表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/62

13-01.こちらが招いていない以上、客ではない



それからさらにしばらくした後の話だ。

三匹がまた、尋常ではない吠え方をしたので慌てて地下室に逃げ込んだ。

今度は三匹とも一緒に入り込んでくる。


ムムが一緒に入って来なかったのはあの時だけで、やはりあの日はたまたま機嫌でも悪かったんだろうか。


みんなと一緒に地下室に逃げ込んでじっとしていると、唐突に声が聞こえてくるのに焦った。

人の声である。


近い。近い気がする!

心臓に悪い!というかなんでこんなに聞こえるんだ!?


ここまで聞こえるとなると、こちらの声も届いてしまうのではないだろうか。


心臓をバクバクさせながらも、うっかり声が漏れないように両手で口を塞いだ。


『広いですね…温室ですかね』


うわぁ、と思ってしまう。青色騎士団の副団長の声だった。

心臓の音が聞こえそうなぐらい大きくなり、怖くなる。


見つかりませんように。

怖い。めっちゃ怖い。


たとえ青騎士団の人だとしても、招いていない以上、客ではない。

むしろ来んな。


オレンジ騎士団はこんな奥地まで辿り着けなかったのに、どうして青騎士団は簡単に辿り着いたのだろうか。

実力の差か?

けれどそんなに対した違いはないような…と考えて、気づいてしまった。


あれだ。

幸運のせいだ。


青騎士団とは結構関わってしまっているので、騎士団員の肩には大抵、大なり小なりの小さな幸運の光がついてしまっている。

幸運のせいで魔物に遭遇せず、ここまで辿り着いてしまったのだろう。


(私のバカ…!)


こうやって幸運は、私の望まない方向に結果を出してくる。

相手の望む幸運なのだからこうなるのだ。


聞いているうちに、声の届き方が少しおかしくないだろうか、と気づいた。


私がいるのは地下室だ。

そもそもこんなにも鮮明に聞こえるものだろうか。


そうしてようやく、この声が魔法具の「封印」を通して聞こえているものだと気が付いた。


(え、そういう…?)


封印が、半径何メートルか知らないけれど、それなりの声を拾って届けてくれているのだ。

だから聞こえている。


『こんな場所に温室か…?』


まさかの団長の声もする。

怪訝そうな声である。

団員揃ってホント、何しに来たんだこいつら。


考えて、そういえば、と思い出す。


巨大型の魔物を探しに行くとかクスタさんが言っていた気がする。

今日がその日なのか。


あまりにも来ないので、すっかり忘れていたのだ。

準備に時間がかかりすぎだろう。

いや、それだけ念入りに準備しないと本来は危険だということだろうか。


気軽に行き来しているので忘れがちである。


『いませんね』


いませんよ!と心の中で返したが、違った。


『巨大型の魔物には遭遇しなかったな…』


探しているのは魔物だった。そりゃそうか。

まさか私がこんなところに居るとは思うまい。


『しかし妙なところだな』

『団長!』

『なんだ』

『畑っぽいものがあります』

『畑ぇ?』


畑が見つかった、やばい!


焦っていると、しばらくして諦めたような声が聞こえてくる。


『形跡はないな』

『ないですね…』

『調査終了だ。帰るか』


あっさりと帰ってもらえたのでホッとした。

しかし油断は禁物である。温室の存在がバレてしまった。

これは早急に手を打つべきである。


(魔道具、探しに行こう)


いつもは納品帰りしか行かないが、明日にでも行ってこよう。怖すぎる。


お金と筋力増強剤をしっかりと準備した。




*-------------------*




今回は納品をしないのでこっそりと隠蔽魔法で町に入り込んだ。

自分がこんなことを出来るのだ。

他にもこっそり入り込んでいる奴、意外に多いんじゃないだろうか。

治安が不安だ。


入り口から魔道具屋に一直線である。


目的は封印の魔法具だ。

小さなものから幅広くあるのだが、一つずつタイプが違うのである。

家のように扉を封印すれば問題なければ良いが、範囲を特定できないものだと使い方も難しくなる。


店の近くまで来て、物陰で隠蔽魔法を解いた。

人目のあるところでいきなり現れたら不審者すぎるからだ。


中に入ると、いつもの店主がいた。

この人がまた商売気のない人で、こちらから話しかけないとまったく薦めてこない。

それは自分にとって助かるけれど、話しかけないといけない。


何度も通っているうちにさすがに慣れたけど。


「外壁はないけど骨格がある場合には使えないんですか」

「使えるけれどその外壁分、魔力が必要になるな」


結構親しくなったと思う。


尋ねれば、親に頼まれて買い物に来る子ども相手にもそれなりに優しく接してくれる。

良い人だと思っている。だからだろう。

肩に少し光が出始めているのが見えている。


「張りたい時だけ発動する、遠隔操作とかはできますか」

「できるが、魔力次第だな。ベビーベッドとかによく使われるな」


なるほど。ベビーベッドは骨格しかない。

けれど赤ちゃんの脱走防止で必要な時だけ発動する。

脱走しようとしているのかは知らないが。


なので状態維持はついていないらしい。

あくまでも干渉防止だそうだ。


「脱走だけじゃなくて、外敵からも防ぐんですか?」

「そう。逃げる子ばかりじゃないからな。人攫いだってありうるだろう」


ベビーカーなどで外に連れ出した場合にも使えるらしい。その場合、ベビーカーごと誘拐されないんだろうか。


「それって脱走したり、誘拐されそうになったりすると発動するんですか」

「その手のタイプは薄く膜を張らないといけないから常時魔力を消費するな。どっちかというと、親御さんが目を離さないと行けない時に張るっていう感じだ」


いちいち近寄って発動するのが大変なので遠隔操作ができるようになっているらしい。


「範囲は魔力次第なんですか」

「そうだ。この骨格の範囲、と記憶させれば張れる」


素晴らしい、エクセレント!

ベビーベッド用の脱走防止策、素晴らしい!


「これください」

「あいよ。なんだ嬢ちゃん、妹か弟ができるのか?」


ベビーベッド用だと思い込んでいる相手に曖昧に笑っておく。「そいつは楽しみだな」と告げられた。


「またごひいきに」


欲しいものは手に入った。

あとは起動できるか確認するだけである。

と思って帰ろうとしたのだが。


まったくもってこんな時に。

いや逆か。納品時は気をつけているのだけれど、今日は欲しいものが買えて浮かれてしまっていたせいだろう。


帰り際に、にこにこした…黒いもやに囲まれた、おっさん連中に絡まれた。

絶対にダメなタイプの奴だろう。


「いやぁお嬢ちゃん、可愛いねぇ」


キモすぎる。笑っているけれど、目は笑っていないのがわかる。

この場合どうしたらいいだろうか。

人攫いだろうか。どう対応すべきだろうか。


「お買い物かな?お母さんはどうしたのかな?」

「母ならそこで待っています」


敢えて大人の口調で言い返すと男は少し意外そうな顔をしている。


「しっかりものだねぇ。でも君がいつも独りで来ているのは知っているんだよ」


どうやら目を付けられていたらしい。

今後はますます気をつけなければいけない。


「今日は何のお買い物だね?お金は沢山持っているのかな」


あ、盗賊の方だった。お金目当てか。

まだホッとしてしまう。

幸運関係の人攫いよりは幾分かマシだった。


「もう買い終わったのであんまり持っていません」

「そう。では買ったものも全部置いていってもらおうか」


魔道具屋から出てきたので魔道具を持っているだろうと推測されているのはわかった。

魔道具、それなりに高いもんな。


だから最初、店主も私が一人で大金を持ってお使いに来ている事に目を丸くしていた。

いや、お使いじゃないんだけど、そういう事にしてあるわけで。


こういうやつら、面倒クセェー…本当に。


ため息をつき、くるっと相手に背を向けて走り出す。

そんな事をするとは思わなかったらしい。すぐに追いかけて来るのはわかった。


「逃すか!」


肩を掴まれたが、その時にはもうポケットに入れてある筋力増強剤の瓶を口にくわえていた。

少量でも効くのだ。

効果時間の問題なだけで、少しでも口に入ればいいのである。


液体を飲みこみ、相手の手を振り払う。

そこそこ力を入れていたので、まさか幼女に振り払われるとは思ってもみなかったのだろう。

驚いている隙に、猛ダッシュである。


「なっ!?」


さらに驚いた声が聞こえるが一瞬で遠ざかった。


遠ざかったのを確認し、裏路地に入って隠蔽魔法をかける。これで周囲から見えなくなったはずである。


もちろんこのまま帰宅である。


(なんか面倒なのが増えた…)


さっさと帰って封印の準備をしよう。そうしよう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ