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2.証明

兄エリックが言うには、アナイスが他の令息と関係を持ったこと、そしてその令息曰くアナイスは奇形で子が産めない体だと言いふらしているというものだった。


「誰がそんなことを!神に誓って私は純潔です。それに私が奇形って······なんですか?婚約者とすらそんな関係を持っていないのに、なぜそんな出鱈目が広まるのですか?」


アナイスは悲鳴に近い苦悶の声を上げた。


「誰かの悪意からだとしても、これは酷すぎる」

「どうしてこんなことが······」


夜会での不躾な視線の原因はこれだったのだと、アナイスは慄然とした。


「噂が落ち着くまで、当分茶会や夜会には参加するなよ」

「もちろんです」


ジャンルイの耳にも既に入っているとしたらアナイスは血の気が引く思いがした。

アングラード侯爵家に知られたら、破談になってもおかしくはない。


アナイスは不安の淵に立たされ、この日の夜は一睡もできなかった。



三日後、アングラード侯爵家から結婚は白紙に戻して欲しいという打診を受けた。

ジャンルイ本人からも婚約破棄の詫び状が届けられた。


仮にアナイスの純潔が証明できたとしても、奇形などという噂が広まった令嬢は、傷物扱いなのだ。


この無礼千万な噂が何年後かに世間から消えても、その時はもう結婚適齢期は過ぎ、一度でもこのような傷物になったアナイスを誰も妻には欲しがる者はいないだろう。


婚約者に弁明させてもらう場もなく、破談となったアナイスはうちひしがれた。

婚約破棄をされてしまったら、あの噂が事実だと世間では余計に思われてしまうのが目に見えていたからだ。


自分の純潔の証明なんて、どうすればいいの?

それこそ結婚して証明するしかないのでは。


しかも奇形だなんて······、それもどうやってそうではないと証明できるの?


正常かどうかなんて誰にわかるの?


医者や誰かに見せなくてはならないのだとして、それで自分は正常だと皆にふれまわれというの?


それでも破談は覆ることはないだろう。アナイスは途方に暮れるしかない。

結婚するのは絶望的だ。


アナイスの父は、娘の純潔を信じてはいたが、家族の主張や擁護など信用に欠けると一蹴されるだけだから、神官立ち会いの下、純潔の検査を受けろと言い出した。

アナイスはそれを拒否した。


「聖女の認定をするためでも無いのに、神官に自分の局部を見られるなんて嫌です!それに純潔が証明できても、今さら破談は覆りません」

「お前はそれで悔しくないのか?」

「悔しいに決まっています!でもそこまで言うのでしたら噂を言い出した人を見つけて来て下さい。私は被害者なのですよ、なぜ私がこんな目に遭わないとならないのですか!?」


アナイスは人生で初めて号泣した。


「貴族は体面が命だ。こんな辱しめに屈するわけにはいかない。不名誉はなんとしてでも払拭するのだ」

「······お父様は私にどうしろと言うのです?このまま修道院にでも行けば良いのですか?」

「純潔検査を受けて証明書をもらいなさい。それがあれば多くを求めさえしなければ嫁には出せる」


純潔証明書を相手に見せないと嫁げないなんて、なんて不利なのだろうか。


こんなの理不尽過ぎる。私は商品ではないわ。


殿方は独身でも既婚でもやりたい放題なのに、女性ばかりが不公平だ。

未婚女性を誘惑する男性がいるから、純潔を失うのであって、それは男性のせいでもあると言うのに。

自分は遊ぶのに、自分の妻には純潔を求めるなんて身勝手にも程がある。


しかも私は純潔なのに、こんな根も葉もない噂で人生を狂わせられるなんて。


一体誰がこんな噂を流したのだろう。


まさか私を破談にさせるためにわざと流したの?


アナイスは激しい怒りに震えた。


「いいか、お前は純潔検査を受けるんだ!」

「嫌です!」

「これ以上恥を晒すなら、いっそ死んでくれ!」

「あなた、なんてことを!」


あまりの言い様にアナイスの母が夫を止めに入った。


「······お母様、こんなことになってごめんなさい」

「あなたのせいではないわ」


母はアナイスの肩を優しく抱いた。


「お前は黙っていろ!」


父は激昂した。金髪を振り乱し緑の瞳で娘を睨みつけた。


「アナイス、お前に隙があるからこんな噂を流されるのだぞ!」

「······!」


アナイスは唇をわななかせて、両手の拳を固く握り締めた。


「もうお止めください」


母のとりなしでこの場は収まったが、アナイスは力なく自室へ引き揚げた。



アナイスは少しして落ち着くと、そうだその手があったのだと覚悟を決めると、憔悴していた顔に淡く笑みを浮かべた。

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