第三隻 1話 最強魔法使い、食費が高い
ここまで見てくださっている方、本当にありがとうございます!第三隻もぜひ楽しんでください。
………。
先日の作戦変更が効いたのか、依頼もポツポツと増えていきお金もある程度は安定してきた。
案外、堂々と聞くと嫌な顔をしながらも依頼を紹介してくれる町の人はいた。むしろ他の住民にはあまりバレたくない仕事をこちらが請け負って「助かったよ」と小声で言われることもあった。
「ギルド設立にはまだ遠いけどお金は少し集まった!!」
私の部屋で足を組みながら椅子に座っているツクヴァルがじろじろと机に置いてある紙を見ていた。
現在の所持金、15万G。
ギルド設立に必要な保証金、40万G。
「金も集まるもんだな」
お金は現時点で預けられるところがないので厳重に鍵をかけたカバンに詰め込んだ。その重さを確認するようにツクヴァルが持ち手を掴んで上下にぶらぶらさせている。
「ほんとにね、今こんだけあるなら家ももうちょっと拡張できるかも……」
「俺は別にあの広さでいいけどな」
「広さだけじゃなくて、寝るところももうちょい快適にしていいんじゃないのツクヴァルは」
「そうか?」
特に表情を変えず自分が座っている椅子を後ろや前にぐらぐら揺らして遊んでいる。「危ないよ」と言うとはいはいと返事しながらもその動きをやめた。
「依頼は色々やれるようになってきた、町の人からの視線はまだ少し痛いけど……それでも実績はちゃんとある」
今のところ、依頼のクリア率は100%だ。
8件請け負った中でこのクリア率なら十分すぎると言えるんじゃないか。
「じゃあこのままやっていけばいいんじゃね。上手くいってんならよ」
「……そうなんだけど」
私が言い淀むとツクヴァルが右に首を傾げ長い耳を垂らした。何か疑問がある時、ツクヴァルはこういう仕草をするんだと知ったのも最近である。
「そうなんだけど?」
「食費」
私が言うと「あー?」と返事をしながらうさぎの耳をひょこひょこと動かしていた。
「それまだ解決してなかったのか」
「あんまり、してない」
そうだ。
安い食堂に堂々と行けるようになったからといって、別にツクヴァルの食べる量が減るわけではない。むしろ遠慮しなくなった分、前よりも注文が増えているような気がするくらいだ。
私が頭を押さえて小さくため息をつくと、それを聞いたツクヴァルがまた腕を組んで訝しげな目を向けてきた。
「解決してねえんなら俺の飯の量減らしゃいいだろって前から……」
「ダメ、それはほんとにダメ」
首を振る。
私の最終目標は元の家に帰ることだ。
元の家に帰るためにこんなことしている場合じゃないのかもしれないけど、ここ数日の様子を見る限りやはり簡単に帰れる状況では無さそうだ。それなら、まずは安定した収入を得て、頼れる人をもう少し増やしていく必要があるのだが……。
(その前にこいつが死体漁りに戻ったらなんか、普通に嫌だし)
ツクヴァルに目を向けた。
ツクヴァルの食べる量が少なくなったらまた動きが鈍くなる、動きが鈍くなったら仕事をこなせなくなる。そしたらまた……元のような生活に戻ってしまうかもしれない。
「…………」
ツクヴァルが腕を組んだまま私を見て、
「お前さ」
声をかけてきた。
「なに?」
「お前ってなんか、飯食えなくなることに関して……すげえ焦るっていうか、放っとかなくなるよな」
「えー?」
ツクヴァルに言われ口を尖らせた。
「そりゃー食べられなくなるのがいちばんダメじゃん! 死ぬし!」
「いや……それはそうなんだけど……」
ツクヴァルが「うーん?」と唸り、まあいいかと呟いてそのまま組んだ腕を下ろした。
「私が自炊してもっとお金節約するとして、それでもほんっとに食べる量多いから……」
「あったら食っちまうんだよ」
良いことだ。良いことだがエンゲル係数は爆上がりだ。
「そもそもさぁ、その……ツクヴァルが一番お腹すいてるのって魔法とか使ったあとだよね」
「そりゃな。魔力使ったら腹減んだろ」
(エネルギーとして同じように働いてるのか……)
どうやらこの世界では、食事から得たエネルギーが、身体を動かすだけではなく魔力の回復にも関わっているらしい。
「魔力ってご飯食べたら回復すんの?」
「あと寝たら結構動けるようになるだろ」
(そういう感じか……)
身体の休息やエネルギー補給が魔力の運用に関わってくるらしい。理屈として飲み込みやすくて助かった。
「そもそもさ、私ツクヴァルの魔法のこと全然知らないんだけど……」
「あー……そういや説明してねえな」
「教えてくれない?」
ここで説明を受けたが、ツクヴァルの説明がまあヘッタクソだったので私が簡潔にまとめていく。
まずは跳躍魔法。私を抱えて逃げた時に使ったやつだ。
この魔法陣の色はピンク。どうやら使う魔法によって、展開される魔法陣の色も違うらしい。
空中にこれを出せば足場みたいに蹴って進むこともできる。つまり実質、空を走れるわけだ。ツクヴァルは「ラヴィなら訓練すれば普通にできる」と言いつつ若干ドヤ顔していた。
次に炎魔法。魔法陣は青色だ。
「普通に炎なんだ」
「バカ、他の奴らはこれ使うのにすげえ勉強とかしてんだぞ」
この世界では、火・風・水・土を操る魔法が特に重宝されているらしい。
使えるようになるだけでも相当な訓練が必要で、この四系統はまとめて『四大魔法』と呼ばれ、魔法使いとしての実力を測るひとつの指標にもなっているそうだ。それが青色として表れるらしい。
しかも、たいていの人が実践で使えるのはこの四つのうちどれか一系統だけ。
「どれかす使えればシカクシケンとかできるらしいからな」
「資格?」
「外暗くなった時に火ねえと景色見えねえだろ。錬金術師が作った提灯に魔力入れる仕事のやつとかいんだよ」
「待って錬金術師とかいんの!?」
また初耳の情報が出てきて驚いた。というか、外の街灯ってそういうシステムだったのか。その時のリアクションをいちいち説明していたら魔法の話が一生終わらないので割愛する。
次に、筋肉の増強魔法。魔法陣の色は緑と黄色らしい。右半身と左半身、それぞれに作用させるには別々の魔法陣が必要らしく全身をバランスよく強化したいなら、そのぶん偏りなく魔法のトレーニングをしないといけないみたいだ。
(なんか筋トレと似てる……)
大学の友達が、上半身ばっかり鍛えていたせいで「お尻だけ大きいままなんだけど!」と、わあわあ騒いでいたのをふと思い出した。この世界だともしかしたら右半身だけムキムキになれる人とかもいるのかもしれない。
【TIPS! 骨格筋は色調によって赤筋と白筋に分類されるよ! 赤筋はミオグロビンがたくさん含まれていて長時間の姿勢維持に必要な筋肉に多いよ!】
金色の魔法陣は拘束作用。シンプルだ。ファイアベアを動けないようにする時にこともなげに使っていたけど、多分これもめちゃくちゃ訓練しないとできないようなやつなのだろう。
問題は……最後だ。
「なんかさ……白くて銀色の魔法陣使ってたじゃん、この前クッキーの生地冷やした時とかおっきい剣持ってた時とか」
「あーあれか」
「あれなんなの、なんかめちゃくちゃ強そうだけど」
「あれは物をなんか前の状態に戻せんだよ」
「へえー強…………強っ!?!? 強くないそれ!?!?」
思わず身を乗り出してしまった。
「え、け、けどさ、氷って戻したら水にならない!?」
「時間調整すりゃいいだろ、あん時は10分前くらいにもどしゃ氷のまんまだろ」
「時間調整!?!?」
とんでもない言葉ばかりが出てくる。
時間調整?
好きなところまで、物の時間を巻き戻せるってこと?
口をあんぐり開けていると、また少し得意げになったツクヴァルが腕を組み胸を張った。
「ま、生き物以外なら5時間前くらいまで戻せんぞ。剣もすぐぶっ壊れるけど修理出さなくて良いから金かかんねえだろ」
「ち、ちなみに生き物以外なら何でも?」
「デケェのだと死ぬほど頑張んねえと戻せねえ。あと上級錬金術師が作ったもんだと対策されてることあんだよ」
「対策?」
「俺みてえな魔法で勝手にいじれねえようにな」
ああ、だからかと納得した。
ツクヴァルが、熊を一頭倒しただけで壊れかけるような剣を使っていた理由。
単に彼の力が強すぎるからだけじゃない。
上等な武器ほどこの魔法で元に戻せない可能性がある。だから壊れても戻せる安物を使った方が、ツクヴァルにとっては都合がいいのだ。
(でも死ぬほど頑張ったら大きいのも戻せるんだ……無理させちゃうけど建物の修理とかでめっちゃお金稼げるんじゃ……)
「ちなみに一日一回しか使えねえしデケェもん戻すとバカみてえに魔力食うからすぐ補給できねえと飢えて死ぬぞ」
「文字通り死ぬほどじゃんあぶねーー!!!」
私の欲のせいでこいつを飢え死にさせるところだった。
これが一通りの魔法の説明だ。
「はーあ……」
私は机に突っ伏していた。
「自炊は自炊でお肉が高い……いっそ狩りでもできれば……」
「狩り? あー昔やったな」
「へえーそうなんだ…………ん?」
ツクヴァルの顔を見た。
「…………」
「んだよ」
「最初から言えーーーー!!!」
こんなところで解決策が見えてきた。




