体を逸らして青龍刀を避けると構築し損ねた尻尾になりかけたがなりきれなかった大男の攻撃により不安定な状態の力の塊を、大男に投げつける。


「ははは、まだ死ねぬ! 楽しくなってきたところだろ?」

「黙れ、そして死ね」

 黒い狸は短く「黒い雨」と唱えると尻尾が1本分裂し無数の黒い球へと変わる。


「こいつはきつい……ならば! 外氣、内氣!」

 黒い無数の球が一斉に襲いかかる前に大男の周囲にうちから発生した力と外から吸収した力が渦を巻くように回転し、強固な防壁を形成した。

 障壁と黒い球の攻防は数分続き互いに消滅する。


(まだかかる? ……って魔力消費えげつないな尻尾まで使ってるのか? 他所も制圧送らないとなのにもしかしてそこが本命?)

 儀式場のぽんちゃん本体からの念話。


(どうやらここが本命のようだ、こいつを殺せば落ち着くと思うが……こっちの世界のやつにしては化け物クラスだ)

(了解。次の呪具を取り込むから、少しだけ今の魔力で頑張って!)

 ぽんちゃんとの通話を終えた黒い狸は大男に向き直る。


「待たせたな」

「問題ない、仙氣の補充をしていた。ちょうど良い補給時間だった」

「いうと思った……ねっからの戦闘……ん? ……は? ……ちょっと待て、大男、時間をやろう。通信機器でそちらの現状を確認しろ。……とんでもない状況になっているぞ。待って貰った借りだ。こちらも攻撃しないで待ってやろう」

 黒い狸がそういうと、戦闘の続きがしたかった大男は怪訝な表情を浮かべつつも黒い狸対策で把握していた味方兵士が持っていた通信機器を取り出して現状を確認し、あまりの状況に固まるのであった。



 それは革命が動き出す1週間前のこと



 それはいつもの朝だった。

「どした?」

 朝食を食べていた邪神様の前に青い顔の勇者正ががどかりと腰を落とした。その手には書類が握られている。


 数十秒の沈黙。

 重苦しい空気の中邪神様は朝食を食べ進める。

 異様な空気を察知して遠目にタマが心配そうに邪視様達を見ている。


「……すまん。封印サービス続けられなくなった……」

 顔を上げられないまま勇者正はそっと一枚の書類を邪神様に差し出す。


『XXXX温泉閉鎖のお知らせ』


「おまえさんがオーナーじゃなっかったのか?」

「そう思っていた。両親が死んだ時のバタバタに乗じて所有者が変えられていたらしい」

「詐欺じゃん」

「ああ、そこら辺はツテがあるから抗議しているところだが……」

 東京の大臣と畑中が動いている。

「……従業員か……」

「……ああ、知らなかったよ。皆んな雨野おじさん派閥だったてさ。『今の国際情勢を鑑みて、封印業務に注力すべ』だと。……そうだけど、そうじゃねーだろうよ。あとなんで今なんだ……」

 やるせない表情の勇者正は首を振ると軽く項垂れる。そこに勇者の姿はなかった。

 勇者正にとっては両親が死んで10年妹を含め残されたものを精一杯守ろうともがいた時間が無駄だったと突きつけられた気持ちなのだろう。

 外敵に打ちのめされるなら抵抗できるものだが、守るべきものを守ったはずが、その相手から裏切られることほど心を砕くものはない。


「……」

 挫けている勇者正を見下ろす邪神様。


 おさらいにはなるが、邪神様は勇気の神である。

 そして本来であれば現世に降臨することも、人型を取る必要性も、邪神業務を引き受ける義務もない、頂上の存在である。

 だが邪神様は現世にいる。そして面倒な邪神業務も引き受けている。

 なぜか?

 それは邪神様が人間が好きだからである。

 神とは人間を守護するものではない。

 地球を守護するものでも、太陽系を守護するものでもない。

 この宙域を、空間を守護するものだ。


 神々の発生は宇宙の発生とほぼ同時である。

 その際に原初の神々はこの特殊な宙域を崩壊から守るための管理者として配置された。


 ついこの間までは不安定なようで安定したこの宙域を管理していた。


 しかしそこで地球と人類が呼ぶ惑星に生命体が発生した。神々にとって革命的なことであった。

 宙域を管理する神々は力が大きすぎる故に見落としていた。しかしそれは管理対象があることを生命体によって気付かされた。存在する物質にそれぞれ細かな違いがあることに。

 それは特殊な機器を持たずにミクロの世界を観測するようなもの。簡単な例を挙げると神々にとって鉄塊を握りつぶすのも、豆腐を握りつぶすのも変わらないことであった。


 そこで生命体の登場である。

 神々はそこで初めて物質の違いに気づいた。量子に情報が載ったものがそこまでの違いを持つとは、この頃まで神々は知らなかった。

 管理不足であった。そして神々は焦り生命体を模倣し世界を知ろうとした。事象の各カテゴリで研究・管理する神を設定し彼らは宙域の崩壊につながる要素の管理を始める。


 やがてそこに知的生命体である人間が誕生した。

 神々はさらに歓喜した。

 物質や事象を検証できる存在、知性体であると言うことに。

 思惑通り神々は人間を通じてより精密な観測と実験を行うことができるようになった。

 人間が観測したものを体系化し神々が管理する。

 この頃から人間を知るため人間を模したり、人間に事象を発見させるため顕現したり、世界を複製して多様な実験場を用意したりした。

 実験の失敗でいくつかの世界が崩壊した。それも神々にとって成果の一つである。

 世界が壊れること自体、神々にとって問題ではなかった。貴重なデータ。

 

 そんな中で世界の管理者として邪神様は下級の存在から上級の存在まで駆け上がっていった。

 邪神様はその経緯で人間を模倣し、魔法を使える世界を作った。

 自らも人間に近しい生き物で生を謳歌し、人間の1感情である『勇気』を司る神となった。

 それゆえ邪神様は困難に立ち向かう勇気、絶望から立ち上がる勇気が好きだった。


 今目の前に勇者正がいる。

 困難を前に身内に裏切られ絶望の目の前にいる。


 助けることは容易い。

 この世界を終わらせることも容易い。

 しかしそれでは解決しない。

 それでは進歩もしない。


「……すまん。愚痴を聞かせた」

 勇者正は顔を上げる。

 その顔には決意が浮かんでいる。

 邪神様の好きな顔だ。

 手段は構わない。苦境を何が何でも乗り越えると決意した男の顔だ。


「……勇者正よ。私はどうあってもかまわない。こんなことで人間を滅ぼす、世界を壊すなど短気を起こすことはない。勇者正よ。進め。お前が信じる道を、後ろを振り向かず、前だけ見据えて進め。万が一倒れるのであれば前向きに倒れろ。さすれば私が偶然通りかかるかもしれない。……チャンスは進んだ先にしかないのだ。勇気を持って進め、勇者正よ」

 それとなく良いことを言っている邪神様だが、寝起きで短気を起こして世界を破壊した前科がある。


「……神様みたいなこと言うな。邪神のくせに……」

「おうよ。偉い神様だぜ。おれ、敬いたまえ」

「一気に胡散臭い企業の経営者にしか見えなくなったな……まぁいい、まだやれることは残っているし味方もいる。諦めるのはこの命が終わる時だけ。なんせ、家業が勇者だからな」

「頑張れ〜若人〜」

「……一旦営業が中止するかもってだけ認識しといてくれ」

「構わないよ。……長くなったら正義の神に介入させるけど、少しならまつさ」

「……面倒ごとの匂いしかしないな。早めにけりをつけるさ。じゃぁな……」

 そう言って立ち上がった勇者正の瞳には迷いはなかった。

 邪神様は去ってゆく勇者正の背中を見つめつつ「さてどうすべきか……」と呟くのだった。

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