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最終話 食を愛し、休息を愛し、人生を愛する物語

 演説前。


 私はこの時に、リーチェさんから意志石についての説明を受けた。


 元々は一人ひとりが持っていたものだったけれど、国が預かるようになってからは、その色を何度も確認し、人々の不安や恐怖を煽ることで、国民を思い通りに動かしていたのだという。


『リーチェさん、この王権継承証は一度あなたが預かっていて欲しいです』


 私は、前王の封印を解いた後にリーチェさんに中に入っていた継承証を渡した。


 リーチェさんは少しだけキョトンとした後に、私を見つめた。


『なぜ、私に?』


 不思議そうに尋ねてきた。


『……個人的な感情です。あなたは信頼できるかもって、思ったんです。あの時……』


『私の名前を呼んでくれたから』


 リーチェさんは、少しだけ目を見開いた。

 そして、何かを考えるように視線を落とした。


『……私は、ただお名前を呼んだだけですよ』


『はい』


 私は意志石が入っている箱を持って、演説の場所へと歩いていく。


『私にとっては、それが大切だと思っているからです』




 きらきらと空に沢山の色の石が降っていく。それが、どんどんとみんなの胸の中へと溶け込んで帰っていく。


 空が綺麗だ。透明で、清々しくて、澄んでいた。



「……必ず後悔しますよ、兼々寛子」


 後ろから、脇腹を押さえたアーサードがよろよろと歩いてきた。さっきツクヴァルに押された時、思ったよりも強くぶつけてしまったらしく包帯を一部に巻いていた。


「……アーサード」


「貴方はとんでもない選択をしましたね。元々、民が間違いばかりを犯すから優れたものに委ねようと決めたのですよ?」


 アーサードが、私を睨んだ。


「私もそうすべきだと思っています。ええ!! 民はまた無駄な戦争を選ぶかもしれませんし、無駄な差別をするでしょう!! エルフだって、また前のように────」


「そん時は、僕がまた反対するよ」


 聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、階段を登ってくるパルヤとローロラさんの姿があった。

 私たちの会話を聞いていたのだろうか。二人とも、いつもと変わらない表情でこちらへ歩いてきた。


「確かに……みんなが戦争に賛成したら、またそうなるかもしれない。けどさ」


 パルヤが、アーサードを見た。


「僕が反対したら、みんなじゃなくなる」


「……私も、そうするわ」


 ローロラさんが、横で頷いた。


「誰か一人に全部を任せてしまうよりは、良いと信じているから」


 アーサードは、きらきらと輝く空を呆然と見上げていた。


 そんな彼に、真っ先に駆け寄ったのはリーチェだった。


「アーサード!!」


 リーチェは、アーサードを抱きしめていた。


「ごめんなさい。不安だったでしょう、ずっと……!! あなたがエルフとして、長い時間を過ごし、他の種族よりも体が弱いことをずっと不安に思っていたのを、私は最後まで寄り添えなかった……!!」


「…………」


「またやり直しましょう、私たち。ヨシヒトはもういないけれど、あの時のように、ギルドで過ごしていた時のように……!!」



 私がこれ以上、この二人がこれから話すことに対して首を突っ込むのは……野暮だと思った。


 だから、敢えて何も言わずに私はそこから立ち去った。

 ツクヴァルの手を握って。



「……あ」


 そして、二人で階段を降りていると……そこには、不思議な空間が広がっていた。


 まるで水面に波紋が広がるように、何もないはずの場所がゆらゆらと動いている。


 向こう側の景色が透けて見える。けれど、そこだけが妙に歪んでいて、光が差し込むたびに虹色の輪が浮かび上がった。


「あ!? なんだこれ!?」


「……これは」


 私は、それが何なのかすぐに気がついた。


『争い満ち、人々が己が道を失いし時。遠き地より、救世の者は降り立つ。


 その者、人々と共に立ち、人々と共に選びやがて新たなる世を導かん。


 そして人々、その者の役目は終えられたと定めし時。救世の者はその地を離れ、神域へと還らん。』



「…………私が、元いた世界」


 そして次に、ハルパト教司祭の……サルザさんの言葉を思い出した。


『私は聖典を疑っていません。ですが、人々の心が決定したものが、常に良い方向へと導くわけではないと思っています』


 そっか、サルザさん。


「ツクヴァル」


 やっぱり、死ぬということだけが「還る」というわけじゃ、なかったんですね。


「私さ、実は元の世界に対して言いたいことがさ……いっぱいあるんだよね」


 ツクヴァルが一瞬、キョトンとした後……大剣を持ち直して、ニヤリと笑った。


「へえ、じゃあ一旦里帰りするか?」


「俺も行くぜ」


 私が「うん」と返事をすると、ツクヴァルがその中へと足を踏み入れようとした。


「行こう、ツクヴァル」


「これからもずっと、冒険へ」


 そしてツクヴァルを引っ張り、軽くキスをした。


 ツクヴァルが一瞬、がくんと力が抜けたみたいに転びそうになったけど、直ぐに立て直して頭をボリボリとかいた。


「おうよ」


 私たちは、次の冒険へと行く。



 ………………。



 そこからは、本当に色々なことがあった。


 私が元いた世界へと戻り、食料の配給が上手くできなくて困っている人たちを沢山助けた。


 ……あとは、食料について担当している国の偉い人が、国民には腐りかけの食料を回して、自分たちは新しいものをせしめていたのを知って、そういうのに首を突っ込んだり。


 本当に色々あったが、何よりも嬉しかったのは。


『寛子!!』


『お父さん、お母さん!!』


 お父さんが、ちゃんと帰ってきてくれていたと知ったことだった。


 私たちは抱き合って泣いた。沢山泣いて、なんならツクヴァルもちょっと泣いていたように見えた。


 そうして、やりたいことを全部やり尽くして、私たちが満足した頃……


『あ、あの時の空間』


 私たちの前に、ツクヴァルの世界に戻るための空間が現れていた。


『ヒロコ、いいのか?』


 パルヤやローロラさんにも会いたかったし、今みんながどうなっているのかも知りたかった。だから私がその空間へと足を踏み入れようとした時、ツクヴァルがそう聞いてきた。


 だから私は、ピースして答えた。


『いーんです』


『私はやりたいことを、やりたいからね!』



 そうして私たちは、また帰ってきた。



 …………ここまで、上手くまとめられていたかな?


 伝記? 冒険譚? みたいなのを書いてくれって言われたから、ちょっといい感じにやってみたけど……パルヤとかローロラさんにその時のことを取材するのも、結構大変だったんだからね!


 ……ナルミアとオウガのことも、二人の日記があったおかげで書けて良かったかな。


 帰ってきてからもう結構バタバタしてたけど、この国は……最終的に、リーチェの娘の方が王になったらしい。


 最初はリーチェが国民から指示されていたけど、彼女はもう年齢が年齢だからと本人が話して……それなら、と娘が立候補して、信頼を得て最終的には決まったらしい。


 私たちがいない間にも、みんなは頑張ってくれていた。


 そしてヴィージの、リュウジョウはまだ会えていないけど……。


 ゲルヴィは、ヴィージは。戦争をすることを選ばなかった。

 だからまた、絶対に会えるはず。



 というかタイトルとか、全然決まってないんだけどどうしよう!


 んー……。


 ま、これにしとこっかな。



【異世界転移で栄養満点メシ!〜人は食わなきゃ生きてけない〜】



 これは食を愛し、休息を愛し、そして人生を愛する物語。

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