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12-04.居留守は常套手段です



帰ってから警戒していたけれど、誰も来なかった。

ここ結構奥まっているからな…魔の森の奥地である。


あれから考えたのだけれど、封印、やっぱり温室全体にかけた方がいいのではないだろうか。

臆病者の考え方だけれど怖いものは怖い。


騎士なんていう、体格の良いでっかい大人達が束で掛かってきたら、私なんて抵抗なんかできないだろう。

それは嫌だ。

あいつらの手の届かない範囲にいたい。


範囲が広すぎるので魔力が不安だと思っていたが、考えてみたら自分で魔力回復薬を作れるのだから、飲み放題である。

魔力が足りないのであればあいつらが来ている間だけ、回復薬を飲みながら封印すればいいのである。


(…魔法具、今度買いに行こう)


今日も地下室で静かに回復薬作りである。

篭るのはいいのだが、食事がな…さすがに地下室で調理は厳しいので、作り置きと先日買いこんだものを食べている。


状態維持ってすごいと思う。

腐らないってすごくね?

そういや監禁されていた時も、ずっと放置していたものを後で食べたりしていたけれど、なんともなかったな、と思い出す。


そのせいで物をすぐに食べるという感覚がなく、前世では食べるのを忘れがちで、気づいたら賞味期限とか過ぎている事が多かったな、とかどうでもいい事を思い出した。

なるほど、これの弊害か。




一日一度は外に出ている。日光浴も兼ねて。

あと水浴びは外じゃないと無理だからだ。


浄化魔法があるのでそんなに苦痛ではないけれど、どうにも水浴びをしたい気分の時がある。

毎日風呂に入る、という考えも前世的な弊害だろうか。


あとできればトイレも別が良い。

地下室は一室しかないので…浄化魔法や浄化石があったとしても気分的な問題である。

隠れている時は仕方がないにしても、だ。


回復薬を重点的に作成し始めた為、採り貯めていた薬草に不足が出てきた。

さすがにそうなるだろう。


採りに行こうと籠を持ち、地下室から出たところだった。

三匹が突如姿を現し、吠え始めたのである。


(え、なに)


魔物が来た時と同じである。これはヤバそうだ。

慌てて地下室に引き返し、三匹に声をかける。


「来る?」


メメとモモはすぐに入ってきた。けれどムムが動かない。


「ムム?」


彼はふい、と顔を背けて走り出してしまう。


(えっ、嫌われた…!?)


ショックだった。あまりの事に固まってしまう。


何かしてしまっていただろうか。

三匹平等に構っていたつもりだったけれど、ムムだけのけ者にしてしまっていただろうか。

ご飯も同じぐらいずつあげたつもりだったけれど、男の子一匹だったから、足りなかったのだろうか。


そんな私の服に噛み付いて、メメとモモが引っ張ってくる。意外に力が強く、地下室内に転がり込んだ。


「ぃってて…」


扉が閉じると封印は勝手に起動する。そういう魔法具だ。

自動ロックの金庫みたいなものである。


ムムに嫌われたショックで動けないでいると、膝の上に二匹が足をかけてくる。可愛い。


あれか、ムムだけ男の子なので反抗期とか。


(魔物に反抗期なんてあるんだろうか…)


というか彼らとは別に家族じゃない。

ご飯も毎日あげているわけじゃないし、ふらりと気が向いたら遊びに来る友達ぐらいの関係だ。


だとしても呆然としてしまう。

かなりショックだった。本当に。



*




どれぐらい時間が経過しただろうか。


不安で緊張していたのだが、メメとモモが無防備に寝始めたのを見ているうちにつられたというか、気疲れしていたようで、知らぬ間に眠ってしまったらしい。


一緒に眠っていたはずの二匹に踏まれて起こされた。

足を顔に何度も押し付けられたのである。


大変賢い子達なので、お腹がすいても勝手に物を漁ったりはしない。

ちゃんと私を起こして、出すように要求してくるのである。


「お腹すいた…?なにか出そうか」


そんな事を口にしたのだが。入り口からカリカリと、いつもの音に気がついた。


「!」


慌てて地下の入り口を開けると、ムムが覗き込んでいた。


「ムム!」


彼はひょい、と地下室に入り込んでくる。

どうやら嫌われたわけではなさそうだ。

それだけで嬉しくなる自分は現金だと思う。


「お腹すいた?ムムも食べる?」


ご飯を出すと三匹ともがっついて食べる。

その後、満足すると勝手に膝の上に乗ってくる。


(嫌われた…わけではなさそう?)


何か用事でもあったのだろうか。

とりあえず膝の上に乗られてしまったので動けなくなったので、毛並みを撫でて堪能する事にした。




しばらくすると三匹が外に出たがったので、警戒しながら入り口を開けた。

静かだった。


何かあったのだろうか。

けれど彼らが警戒したのだからきっと、何かあったのだろう。

もしかしたらまた、巨大型の魔物が通ったのかもしれない。地響きはしなかったけどね。


それっきり、その出来事は忘れてしまった。


周囲には魔物がいるので、また同じことがあるかもしれないけれど、気にしていても仕方がないのだ。



*


 

それが何だったのかを知ったのは数日後。

次の納品の時だった。


騎士団が妙にバタバタしていたのである。


「魔の森に巨大型の魔物が出たらしいんだよね」


クスタさんが教えてくれた。


「オレンジの奴らが魔の森に踏み込んだらしいんだけど、撃退されて帰ってきたらしくて」


それってアレですか、私を探して引きずり出すとか言っていた…。

クスタさんは目的までは知らないのか。


「巨大型の魔物に遭遇したらしい」


準備はしていただろうが、目的は討伐ではなく捜索である。

迂闊に踏み込んだ彼らは大怪我をして帰ってきたそうな。

かなりのダメージらしい。


「で、私らも討伐に行く事になりそうで」


その準備に追われているという。


「そうですか」


地響きはしていなかったけれど、どこで出たのだろうか。


以前、地響きがした時に隠れた覚えがあるけれど、あれももう随分前の話である。

いままで、そいつはどこにいたのだろうか。


よくよく確認すると、ムムに嫌われたと思ったあの日のことだった。

一匹だけ入って来なかった日だ。

外で遭遇はしなかったのだろう。彼が無事だったことに安堵する。


「気をつけるんだよ。本当に」


心底心配しているという表情で頭を撫でられる。いい人だと思う。


彼女の肩の光は相変わらずキラキラしているけれど、彼女自身には影響がなさそうなのが嬉しい。


「はい」


オレンジ騎士団員は、探しに来ておいて魔物に遭遇したのか。

馬鹿な人達だ、と。


そんな事を考えたのだが、実際は違っている事をこの時はまだ、知らなかった。




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