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物語のかけらを集めて  作者: 駒野沙月


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10/15

その幽霊は旅をする

「こんばんわ、人間くん」


深夜二時、無駄に綺麗な歌声で叩き起こされる。どこか懐かしいメロディの響くベランダには、彼がいた。

未だ明かりの灯る都会の景色でも眺めていたのだろうか。細く頼りない手すりに腰掛けていた奴は、こちらを振り返ると、これまた無駄に綺麗な顔に笑みを浮かべていた。


「久しぶりだねえ。いつぶり?」

「……もう半年になるか」

「あ、ほんと? 時の流れは早いねえ」

「お前にゃ時間も大して関係ないだろうけどな」


奴らしいふわふわした口調で紡がれる、大した意味も内容もない会話。

そんなふわふわした会話に、深夜の騒音に怒る気力どころか、先程まで確かにあったはずの眠気すら削がれていくのを感じる。


「……にしてもお前、今回は随分長かったな」


とりあえず立ち話も何だから、というか寒いからと奴を部屋の中へと招き入れる。嬉しそうに後をついてきたこいつは適当に座らせて、自分はベッドの上に座った。

それにしても、相変わらず変な所で律儀な奴である。やろうと思えば、勝手に入ってくることだってできるというのに。


「まあ色々あってね。今回も聞いてくれる?」

「どうせ嫌だっつっても話すんだろ」


《《旅をする幽霊》》。

初めて出会った時、こいつは自身をそう称した。


そんな言葉の通り、この男は普段世界各地を飛び回って過ごしているのだという。誰にも何にも、時間や空間にさえも縛られずに、行きたい時に行きたい場所へ行き、見たいものを見るという、なんとも自由な旅がこいつの日常なのだそうだ。


しかし、彼曰く、そんな気ままな暮らしにも時々話し相手が欲しくなるのだという。

そこで俺の元へやって来るのはよく分からないが、とにかくこいつはふらっと俺の元を訪れては旅先の思い出話を語り、話が終わればふらっと去って行く。そんな習慣が、初めて出会った時から今まで続いている。


今日もまた、気まぐれな彼がたくさんの土産話と思い出を抱えてやって来たわけだ。


「……なんか嬉しそうだね?」

「別に」

「うそだあ」

「うるせえ。つか早く話せよ、こちとら疲れてんだから」


わがままでマイペースで、俺よりずっと長生きしているはずなのになぜか世間知らずで、おまけにこの世のものですらない。

本当におかしな縁だし、困った男だと思う。とんでもない時間に訪ねてくるし。




そんな奇妙な友人(人ではない)だけれど。


その訪問を秘かに心待ちにしているということは、俺だけの秘密にしておこう。

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