12-03.居留守は常套手段です
買い物をして、途中、隠蔽をかけてこっそりと町を出た。
帰ったらすぐに色々片付けよう。
隠蔽魔法を使えなかった頃に後をつけられている可能性はあるだろうし。
温室までバレているかはわからないけれど、しばらく隠れた方がいいだろう。
隠れるのは苦にならない。平穏を崩される方が嫌だ。
せっかく静かな気持ちで暮らしていたのに。
温室内の畑の食料と薬草を地下室に持ち込んだ。
封印をするようになってから、必要な物は持って出るスタイルにしていたが、やはり外に置いておくと便利なものはそのままにしがちである。
ちょっと気をつけて片付けるようにしなければ。
地下に引きこもる生活をしはじめて気づいた事があった。
封印の中にあると食料の状態が維持されるのだ。
腐らないのである。
(マジか)
収穫してここに溜め込むのはありなのか。引きこもりもありか。
(回復薬、しばらくここで作ろうかな…)
周囲を警戒するのが面倒くさい。
温室全体を封印できたら良いのだろうけれど、広すぎて無理なのはわかっている。
それに、状態維持になってしまうなら、薬草や野菜は育たないかもしれないだろう。
それは困る。
しばらく引き篭もるようになると時々、地下室の入り口をカリカリと引っかく音が聞こえるようになった。
犯人は三匹だった。
引き篭もったので心配されたのだろうか。
それはちょっと嬉しい。
動物は成長が早いが、魔物は成長しないのだろうか。
出会ってから三匹はずっとちっこいままである。
可愛いので眼福だけれど。
「入りたかったらおいで」
時々遊びに来て、地下室内を走り回ってじゃれて、好きな時にまた出て行く。
癒される。本当に。
穏やかな気持ちでいられる幸せな時間である。
そういや副団長、怖かったな。嫌な感じがした。
もしかしたらヤバイ方向に傾いているのかもしれない。
肩についていた幸福が鈍く光っていたのは、やはり黒いもやがかかっていたせいな気がする。
黒いもやは確実に何か悪い前触れだろう。
終始怖い顔をした、頭が回りすぎる人は好きではない。子どもだと馬鹿にして罠にかけようとしてくるタイプが多いからだ。
感情度合いならばクスタさんが騎士団内トップである。
頼れるお姉さんだ。
けれど彼女は幸運についてあまり気にしない方みたいで影響が少なさそうなありがたい人だった。
訓練中の怪我が減ったという話は聞いたけれど、そもそも少しおっちょこちょいらしいので生傷が絶えないらしい。それは幸運とは関係がない気がする。
青騎士団的には、回復薬が順調に納品されている為、依頼をこなすのが楽になったそうだ。
上手に使ってくれればありがたい話である。
そのせいとは言えない気がするが、最近は青騎士団の活躍が目立つようになってしまったらしい。
それをオレンジ騎士団がやっかんだらしく、回復薬の話が漏れ、先日のような話になったそうだ。
クスタさんから聞いた話である。
*
あれから一度、納品しに行ったけれど副団長とは会わずに済んだ。
代わりに団長が居たので納品数を増やす話はお断りしたいと告げると不思議そうな顔をされた。
「まだストックは充分なはずだ。そこまで沢山は必要ないんだが…」
備蓄倉庫にも当然制限がある。
にもかかわらずの追加要望には、嫌な予感しかしない。
「それよりも帰り、気をつけろよ。クスタをつけてはいるが…あいつも一応、女だから嘗められやすい。他にも護衛つけるか?」
オレンジ騎士団の話だろう。
護衛追加は丁重にお断りをしておいた。
クスタさん以外となると男の人になるので話し難い内容もある。
それにクスタさんの方が包み隠さず話してくれるのだ。
幼女相手だからといってちょっと口が軽い気もするけれど私にはありがたい人である。
「隣町が少しピリピリしているらしい」
彼女曰く、オレンジ騎士団が最近、何かしているらしい。
こちらにも粉をかけに来ているぐらいなのだから相当なのだろう。
「本当に気をつけるようにな」
私が隠れ住んでいることが、なぜか騎士団内に広まってしまったらしい。
間違いなくあの野郎だな、と副団長を思い出す。
あいつ口が軽すぎだろう。嫌いになりかけている。
(隣町…)
少し、見に行ってみようか。
隠蔽魔法を使用して隣町の入り口を通過する。
確かにオレンジ騎士団員達がわらわらと忙しなく動いていた。
どうやらどこかに出かけるようだ。しかも相当数で。
「準備はできたか?」
「魔の森に入るって、何しに行くんだよ?」
討伐じゃないんだろ、とボヤく声がする。
え、大人数で魔の森に入るのか。珍しい。
通常、依頼が入っても二~三名が基本の護衛人数である。
それ以上だと高くつくのでなかなか手は出し難い。
いくら希少アイテムが入手できるといっても確実ではないし、売れるものが手に入るかどうかはその時による為、経費はできるだけ抑えたいと思うのが普通だろう。
「そもそも誰の依頼だよ。こんな大人数で…俺、なんも聞いてねぇんだけど」
「犯罪者一家が隠れ住んでいるらしいぞ。探索らしい」
「その為にわざわざ魔の森に捜索に行くってのか?そんな凶悪犯なのか?」
魔の森に逃げ込んだ相手を探さなければならないほど、相手が重要人物かどうかと疑問を抱く者もいるようである。
そりゃそうだ。
ただの探索だとしても魔の森相手では命に関わってくるからだ。
「もう魔物に食われて死んでんじゃねーの」
「だよなぁ」
それってたぶん、私のことですよね?
ウチを探しに行くんですよね?こんな大人数で?
遠い目になる。
え、あぶり出しの為に騎士団が動いているわけですか。
それはそれは。
来んな。来るんじゃねぇ!と叫びたい。
他の声も聞こえてくる。
「なんかアレらしいぞ。青騎士団の専属薬師一家を引きずり出すらしい」
「めちゃくちゃ良く効く回復薬作ってるってアレか?」
「うちと専属契約させる為に襲撃すんのか?意味わかんねぇんだけど」
「そいつらって魔の森に住んでるのか?あんなとこに住んでるなんて、ヤベェ奴なんじゃねーの?」
情報がバラバラなんですが、どうなっているんですか。
あとオレンジ騎士さん達にもちょっとはまともな人が居てくれて幸いです。
私としてはさっさと帰って隠れるが正解だと思います。
帰ります。
やっぱりしばらくの間、地下室からは出ないでいようと思います。




